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【ショートショート】折り畳み

 魔法瓶に四種類の漢方薬を入れ、お湯を150㏄注ぎ込む。
 パタパタパタと折り畳むと、掌サイズになった。
 これでお出かけの準備完了、と。
 小さくなった魔法瓶をリュックに入れ、リュックもまたパタパタと折り畳む。
 最近は、折りたたみ技術が発達してなんでも小さく薄くできるので、お出かけがたいへん楽だ。
 といっても、質量は変わらないから、ズボンのポケットに入れると、体が傾いてしまう。仕方ないので荷物をリュックとサイドバックに分け、左右のポケットに入れている。
「いってきまーす」
 と言って、散歩兼買い物に出た。
 坂道を歩いていると、LINEの着信音がした。
 妻から、買い物リストに追加でもあったのだろうか。確認しなきゃ。
 だが、スマホがどこにあるのかわからない。
 スマホも折り畳んでいるのだ。iPhone20は、縦横にどんどん折り込み、豆粒大にまで折り畳める。
 そのせいでいつもどこにあるのかわからなくて、電話の着信などがあると大騒ぎだ。
 上着のポケット、なし。
 ズボンにも、なし。
 これは間違って、リュックかサイドバックに入れたパターンだな。リュックを取りだし、パタパタと開いた。中に入っていたものを片端から開いていく。
 うーん。
 サイドバックも開き、中身を確認していく。
 あった。
 豆粒のようなスマホを開いていき、ようやくLINEを確認できた。
「ぴーさん、うんこが出たよー」
 そんなこといちいちLINEしてくるな。
 私はまたスマホを畳み直し、今度はすぐ取り出せるよう、上着の右ポケットに入れ直した。
 はあ。
 顔を上げて、ふとあたりを見回すと、道のそこここで立ち止まり、リュックやらバックと格闘している人たちがいる。
 折り畳みすぎるのも考えものだなと思いつつ、私は公園に行き、魔法瓶から漢方薬を飲んだ。さて、買い物だ。
 店もまた、当然のごとく折り畳まれている。
 入店するためには、自分を折り畳まなければならない。
 ごきごきごき。
 私は骨を折り込み、筋肉をきゅっと縮めて、人形大に縮んだ。

(了)

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