見出し画像

【ショートショート】極上のスイーツ

 フルーツサンドイッチを売り物にしているカフェに行ってきた。
 開店一時間前から並び、記名ボードに記入しないと、フルーツサンドイッチは食べられない。ずいぶん少量しか作らないようだ。
 使われるのは四季折々の果物。
 今日はシャインマスカットの2種のぶどうのフルーツサンドといちじく&和梨(幸水)のフルーツサンドを頼む。
 運ばれてきたサンドイッチはクリームと果物でぱんぱんに膨れている。シャインマスカットの切り口は見事なまでにまっぷたつ。白いクリームに緑のマスカットが映える。イチジクの薄い紫も美しい。
 手に取るだけで、クリームがあふれ出る。
 こんなにやわらかいものをどうやって切ったのだろう。
 苦いコーヒーを飲みつつ、甘いサンドイッチを食べる至福。
 このご時世、食べながら喋るのは御法度だから黙っていたが、あとで妻が、
「やわらかいものを切るには包丁を温めるといいのよ」
 とか、
「フルーツ大福は糸で切るらしい」
 とかいろいろ教えてくれた。このフルーツサンドイッチにもなにか独特の工夫かありそうだ。
 女性店主がひとりで接客も調理もしている。
 食べ終わり、店の外に出たとき、ふとごみ箱をみると、真っ二つになった木のまな板が何枚か、捨ててあるのが目についた。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。