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「第二世界」のマイクロノベル 他3篇 #75

 青空の下、警報が鳴り響く。見上げれば、ぽっかりとクジラ雲。あれか。このところ接近度が高く、連日どこかで第二世界との接合面が現れる。あの雲も実体化すれば、巨大なクジラがこの街に落ちてくる。さあ逃げるぞ。

 並存する第二世界にも遊園地があるらしい。雨あがりに天使の梯子がかかるとき、蜃気楼のようにその姿を見せ、ジェットコースターが走るのが見える。そこへ行くことはできないが、遊ぶ異形の仔たちの歓声が聞こえる。

 夜、何の音か、光も見える。屋根の上でせめぎ合っているのがわかる。でも決して見てはいけない。朝になって見ると、屋根にあった鍾馗さんが傾いていることがある。異界の者から守ってくださったことに手を合わせる。

 スナップエンドウが甘い声で囁きかけるようになったのをきっかけに、機嫌の悪いビオラがなにかブツブツと文句を言っているのも聞こえるようになった。あなたにも聞こえないか、その声が。いまは、春になるのが恐い。

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