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「焼き芋」のマイクロノベル 他3篇 #39

 焼き芋にかぶりつくと、焦げた甘い香りが口の中に広がり、芋の粒子が舌の上にほろほろと転がる。と同時に遙か向こうに、新大陸からコロンブスがサツマイモを持ち帰る姿が見えた。きっと二口目には、青木昆陽が見えるはずだ。

 もう半年以上、子どもの靴が切り株に置かれたままだ。還ってきたときに、靴が小さくて履けないのでは。あるいは、その時のまま還ってくるのか。そもそも、そんな子はいなかったのか。あそこには近寄らない方がいい。

 マユミの葉を透かした葉脈の向こうに影が映る。そっと裏返してみると、そこにはいない。だがもう一度透かしてみると、やはり同じ場所にいる。今度は裏から指でつんと弾くと、黒い虫の影だけがふわふわと飛び去った。

 いつもは途中のバス停で降りるのだけど、本当に終点まで行くのか確かめたくなって、そのまま乗っていた。すると、やがて乗客は自分一人だけになり、偽の終点で降ろされたと気づいたときには、バス停はもう無くなっていた。

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