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【ショートショート】お腹がすいた

 康子さんは、古物店でいかにも古そうなランプを買ってきた。
 そっと表面をさすってみる。
 さっそくランプの精、ジンが登場する。
「われはランプの精、ジン。願いごとがあれば、申してみよ」
 康子さんはしばらくもじもじしていたが、やがて、言った。
「あの、最近、わたしふくよかにというか、ちょっと体型がヤバくなってきちっゃって、痩せる薬がほしいんです」
「ほうほう。なかなか奥ゆかしい願いではないか。かなえてつかわそう。これなる不思議なスパイスをかければ、どんな料理でも満腹中枢が刺激されて食欲かなくなるのだ。では、うまく使うのだぞ」
 ジンはぱっと姿を消した。
 それから康子さんは、出てくるどんな料理にも、持参のスパイスを振りかけるようになった。
 すこし食べただけで、すぐに満腹になってしまう。
 あまりにも早く満腹してまうので、量がぜんぜん足りない。痩せたのはいいが、つねに「お腹すいた」というのが口癖になってしまった。
 男性陣はいろいろご馳走しようとするのだが、康子さんはすぐに魔法のスパイスを振りかけてしまい、「もう食べれなーい」となる。
「お腹すいた」
「食べれなーい」
 のくり返しで、康子さんにご馳走をする人もすっかり少なくなってしまった。いまでは「康子さん」とか「やっちゃん」と呼ばれることはなく、みんなに「お腹すいた子ちゃん」と呼ばれている。

(了)

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