【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第30話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
十二月になり、最初の一週間が過ぎようとしていた。
今日は月曜で、俺は妊娠十三週になった。つわりで殆ど食べられなかったのが嘘のように食欲が戻って、今もリビングのソファに引っくり返ってかっぺえびせんをぼりぼり頬張っていた。
「余りにも行儀が悪過ぎる……」
二階のベランダに洗濯物を干して来た京一郎が通り掛かって、俺を見ると呆れ顔でそう呟いた。それに口を尖らせて叫ぶ。
「良いじゃんか! かっぺえびせんは正義だぞ!」
「かっぺえびせんが正義かどうかは問題じゃない。せめてちゃんと座って食べれば良いのに」
やれやれと首を横に振りながらそう言われて、俺はむくりと起き上がると「これで良いかよ」と言って口をへの字に結んだ。
「あ、そういや一本要る?」
京一郎にも分けてあげなくては、と思ってそう聞くと、「手が汚れるから気持ちだけ貰っておく」と言ったから「ふーん」と相槌を打つ。すると、空になった洗濯籠を持って脱衣所の方へ行った。
俺はそれを見送ると、少し膨らみはじめた腹をそっと撫でた。いつもだぼだぼのパーカーを着ているからまだ妊夫と気付かれたことはない。
今日の昼食は、久しぶりにカレーだった。俺が何でも食べられるようになったから、京一郎は献立の選択肢が増えたと喜んでいる。
「うーん、やっぱりメシウマですなあ、京一郎さんは」
「この程度で喜んでくれるなら……」
「本当は新鮮な生卵を割り入れると最高に美味いんだけどなあ……」
京一郎の言葉を遮ってそう言うと、彼は眉を寄せて「駄目だぞ」と言ったので「分かってるよ!」と叫ぶ。それから漬物入れに手を伸ばし、福神漬けを白米の上に山盛りにした。
にこにこしながら咀嚼している俺をじっと見ていた京一郎がボソッと言う。
「最近、ちょっとふっくらしてきたか……?」
「えっ」
聞き捨てならない言葉に目を見開いたら、京一郎は「いや、別に構わないんだが」と言って続ける。
「俺はふっくらしているのも好きだ」
「別に京一郎が好きとか関係ねーから! 今度病院行ったら何か言われるかな……」
体重を増やし過ぎないように言われているから、次に病院へ行くのが怖くなった。すると京一郎が慌てたように言った。
「間違ってもダイエットなんかするんじゃないぞ。食べ過ぎないよう少し気を付ければ良いだけだ」
「ふーん。じゃあカレーお代わりしちゃおっかな」
「ええ……」
ドン引きしている京一郎を無視して、俺は鼻歌を歌いながら二杯目を装いに行った……。
次のお話はこちら↓
前のお話はこちら↓
いつもご支援本当にありがとうございます。お陰様で書き続けられます。