サンディエゴからの手紙 ~祖母の手紙より~ その一
終戦後にアメリカ人と結婚して渡米した祖母が大伯母に宛てた手紙のうちの一通です。
私の母が生まれたのは日本なので、そのあとの母が小学生くらいの時の話になります。
原文になるだけ近い形でデータ化しましたので、読みづらいかもしれません。それから、人種差別的な記述もありますが、訂正しないで掲載させていただきました。どうかお気を悪くされる方がいませんようにと願います。
井上深海
1956年4月11日付けのエアメールより全文
四月六日出のお便り一昨日いただきました。いつもいつもほんとうにありがとうございます。
相変わらずお元気の御様子で、ほんとうに安心しました。それに子供達もおばあちゃんも、元気ですっかり安心しました。私もおかげさまで、どうやら今日あたりからやっと元気になりました。とてもとてもしつこい風邪で、ほんとうに今度はびっくりしました。日本だったらバイシリンですか、あれ一つ飲めば一夜でなほるんですのに、此の国ときたら、お話になりません。せいぜいアナヒスト位ですが、のどのいたいのなんぞ、やっぱりペニシリンでないとなほりませんね。
ところが、ペニシリンは医者の証明なしで売りませんし、医者に一度見て貰ふだけで、八ドルから十ドルすっとんでしまふとの話なので、とうとうよしました。
それでもどうやらなほりましたものの、しみじみとおそろしさが、身にしみましたね。いくら私がのんきでも、こんな所でしんではばかばかしい。第一浮かばれませんよ。
うちのデコ助は今、ハワイにいますが、今月いっぱい位で帰るさうです。今朝の手紙では、先日ころんで頭を切ったとか云ってきましたが。ころんだものやら、飲んでお茶屋でけんかをしたものやらわかりません。とにかく此の国の人間位やばん人はないでせうね。毎日毎晩、なぐりあひ、切りあひの街で、一度や二度、見ないことはありません。でも、日本人のはまだ一度も見ません。日本人が一番上等と云ふことになりますね。それにも一つ、街でもどこでも犬がいないこと。絶対に犬ははなしてありませんし、うちのおばあちゃんや義之にはいいところでしょうと云っていつも笑ひます。だって犬が一番きらひですもの。
四月十一日夜
ゆふべ夜の番で、今日は一日お休みでしたが、どこへも出ませんでした。
夕方から、日本人の女の人が主人と二人で遊びにきてくれて、今しがた帰りました。この頃、此所はとても寒いです。一月二月頃よりもっともっと寒い風が吹いています。
一人でぼそぼそ御飯をかんでもおいしくありません。一度たくと三日位あるのでいやになります。早く早く帰って、みんなと一所においしい御飯がたべたいナア。おすしもたべたいと思っています。中とろのにぎりをね。
日本人のおじさんやおばさんがよくおすしを下さいますが、支那料理屋のおすしなんてたべる気になりませんものね。日本のも一軒ありますが、まずくてまずくてお金がおしいですわ。
ではもう夜もしづかになりました。東京は昼でせうね。
どうぞ御体くれぐれ御大切になさいませ。皆様によろしく。 とも子
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