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「クサソテツ」のマイクロノベル 他3篇 #9

 クサソテツの中に逆行の時間が詰まっていると教えてくれたのは誰だったろうか。未来の展葉した葉を、折り畳んでぐぐっと巻いて新芽の奥へと封印した時間が、春の陽射しを浴びると、ほろほろと解けていくのだと。

 イカリソウは、時の流れの中でこの瞬間を係留しておくのに使うものだ。いま、この花をいっしょに見ている人との、静かな時を記憶の中にとどめておくために。自分はイカリソウを見ると、いつも祖母のことを思い出す。

 唐松の新芽には、時間のびっくり箱が仕込まれている。ただ我々からみれば、ゆっくりゆっくりと時が放たれていくので、新芽の形をしたそれはいつの間にか唐松の葉となっていて驚かされる。そんなびっくり箱だ。

 ヒスイカズラの花の香りをかげば時間旅行ができるだなんて、いったい誰が教えたんだ。嘘に決まっているだろう。二十年後に温室で倒れている十六人の子どもたちが発見されるまでは、おそらく誰もがそう考えていた。

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