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「虚航船団」第3章の疾走感と崩壊感。

 第3章は、第1章と第2章の溜めを爆発させるような勢いで進行する。
 具体的には、場面と時間が頻繁に転換するのだが、その数とスピードが尋常ではない。第1章で紹介された文具たちが12個の分隊を組み、イタチの惑星に侵攻していく。最初にはオオカマキリたちの自爆攻撃もある。一方、攻撃される側のイタチたちの生活と闘争も描かれる。これらが複数の時間に分割されるわけだから、シーン数は途方もない。
 段落ごとに時空が切り替わるくらいならまだわかりやすいが、途中からは同じ段落の中で異なる時空が描かれることになる。作者の近況やいままさに書いている途中に起きている出来事などが挿入される。かつてあったいやなことも想起され、それらがわーっと描かれるので、読者の頭はいやおうなしに混乱する。それでもぐいぐい読まされる。そう。まさに読まされるという感じの虚構だ。
 たくさんの死が描かれる。イタチが死ぬ。文具も死ぬ。文具が喰われて死ぬというのは想像しがたい光景だ。
 読み終わったいま、もう再読したい気分になっている。

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