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「西瓜糖」のマイクロノベル 他3編 #59

 西瓜を演奏できる人は、もういなくなった。実は打楽器になるが、葉と蔓も撫でるように奏でる。暑い夏の日が暮れる満月の夜、西瓜畑に集まって持参した西瓜糖を嘗めながら、みなで音階を楽しむのが夏の風物詩だった。

 思うところあって、スイカの実を四角い枠に入れた。これから壮大な実験が始まる。収穫した四角いスイカを絞って煮詰め、できた西瓜糖を角砂糖にしたら、すごい砂糖になるんじゃないか。この夏の自由研究にわくわく。

 ほら、こっちこっち。よしっ! 大きなスイカが見事に叩き割られた。はい、次。どんどんやらないと、まだ三百個もある。今年はスイカの縞占いで、大大凶があまりに多くて、それを割って吉としないと大変なことになる。

 おお、もう少しで電線に手が届くぞ。あの電気を浴びて、俺は怪獣になる。植物怪獣エレキヅル。帯電した蔓を振り回して暴れ回り、街中俺だらけにしてやる。ははははは……あまりの暑さに、蔓草も夢の中に溺れていた。

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