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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第29話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 月末の二十九日、俺は二回目の妊婦健診を受けた。ちょうど妊娠十二週を迎え、数日前からつわりの症状も殆ど無くなって体調は結構良かった。
「あ、よく見えてますね、ラッキー。外性器は男性器のみですね」
 エコー画面を見ながら医師がそう言って、俺は思わず「マジ!?」と叫んだ。つまり、オメガではないということだ。
「女性アルファの可能性もありますよね?」
 診察台の傍らの椅子に掛けていた京一郎が身を乗り出して聞くと、医師は「そうですね」と答えたから俺は「なるほど、そうだよな」と言った。

 帰り道、貰ったエコー写真を眺めながら「やったぜ」と呟いたら、京一郎が「何がだ?」と聞いた。
「オメガじゃなくて良かった! 色色苦労するからな」
「……確かにそうだが、俺はオメガでも良かったぞ」
「へ? 何でや」
「オメガだって悪いことばかりではない。何しろ、ベータと違って運命の番と出会える可能性があるからな」
「それならアルファが一番良いじゃん!」
「まあそうだが」
「なんかムカつく!」
 俺は口ではそう言ったが、確かにオメガはある意味恵まれているよな、と思った。俺みたいに金持ちアルファと運命の番だったら、ほぼ問答無用で何不自由ない生活が約束される。
 しかし、実際は滅多に運命の番には出会えないし、辛いヒートのあるオメガが社会的弱者なのに変わりはない。
「今日は二十九日で肉の日だから、肉を食べましょうよ、京一郎さん」
「何だその口調は」
 性別の話は横に置いてふざけた口調で提案したら、京一郎は眉を寄せてそう言った。けれどもすぐに「ではこれから肉屋に行くか」と言って乗ってきた。
「今夜は和牛で焼肉だー!」
 今は枯れているクローバーを踏みながらそう叫んだら、京一郎はボソッと「和牛確定なのか……」と呟いた……。

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