AIの民主化は"消費者"に何をもたらすのか?
「Midjourney」「Stable Diffusion」といった人間のような絵を描けるAIが大きな話題となっています。私も使ってみましたが、驚くべきクオリティだと感じました。
「すごすぎる!」「これで誰でもアーティストになれる!」
SNSでは、そんなポジティブな反応を多く目にしましたが、アーティストにとっては気が気じゃない出来事のようです。
ある絵画コンテストでは、人工知能(AI)を使って制作した絵画が優勝作品に選ばれたことで、大きな議論が巻き起こりました。
アーティストの仕事がなくなるかもしれない。かわいそうだ。
たしかにそうかもしれませんが、マーケティングに携わる方々ならば、それ以上に「創作できるAI」を誰もが手軽に使えること(=AIの民主化)で起こるだろう消費者の変化を見落とすわけにはいけません。
私はコンバージョン最適化の「Sprocket(スプロケット)」を提供する会社を経営していますが、長くデジタルマーケティングに関わる立場から見ても、その影響は大きいと思いました。
今回は「AIの民主化が"消費者"に何をもたらすのか」について、簡単にnoteにまとめます。
①ホンモノとニセモノの見分けがつかなくなる
人間のような絵を描けるAIの登場で、ある絵を見て「人間が描いたものかどうか」を見分けることが困難になっていくでしょう。
「人間が描いたもの=ホンモノ」だとするならば、ホンモノとニセモノの区別がつかなくなっていくのかもしれません。
AIを使って巧妙な偽の動画を作る「ディープフェイク」は、以前から大きな問題となっています。ウクライナ危機では、ディープフェイクが情報戦の一つとして展開されたことは有名な話です。
また、コロナ以降にリモートワークが定着しましたが、ディープフェイク技術を用いて就職のオンライン面接で別人になりすますというケースが増えているそうです。
そもそも、デジタル上では「ホンモノとニセモノの区別がつかない」という話は、実はAIが民主化される以前からあった問題です。
最も有名なのは、レビューの"サクラ(やらせ)"問題です。
アマゾンで買い物するときに、レビューを参考にする消費者が多いかと思いますが、ニセモノのレビューが増えているようです。
実際のやらせの相場までが明らかにされている、偽レビュー業者の生々しいレポート記事もあります。
なぜ不正レビューはなくならないのか? 識者は、構造的な問題だと指摘しています。
これまでのレビューのやらせ問題に加えて、さらにAIの民主化がやってきたことで、いよいよホンモノとニセモノの区別がつかないデジタル空間が広がりつつあるといえます。
②ユーザーに「ホンモノかを見分けるコスト」がかかる
デジタル空間で「ホンモノとニセモノの区別がつかない」ようになってくると、ユーザーが大変です。
「これ偽レビューかもしれない」「この画像はAIで加工されているのでは?」など、いちいち疑わなくてはならず、検索するなど正しい情報かどうかを調べるのに時間がかかることになってしまいます。
つまり、ユーザーに「ホンモノかを見分けるコスト」がかかるのです。
前回、「TikTok売れ」を考察しましたが、実は"衝動買い"の背景には、こうしたホンモノかを見分けるコストの上昇があるのではないかと思います。
つまり、Google検索やAmazonレビューで一生懸命に調べても"買い物の正解"にたどり着くのが大変だということです。
③わかりやすい「ホンモノ」が大切だからUGC
そこで登場したのが、UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)の再評価です。
フレッシュドッグフードの定期購入サービス「ココグルメ」は、うまくUGCをマーケティングに取り込むことで、20年6月~21年5月は前年同期比で販売数が434%に伸びました。
同じく、ミツカン子会社はコンバージョン数を35倍に伸ばしました。SNSに投稿された「ファンの声」をうまく活かした形です。
有名インフルエンサーの発信よりも、無名のファンの声のほうが「ホンモノ」であることがわかりやすい。
これは日本だけの話ではなく、米国でも同じです。以下は、米国のビジネス誌「Fast Company」の翻訳記事からの引用です。
こういった流れを受けてか、最近「オーセンティシティ(Authenticity)」というキーワードを目にする機会が改めて増えているように感じます。
マーケティングに「オーセンティシティ」が必要な理由
オーセンティシティは「信頼がおけること。確実性。真実性。信憑 (しんぴょう) 性。真正性。」(デジタル大辞泉)という意味です。
noteプロデューサーの徳力基彦さんも、オーセンティシティについて書いていらっしゃいました(太字は筆者)。
私も長くマーケティング業界にいますが「オーセンティシティって昔から言われてるし、なぜ今?」と、ひさびさに耳にしたときは徳力さんと同じ感想でした。
しかし、今回「①ホンモノとニセモノの見分けがつかなくなる」「②ユーザーにホンモノかを見分けるコストがかかる」「③わかりやすい「ホンモノ」が大切だからUGC」という3つのポイントを書き出してみて、はじめて10年前とは異なるコンテキスト(文脈)に気づきました。
つまり「SNSがあるとウソはすぐバレるから、等身大でいよう」という話だけではなく、ユーザーは自分がデジタル上で得た情報が「ホンモノかどうか」に非常に敏感になっているということです。それゆえに「最初から"ホンモノであること"がより重要になってきている」という背景があるのだと思います。
マーケティングはユーザーや消費者との接点をつくる仕事です。だからこそ、絵を描くAIなど「AIの民主化」がもたらす変化を予測したほうがいい。そして、これからあらためて「オーセンティシティ」の重要性が上がっていくことをマーケターは認識しなければいけないのだと思います。
あとがき
オーセンティシティとは何か、企業はどうあるべきか、マーケターがどうすべきかについては、とても長くなりそうなので別のnoteを書こうと思います。
あらためまして、私はユーザーの行動からコンバージョンを最適化するサービス「Sprocket(スプロケット)」を提供する会社を経営しています。
普段からデジタルマーケティングやCVR最適化の最新情報を追っていますが、今回のnoteのようにユーザーや消費者のインサイトをきちんと言葉にして、noteにまとめるように心がけています。
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ここまでお読みいただき大変にありがとうございました!
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