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全体の5%程度しかない脂の乗ったビンチョウマグロを発見する超音波AI技術と開発者の想い

この記事では東海大学様と共同開発した「美味しいビントロを見分ける超音波AI技術」について紹介したいと思います。

この記事の見どころ
全体の5%程度しかないビントロを見分けるAI
人間の感覚に迫る官能評価とAI研究の融合

冷凍マグロは通常、マグロの尾を切って、その断面を観察する尾切り選別と呼ばれる手法で鮮度の良し悪しを目視で判断し、選別されます。しかしながら、尾切り選別は破壊的な検査である上に、尾の断面を観察するには非常に高い技能を必要とします。そこで、研究チームでは超音波とAIを活用して、非破壊で客観的に冷凍マグロの品質を選別する技術の開発(※)に取り組んできました。

(※)2022年12月21日プレスリリース 「世界初!超音波AI技術により非破壊で冷凍マグロの鮮度の評価に成功」:https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/12/21.html

研究チームが今回ターゲットにしたのはビンチョウマグロの分類です。

ビンチョウマグロは通常、市場には加工用に出回ることが多いのですが、特に脂の乗ったマグロはビントロと呼ばれ、近年、生食用に回転寿司チェーンなどで提供されるようになり、ニーズが急増しています。ビントロの中でも特に脂の乗った脂極みと呼ばれるものは全体の5%程度しかなく、通常の倍程度の価格が付くため、その選別は大きな課題でした。

これ、難しいんですよ!(図参照)


(ビントロ、脂無し、脂質:0g/100g)の写真
(ビントロ、脂無し、脂質:0g/100g)
(ビントロ、脂極み、脂質:18g/100g)の写真
(ビントロ、脂極み、脂質:18g/100g)

いかがでしょうか?脂極みの選別、目視で判断するのが難しいとお分かりいただけたのでは…と思います。

そこで、研究チームは複数の超音波波形を効率的に活用して、専門家による尾切り選別と同程度以上の性能を、尾を切ることなく非破壊で発揮する超音波AI技術を開発しました。

👆実証実験動画(近日中に水産加工工場でも実証実験を行う予定です)

また、研究チームは新たな取り組みとして「官能評価」の導入に向けても取り組んでいます。
官能評価とは実際に人が食品を試食してその味を確かめる評価法です。
官能評価では、まず、6味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味・無味)を見分ける試験を被験者が行います。そして、試験に合格した被験者が実食に挑むのですが…。

この試験が非常に難しいのです。
一粒の砂糖や塩が入った水を飲み比べてその味を当てるのですが、富士通研究所・人工知能研究所のプリンシパルリサーチャーで研究チームのリーダーである酒井によると、

「無味のはずの水から味がする気がしてしまう…」

とのことです。ここだけの話、5回以上トライしてようやく合格できたそうです。

試験に挑むチームリーダー酒井が、官能評価が難しすぎて困惑している様子
試験に挑むチームリーダー酒井が、官能評価が難しすぎて困惑している様子

なお、脂分の異なる6検体について被験者7名で官能評価を行ったところ、ビンチョウマグロの脂分は人に知覚可能であること。そして、超音波AIで脂極みに分類された検体が最も美味しいとされたことが確認できました。

官能評価をAI研究に取り入れる意義を酒井はこう語ります。

「私たちAIの研究者は、長年、知能とはいったい何なのかということを考え続けてきました。そうして気づいたことの一つは、知能とは直線的なものではないということです。つまり、IQ120がIQ100よりも優れているといったような単純なものではなく、非常に多元的で多様な可能性があるということです。結局のところ、AIを実現する際の困難というのは優れた知能をつくることにあるのではなく、人類の感覚や文化を正確に捉えることの難しさなのです。そこで、本当に美味しいマグロとはいったい何なのかということを突き詰めようと思いました。」

「美味しいビントロを見分ける超音波AI技術」は、近日中に水産加工工場で実証実験を行うそうです。今後、官能評価の知見も取り入れてさらに磨きをかけ、選び抜かれたマグロをぜひ皆さんにも味わっていただきたいです。

関連リンク
2023年12月19日 東海大学様 プレスリリース 「水産学科の後藤教授が富士通との共同研究で超音波AI技術によりおいしいビントロの選別に成功しました」:
https://www.u-tokai.ac.jp/ud-marine-science-and-technology/news/5286/
(
2023/12/19 14:42追記)


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