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「フウセンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #56

 彗星が最も近づく五分間、空気が無くなってしまうらしい。だからフウセンカズラの実をたくさん成らせて、小さなストローで実の中の空気を吸ってその五分間を耐えるんだ。どんな空気なのか、少しだけ楽しみにしてる。

 あまりに暑いので頭がどうかしてしまって、ヘビウリの巻きひげと手をつないで帰ろうとしたら、わたしはこの通り地面に根が生えて動けないという。困り顔でいると、花咲く夜のダンス会には来てもいいと誘ってくれた。

 梅雨と夏との境を見た。樹の幹に垂れ下がって停滞していた梅雨前線が、向こうから張り出してきた太平洋高気圧に押されて、カタツムリとともに消えていった。セミの抜け殻の先には、入道雲が出番を待っていた。

 五十年前の未来都市が老朽化してきたので、取り壊して新しい未来都市をまた造るそうだ。どうやら未来は半世紀ぐらいしか持たないらしい。人間の方が長生きするんだな。ということは、わたしも昔は未来人だったんだ。

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