変な話『死人にくちなし・前編』


                               

 祖父が死んだ。

 祖父は死に際、先細るかよわい声で、息も絶え絶えに、孫たちへ最期の言葉を遺した。

「だい・・・おー・・・かー・・・なー・・・探せ・・・」

 言い終わると祖父は、窓の外を指差した。そして息を引き取ったのだった。
 病室で、その言葉を聞いた看護師の表情は、青ざめていた。
 聞くと、205号室にいた爺さんもまた「だいおーかーなー」と言い遺し、亡くなったらしかった。二週間程前らしい。

 そして、その現象は五年程前から始まったらしい。
「だいおーかーなー」とは一体何なのだろうか?
 葬式後、兄は「どうせ爺さんの妄言だ」と鼻で笑った。
妹は、「そんなもの探している暇もお金もない」と言って普段の生活に戻った。
 一体、何を探せば良いのだろうか。「だいおーかーなー」とは、場所なのだろうか?それとも、人なのだろうか?祖父は一体、何を指差したのだろうか。
 僕だけが、祖父の言い遺した「だいおーかーなー」に取り憑かれたのだった。

 調べて行くと、この現象の最初の人物に辿り着いた。つまり、一番初めに「だいおーかーなー」を聞いた人物だ。僕は、その人物に話を聞く事が出来た。
 その時聞いた言葉をここに記す。
「私は、祖父からその言葉を聞きました。
私の兄も一緒に聞いていました。兄は、大学で考古学を専攻しておりました・・・。これは考古学者の性なのでしょうか、兄はその答えを探しに海へ飛び出しました。最初の三年間は写真を送ってくれました。エジプトやバチカン、ロンドン、中国やロシアへも行ったようです。しかし、何ひとつ手掛かりは無かったようです。そしてある時、ふらっと兄は帰って来ました。兄は、ぼろぼろに窶れ人相が変わってしまっておりました。突然帰って来た兄は、何も語る事無く、祖父の部屋を漁り始めました。そして三日後、兄は再び家を出ました。それからの兄の事は、私は知りません。全く連絡が無かったんです。二年後、私が見たのは、痩せ細り弱り果てた姿でした。兄は亡くなる直前まで「だいおーかーなー」と繰り返し言っていました。結局、兄は何ひとつ手掛かりは掴めなかったようです。」


前編

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