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総務のナカイさん。

「総務って、嫌われてるんですよ」

とポツリ、寂しそうに話す人と出会いました。社員数100人ほどの会社で、総務部のスタッフとして働く20代の方。人事部や労務部は存在せず、総務部の中に、経理、人事、労務のすべてを管轄していて、彼女は経理と総務を中心に、最近は新卒採用も担当しはじめたところでした。

詳しく聞いてみると、

・ノルマもないし、楽してると思われている
・こっちは忙しいのにあれダメこれダメと柔軟じゃない
(営業の方から、請求見積りや経費精算とかで言われるらしい)
・とりあえず「総務」と雑務を押し付けられる

採用担当になり自分から各部署に話を聞きに行ったり、協力をお願いするものの「今、忙しいから」、「また何かはじめたの?」という反応が少なからずあって、嫌われているように感じる、ということでした。

会社のことをもっと知ってほしい、社員の負担を減らしたい、職場をあかるくしたいと願って縁の下から頑張っているのに、伝わらずにもったいない。悲しいなあと思いました。

今、外部環境の変化にさらされて制度やルールなどの仕組みを変えていく必要性が高まっていたり、リモート勤務や人の流動性によって「この会社で働きたい」という求心力は弱くなりがちです。

だからこそ、色んな人、仕事の様子が見える、総務部という部署だができることはたくさんあると思います。

総務はルールに厳しく冷たく楽ちんではなくって、会社を変える・作り変えていける創造的な部署ーーだと思うのです。

総務のナカイさん

僕がはじめて出会った「総務」という肩書の方は、ナカイさんと言う方でした。

新入社員研修の際に、有給や慶弔、経費精算、給与、部活動などの福利厚生について説明をしてくれました。

その時の総務部のイメージは、嫌われ者ってほどではないのですが、社内では経費精算の手続きが面倒なことに不満の声があって、また定期的な「社内アンケート」を発信するのが総務部発だったからか、「またかよ〜」「仕事を増やして」という声があり、総務部は仕事を増やす部署、という認識があったんですね。

ただ、何の用事かは忘れてしまったんですが、対応方法が分からず困り果ててナカイさんに電話をかけたとき、「ああ、藤吉さん。元気にやってますか?」と言ってくれたんですね。とても丁寧に、面倒臭がることなく、しかも1000人弱くらいいる会社なのに、新入社員の自分を覚えてくれていて、わからないことがあっても助けてくれる人がいるーーと、安心感をとても感じました。

そんな些細なやり取りを覚えているのは、総務の中でもナカイさんは別格で、現場からの信頼と評判がとても高かったからでした。どんな問い合わせにも丁寧に応えてくれて、会社の制度やルール上「無理」なことへもきっぱり「無理」と言うのではなく、現場に寄り添った返答と「次からこうしませんか?」と前向きな提案をくださる。ナカイさんには頭が上がらない、という先輩もたくさんいました。

ある日、研究会の運営のために夜遅くまで本社で仕事をしていたとき。撤収を終えて会議室を出ると、定時をとっくに過ぎたガランとしたオフィスで一人、パソコンに向かっている姿を見かけたことがありました。

社員数が1000人もいると、日々、色んな問い合わせが現場からあがってくる。その問い合わせに一つ一つ丁寧に優しく対応しているから、日中にできない事務作業をしていたのかも?しれません。

会社の制度やルールが書かれたPDFファイルは会社からの発信文書として味気なくても、「ナカイさんがつくったもの」として、随分と受け止め方は変わりました。福利厚生のためにあった「部活動」も、他の会社に比べると活発に感じられたのは、仕組みに温度を与える人がいてくれたからかもしれません。

この会社だから、この仕事だから、という理由をつくる

最近は「コーポレート部門」や「カルチャー・コミュニケーション部」など、バックオフィスを管轄する部門を総務部とは別の呼び方をする会社も増えてきています。

・従業員がその個性と力を発揮するための仕組みをつくる
・硬直化する部署間や会社内のコミュニケーションを円滑にする
・この会社で働きたい、働き続けたいと思う意味や理由をつくる

ということが、総務を司る部門だからできるんじゃないか。

「なんでこの会社で働いているんだっけ」
「この仕事って何のためにやっているんだっけ」

そんな問いに答える機会と環境をつくり、この仕事だからこそ、この会社だからこそ働いている理由を、総務部からつくっていくことができるんじゃないか、と思います。


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