患者と病院をつなぐ富士通の健康管理アプリ「ポータブルカルテ」のデザイン秘話
~とことんユーザーの使いやすさを追求し、グッドデザイン賞受賞!~
こんにちは。富士通 広報note編集部です。
1月も下旬に差し掛かり、寒さや空気の乾燥も本格化してきて、感染症や風邪などで医療機関を受診される方も多いかもしれません。
医療といえば、皆さんご存知の通り、日本では高齢化社会が加速し、国民医療費の増大が社会問題となっています。将来にわたり持続可能な医療制度と提供体制を維持するためには、疾病の早期治癒や重症化予防が有効であり、患者や家族が自ら日常的に健康や医療に関するデータを活用し、主体的に健康を管理することが重要です。
そこで今日は、患者と病院をつなぐ健康管理アプリケーション(以下、アプリ)「ポータブルカルテ」をデザインした富士通のデザインセンター4名によるデザイン秘話をお伝えします。
本アプリは、データポータビリティの社会実装加速への貢献を評価いただき、2023年度グッドデザイン賞を受賞したんですよ!
医療データの利活用を可能とする「Healthy Living Platform」
富士通はサステナブルな世界の実現に向けた「Fujitsu Uvance(フジツウユーバンス)」のもと、ヘルスケアが抱える社会課題の解決を目指す「Healthy Living」の取り組みを進めています。
これまで、医療機関によって電子カルテデータの規格が異なることで、患者個人が管理できる医療情報は限定的でした。富士通は、この課題解決に向け、電子カルテのデータを国際標準規格に変換し、安心安全に医療データを利活用するためのクラウド型プラットフォーム「Healthy Living Platform」を2023年3月より日本国内において販売開始しています。このとき、患者や医師とのインターフェースとなるアプリのUX/UIデザインを担当したのが、富士通のデザインセンターのメンバーです。
デザインセンターが制作したビジュアルイメージで、事業部と足並みが揃った
「Healthy Living Platform」の企画・開発は事業部が進めており、デザインセンターは途中から参画しました。札幌医科大学附属病院様がシステム設計や運用を監修しています。標準規格に変換されたデータを利活用する際、患者が使うスマートフォンのアプリを「ポータブルカルテ」、 医師が使うWebアプリを「患者ビューワ」と呼んでいます。
デザインセンターが参画した当初、ユーザーが利用するアプリについては、まだ具体的な検討が進んでいませんでした。
櫻井は、「まずは検討の元となるイメージをつくることが大切だと考え、想定ペルソナやジャーニーを踏まえて、アプリのビジュアルイメージを制作しました。事業部との会議で見せたところ『こういうアプリを作りたかった』と賛同いただき、会議の空気感も変わったように感じました。デザイナーの描いたイメージが目指すべきゴールとなり、関係者の意識が揃うきっかけとなりました」と語ります。
このとき制作したイメージが、その後のアプリ開発のたたき台になりました。
患者に寄り添い、幅広い年代のユーザーの使いやすさを追求した「ポータブルカルテ」
「ポータブルカルテ」は、幅広い年代の方が使うことを想定しています。
富士は「多くの方が見慣れている、一般的なアプリでも使っているパーツを使い、シンプルで見やすいようにデザインしました。今後、機能拡充するためにも、ベースは大事な機能を抑えつつスッキリとしたデザインにすることが重要だと考えました」とデザインの意図を説明します。
また、「国際標準規格の形式で扱う医療データは膨大で、一部重複している情報もあります。一般の患者さんに、どの情報をどの順番でどう見せたら良いか、デザインセンターがリードして決めました」(櫻井)。
こうしてエンジニアとデザイナーが協力し、患者自身が医療情報を管理できる国内初のアプリを構築していきました。
アプリのメインメニューは「アクティビティ」「処方」「データ連携」「プロフィール」の4つで、このうち「アクティビティ」では通院や入院の予定や履歴を見ることができます。富士は、「1つの予定・履歴をカード型で見せることで直感的に分かりやすくしました。また、見やすいように外来(緑)と入院(ピンク)で色相の違いが大きい色を使ったり、カラーアクセシビリティに準拠した配色にしたりしています」と説明します。それぞれの「アクティビティ」の中に、検査、注射、処置、処方の4種を表示しており、治療の経緯を振り返ることができます。
また、「通常、通っている病院の数はそれほど多くなく、患者にとっては病院名よりも診療科の方が重要」(西田)と考え、病院名よりも診療科を大きく表示しています。開発にあたり、事業部との調整は難航しました。西田は「ユーザーのために良いアプリを作りたいという方向性は同じなのですが、安定性やパフォーマンスに重きを置くエンジニアと、使いやすさに重きを置くデザイナーは衝突しがちで、妥協点をすり合わせるために議論になることもありました」と振り返ります。例えば初期案では、ある設定のために10桁以上の数字を入力させる仕様でしたが、製品版ではUIを考慮してQRコードを読み込む機能が追加されました。
逆にデザイナーの意見で機能をシンプルにした例もあります。「当初の企画ではアプリの中にカレンダー機能がありました。しかし多くの方は、スマホ内の既存のカレンダーアプリや手帳など、別の方法でスケジュールを管理しています。デザイナーの提案で代わりにカレンダーアプリとの連携を強化することにしました」(西田)。結果的にUXが向上しただけでなく、コストと時間の短縮にもなりました。
医療情報というデリケートなデータを扱うため、「同意」のUIには細心の注意を払いました。富士は、「これから同意をとるという画面にイラストを入れたり、現在の同意状況をいつでも確認や変更ができるようにしたりと何度も試作し、特に安心に重きを置いて開発しました。法務部門にもレビューしてもらっています」と、健康データを扱うアプリならではの注意点を語りました。
この画面で表示されるイラストやアプリのアイコンは、新入社員の川村が担当しました。「UX/UI について勉強しながら、イラストやアイコンをデザインしました。アドバイスをもらって様々なバリエーションを試作しましたが、誤解を与えないようなイラストにするのは難しかったです」(川村)。アイコンは意匠登録出願も行いました。現在ポータブルカルテはiOS版が公開されており、アップルジャパン株式会社から情報提供やHuman Interface Guidelinesに沿った UX/UIのチェックも受けています。また、Android版の開発も進んでいます。
他院も含めた診療情報と健康データを一画面で閲覧できる「患者ビューワ」
医師が使う「患者ビューワ」もデザインセンターがデザインしました。Web画面の左側には、患者が許可した複数病院の電子カルテ情報が表示されます。右側に表示されるのが、スマートウォッチやスマートフォンなどのデバイスで取得した血圧、歩数、体温などの健康データです。患者が同意すればこれらの健康データがクラウド上のプラットフォームに集約され、医師が閲覧できるようになります。
富士は、「医師が左右のデータを参照し、薬の処方が適切か、運動療法が効いているかなどを判断し、治療に役立ててもらうことを想定しています。将来的に多くの病院のデータがプラットフォーム上に集約できれば、重複する検査が削減できたり、患者が健康診断結果を印刷して持参する必要がなくなったりするメリットが期待できます」と説明します。患者ビューワで表示される元データは患者側で見ているポータブルカルテと同じですが、札幌医科大学附属病院様にもご意見をいただいて医師向けに表示方法を変えています。例えば、検査結果グラフは、ポータブルカルテでは過去3回分が一目で分かるように、患者ビューワではすべてのデータが表示されます。また「患者ビューワでは、グラフにカーソルを合わせると背景が変わる、クリックすると反転するなどのインタラクションの工夫もしています」(富士)、と使いやすさにも配慮しています。
患者が診療情報を「自分ごと化」して健康のハブとなるアプリに
現在、札幌医科大学附属病院様にて稼働しており、病院から患者さんにアプリを紹介し活用してもらうフェーズに入っています。「患者さんにお渡しするアプリの説明チラシや設定ガイドもデザインセンターが作成しました。川村さんのイラストを取り入れ、病院側で編集いただける形でお渡ししています。また説明動画もデザインセンターで制作しています」(富士)。医師や患者さんにフィードバックをいただき、さらに改善を重ねており、デザインセンターでユーザーを対象としたアンケートやインタビューも準備中です。
今後は、札幌医科大学附属病院様を皮切りに、まずは道内の病院間のデータ連携を進め、その後は全国展開も見据えています。また、将来的には行政機関や自治体の福祉サービスなどとの連携や、匿名化した医療データの治療や創薬、保険などへの活用も期待されています。日本の医療イノベーションがここから始まろうとしています。
※この記事は富士通デザインセンター公式サイトの記事(2023年10月3日時点)のエッセンスをもとに作成し、情報を最新化しています。
※2024年1月22日に、札幌医科大学附属病院様の稼働状況に関する記載を修正しました。
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