ワークショップが失敗する14の条件
「どうせまた形だけで終わるでしょ」
組織変革や商品開発の手法としてワークショップへの注目は高まっていますが、一方で、冒頭のような諦めにも似た声を聞くことがあります。これまで何度も参加し意見をしたものの、何の改善もされない。そんな失敗経験を重ねたため「ワークショップ疲れ」に陥っている、という状況も少なくないのではないでしょうか。
特に大きな環境変化にある今、これまでの延長線上にない事業や組織を構想し再構築する手法としても期待されますが、ワークショップは事前準備や環境設計をしてこそ、その威力が発揮されます。
自分の失敗経験を振り返ってみても、アイデアを実行しようと現場へ戻ると『そんなことに時間かけないで、この業務をやってよ』と活動時間が認められなかったり、『電話対応で途中退席が多く、話し合いが進まない』...というように、ワークショップそのものではなく、事前準備や事後フォローまでを含めたプロセスに失敗の原因が隠れていることに気づきます。
そこで今回は、実施前、実施中、実施後の3つの時間軸でワークショップが失敗する条件を14つまとめてみました。
◯実施前
1.課題設定が曖昧
例えば「職場環境の改善」を期待して、「従業員の主体的な行動を引き出したい」「改善につながるアイデアがたくさん欲しい」という曖昧な課題設定のままスタートすると、話し合いの範囲が定まらず、面白い意見につられ「いいね!いいね!」と本筋から逸れたり、「結局は会社が…」と他責にもなりかねません。
また「問題」の解釈は人によって異なります。階層や世代、所属によって見えている世界が違うため、【職場環境の問題】を「制度が悪い。会社のせいだ!」と捉える人もいれば、「無駄な仕事ばかりする社員の能力不足だ!」と解釈する人もいます。この解釈差が解消されないままワークショップへ突入してしまうと、話し合いが誤った方向へ進んだり、責任の擦り付け合いがはじまる...という事態に陥る恐れも。
「職場環境の改善」がテーマであれば、何をゴールとするのか、いつまでに何を実現するか、何が原因として考えられるかを組織アンケートやヒアリングをもとに事前に話し合い、本当に解くべき課題を明確に設定することがスタート地点としてとても重要です。
2.メンバーの選定が悪い
初回から数十名とメンバーを集めすぎたり、テーマについて肝心のメンバーに声がかかっていないのでは、話し合いの方向性が定まらず、生まれた施策の実行も危うくなります。せっかくいいアイデアが生まれても現場へ戻ると、「そんな話は聞いてないよ」と上司から言われる、という具合に。
「メンバー選定と調整が大変です...」と仰る方も多いのですが、ワークショップの成否に大きく影響するだけに力をかけたいポイントです。
はじめは少人数でスタートして現状整理や取り組みの方向性を定めた後に、メンバーを広げていく。また実行へ繋げる上で、主要部署や経営陣との「結節点」となる人がいると心強いです。例えば、話し合った内容を人事施策として反映したいなら人事部門のメンバー、全社への展開を見据えているなら経営陣から、あるいは経営陣へ直接進言できる人をメンバーに加えておくといいでしょう。
3.トップの後押しが無い
ワークショップに期待するのは、何かしらの意識、その結果の行動変容がほとんど。ただ「変化」が伴う以上、以前からの決まりきった慣習との対立が生じ、「これまでと違うからできません」という葛藤にぶつかることもあります。トップによる後押しが無ければ、現状維持の慣性を断ち切ることは困難です。
ただはじめから「トップの全面的な後押し」があるケースは少ないとも感じます。トップ自身、表面的には活動に賛同しながら、内心は不安や心配がある、そんな半信半疑の状態ではじまるケースも少なくありません。
理想ではあるのですが、その前提が得られていないのであれば、やりながらトップの後押しを引き出していく他ありません。ワークショップのプロセスや生まれた施策を共有したり、ワークショップの場に来てもらう、のもいいでしょう。
4.プログラムの設計がない
ワークショップと言うと「集まって付箋に書くあれでしょ」と捉えられる方もいますが、一つ一つの問いかけ、工程、環境に深い意味があることに、知れば知るほどに気づかされます。
「まずは集まって自由に話しましょう」と言って、自由な話し合いから改善策が生まれるのでは苦労しません。それができないから、ワークショップという方法論にたどり着いているはずであり、何を目的に、どのような手順で、何を行うか...というプログラム設計は丁寧に見返したいポイントです。
5.結論を急ぎすぎている
あまりに結論を急ぎ施策を決めてしまうと、参加者の納得解でないために「施策アイデアは組織が期待するものだけど、メンバーの行動が起こらない」結果になりかねません。
1回90分のワークショップだけで、組織が抱える問題の根源を解決することができるでしょうか。これまでの硬直的な関係や行動様式に問題の根源があるのであれば、少しずつ変化を促し、長い時間軸で成果を出していくという前提が必要だと思います。
ただし、「成果の見えないものに時間も人もお金もかける」ことへの組織内の視点は厳しいものがあります。何かしら成果が見えることで関わるメンバーも安心し、まわりの印象も変わることから、3ヶ月、6ヶ月ごとの節目に「テストチームで施策をはじめた」「◯◯という結果が出た」という進捗や成果物を小さく見せていくことは工夫は行いたいです。
◯実施中
6.集中できる時間が確保されていない
ワークショップに参加する方々は多くの場合忙しく、電話による途中退席が続けば当人も申し訳ない気持ちや、自分はこの場にいないほうがいいのでは...と思い始めたり、まわりの気持ちも削いでしまいます。
極力、「この場だけに集中する」時間を設定することが望ましいですが、難しい場合は「急な対応が必要なときは、電話に出てくださいね」と事前に前提を確認しあっておくと、お互いにストレスがなくていいでしょう。
トップの後押しにも通じますが、「組織にとって大切な時間」として承認が得られているかも、参加者が安心して積極的に参加できるかに大きく影響します。
7.ワークショップの目的を参加者が理解できていない
目的を明確に言語化した。事前に参加者へも通知した。...と準備万全に整えたとしても、意図通りに目的が理解されたとは限りません。「職場環境の改善」というテーマ一つ上げても、その解釈は立場や所属によって微妙に変わってきます。
そのため、プロジェクトの目的や目指したいゴール地点として言語化した内容は、ワークショップ冒頭に再度丁寧に確認し、意味付けを行う必要があります。その時の参考になるのが、中原淳さんが著書等で紹介されている「OARR」と「Why do , Why us , Why now」です。
OARR(オール)
OARRは次の4つの頭文字を取ったもので、ワークショップやプロジェクトの冒頭では、この場が何を?なぜ目指すのか?参加する意味は何か?に同意を得る必要があります。
...ただ、目的や意味を形式的に説明するだけでは、「また何かはじまったよ」「どうせ上の思いつきでしょう」...と納得は得られにくいでしょう。目的を説明する方自身が、ワークショップやプロジェクトの意味を咀嚼し、自分の言葉で表現することで、人を動機づけられるストーリーが生まれます。
ストーリーを構成するWhy do? Why us? Why now?
この3つへの自分なりの考えを言葉にできると、より伝わりやすくなるはずです。
8.硬直的な関係を壊せない
ワークショップで解決したい問題の多くは、職場内の見えづらい関係性に原因があり、その問題解決を難しくしています。この関係性による問題は「適応課題」と言われ、経営学者・宇田川元一さんは著書「他者と働く」で、組織の中の問題を「既存の技術で解決できるー技術的問題」と「人間関係により生じるー適応課題」に整理。組織内の「わかりあえなさ」や「やっかいな問題」である適応課題を克服するアプローチを紹介しています。
「年長者へ意見できない」「役職者の指示に反論できない」ような硬直的な関係がそのままワークショップの場に持ち込まれれば、本当の問題がテーブルの下に隠れたまま話し合いは進んでしまうでしょう。
その時のアプローチとして考えられるのは2つあります。
一つは、「私」を主語にして話しをすること。役職意識が強い組織だと、「部長としての発言」や「社長はこう言っている」のように、立場や他者を隠れ蓑にしがちです。その場に参加する一人ひとりが「私ならどう考えるか」という視点で考えることで、日常の硬直的な関係を緩和することが期待できます。(ただ「私」により過ぎると個人レベルの話に終始し、組織全体へ視点が切り替わらないため、私→私たちと視点をずらす段階的な設計が必要です)
もう一つは、中立的な立場で進行してくれる人の存在です。「職場環境の改善」などであれば人事や総務部門が進行を務める機会もありますが、「評価されているんじゃないか」と参加者に警戒感を持たれてしまうこともあるでしょう。
もし組織内で役割を立てることが難しければ、外部のファシリテーターを招くことも有効です。
9.外部の人任せにしてしまう
外部の人に依頼する際に気をつけたいのは「外部の人任せにしない」ということです。外部に企画運営を丸投げすると、当事者意識が醸成されずに施策やレポートは完成しても実行が伴わず、「形だけ」で終わりかねません。
外部に依頼する際は、組織内に1−2人の企画運営の担当者を設け、組織内部−外部の二人三脚で推進する体制がいいでしょう。
10.意見の収束とネクストアクションに時間をかけない
ワークショップで多発するのが、前半の導入や意見の拡散に時間が割かれ、後半のまとめやネクストアクションを決める時間が全く取れない...という状況です。「では次も同じテーマで」や「また集まりましょう」のように、次の予定が決まらずに終わると、活動を再開するエネルギーが膨大にかかり、継続が難しくなってしまいます。
いくら綺麗なタイムラインを作成していても、その通りになることはめったにありません。「時間は押すもの」という前提で、残り5分になったら次のテーマ設定と予定を決める、あるいは、中心となる企画メンバーは延長で場を持つようにするなど、次の機会を設定することを忘れないようにするといいでしょう。
◯実施後
11.記録を共有しない
ワークショップで生まれた施策やその活動を全体へ広げていくためには参画者を増やしていく必要があり、その一歩が「情報を共有する」ことです。
しかしながら、記録や成果を取りまとめる人が不在であったり、記録を共有しないままに「やりっぱなし」になることも散見されます。
もちろん、全体公開が相応しくない内容もありますが、実施内容、決まったこと、議論の過程(ホワイトボード・付箋紙の写真)だけでも記録しておけると、今後に向けた布石にもなるはずです。
12.活動の優先度が下がっていく
ワークショップの参加者として集められる方々は、忙しい現場のエース社員であることも多く、参加時間を確保するとなると当人のみならずその上司を含む職場メンバーの理解も欠かせません。
活動の優先順位が下がると、ワークショップへの参加自体に上司が難色を示し始め、次第に参加者が少なくなり、活動が立ち消え…になることもありますので、トップから全社的な優先事項として伝えてもらったり、回毎の進捗を参加者直属の上司へも共有しておくと、優先順位が下がっていくことへの食い止めになるはずです。
13.期間をあけすぎる
ワークショップへの参加者は忙しく、異なる部署から集まる際には、90分の時間を合わせるだけでも多大な調整工数が発生するはずです。そのため頻繁には開催できず、「次は1ヶ月後」「2ヶ月後」と期間があきがちです。すると、「話し合ったときの熱量」が忘れ去られ「で、何だっけ?」と話し合いが前に進まないこともあります。
立ち上げ初期の具体的な施策が生まれるまでは、少なくとも隔週の頻度で集まりを開き、施策が動き始めてからは進捗確認として月1回と頻度を調整できるといいでしょう。
全員が集まることが困難であれば、チャットを活用して課題についての意見交換をする...という工夫も取り入れたいです。
14.失敗を参加者の責任にする
「全然話し合いが盛り上がらなかった」「せっかく施策が決まったのに、その後なんのアクションも起こらなかった」...と苦しくもワークショップが失敗に終わったとき、その原因を『参加者のモチベーションが低い』と参加者の責任にしてしまっては、改善策を見出しづらいです。
確かにメンバー選定は大切なのですが、
「課題を考える事前情報は参加者に与えられていたか?」
「自分なりの意見や課題を話せる関係性になっていたか?」
「施策を実践する時間や機会を確保出来ていたか?」
「参加者の上司は活動を理解してくれていたか?」
のように、ワークショップ自体の設計や決まった施策を実践できる環境があるか?に失敗に終わる理由があることも多くあります。
またワークショップを振り返るときに「なぜ?」と問いかけると、
「なぜ話が盛り上がらなかった?」
→「進行が悪い、参加者が悪い…」のように、犯人探しをしてしまいがちです。
そんなときは視点をずらし、
「話しづらかったのには何があった?」
と、Why(なぜ)ではなくWhat(何が)で問いかけてみると状況を客観視しやすく、建設的な振り返りにつながるはずです。
すべてを運営側の責任にするのは精神的に負担もある...かもしれませんが、まずは自分たちに原因を帰属させて対応を考えることが、運用しながらよりよく改善していくために大事な姿勢だと思います。
*
熟達したコンサルタントやファシリテーターは、ワークショップやプロジェクトの課題定義に事前準備の半分以上の時間を使っています。それだけ「何を解くべきか」のスタート地点は、解決策の質と実行性を分かつ分岐点であり、一見地味ですが前後のプロセスを疎かにしないことが大切です。神は細部に宿るとは、まさに。
失敗条件を反面教師のチェックリストに、貴重な機会を経営へ活かせるよう考えていきたいと思います。
仕事のめぐりをよくする存在でありたいと考え、事業を行っています。業務のアウトソーシングや研修も対応していますので、ぜひサイトも見ていただけると嬉しいです!
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