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ジ・エンドオブザ・ワールド

小学校の給食は、私にとっては地獄だった。月の献立を見ると、全部食べられる日がほとんどない。

昔からタマネギ、ネギ、ピーマンが嫌いで、アレルギーではないが、生の匂いがダメで口にしたら、気持ち悪くなってしまう。

大人になり、自分で料理を作るようになると調理すればタマネギとネギはなんとか食べられるようになった。

タマネギはとにかくみじん切りにし、レンジでチンして、フライパンで死ぬほど炒める。ネギもなるべく小さく切り、フライパンで死ぬほど炒める。

ハンバーグやカレーやオムライスにタマネギを入れないとうまくないし、ネギのないチャーハンや麻婆豆腐も物足りない。そこに異論はない。

だから、ありったけの念を込めて、生感をなくす。生の匂いと食感がなければなんとか食えるからだ。(ピーマンは火を通しても無理)

そんなある日のこと。

体調があまりよくなく、だんなに夕飯を買ってきてもらった。「好きなの食べな、余ったやつこっちで食うから」と言われて、私は焼きそばとサラダを選んだ。

この時、私はだんながタマネギ入りを避けて買ってきてくれたと思い込んでいた。自分で買うときは商品をいちいち裏返し、タマネギやネギがいないことを確認し、いたら絶対に買わないのに、その日は完全に油断していて、材料の確認を怠った。

サラダにドレッシングをかけようと、フタをあけると、すぐにタマネギらしき物体を確認。普通に考えたらタマネギが入っているだろうコブサラダで、避けるべき商品だった。

ただ野菜を食べた方がいいと私の体が訴えていたので、あまり深く考えず手を出してしまったのだ。

仕方なく、タマネギ除去作業を進めた。幸い薄切りのタマネギで、他の食材と切り方が違い、見つけやすかった。あらかた取り終わり、ドレッシングをかける。

慎重に、タマネギがいないことを確認しながら、食事を進めていく。終わりが見えてきたその時だった。

キャベツだと思って口に運んだ物体を噛んだ瞬間、口の中で異臭が広がった。途端、私の口は使い物にならなくなり、それ以上咀嚼することも、飲み込むこともできなくなった。

ジ・エンドオブザ・ワールド。

次の瞬間、私は食べたものを吐き出していた。いい大人が、なんということ。

それから、いくらお茶を飲んでも、他のものを食べても、コーラを飲んでも、口をゆすいでも、歯みがきをしても、口の中から異臭が消えない。

ジ・エンドオブザ・ワールド。

結局翌日の朝まで気持ち悪く、朝、歯みがきをしたら、歯の隙間からタマネギのカケラが出てきて、こいつか、と親の仇のように洗面台に吐き捨てた。

こんなことで世界の終わりを感じるのは我ながら情けない。しかし、私は金輪際、生のタマネギを口にしたくないと思ってしまった。しばらくは調理も厳しいかもしれない。完全なるトラウマ。

嫌いなものは死ぬまで嫌いだ。他に食べる物がなくなったら、私は甘んじて死のう。

あなたのジ・エンドオブザ・ワールドは、何ですか?

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