第九十三話:私は私、私だからすること、できること
「はぁ――……」
『此処に来るなりため息か、まぁ仕方ないがな』
「いや、今更だけど、私ダンテに転生したというか成り代わったというかだから……」
『そんな事を気にしているのか』
「いや、気にしますよ」
神様の発言に私は重い息を吐く。
『異世界への転生をお前に話したであろう、最初にな』
「ええ……確か」
『こうは思わないか、幸せになるなら「来世」でと言わないのかと』
「⁇」
神様の言っている事が良く分からない。
『つまり、世界は無数に存在する、だから人は本来の道とは異なる事態に陥った時に「別の道」を提示されるのだ』
「……えっとつまり」
『ゲーム同様ダンテが生きる世界もあれば、今のお前のような世界もあるという事だ、いちいち気にしてたら身が持たんぞ』
なんかとんでもない爆弾発言された気がするが、今の私の頭ではついていけなかった。
『なに、いちいち悩むな。お前はこの世界ではダンテ・インヴェルノ他ならないのだ、気にするな。ただ前世高坂美鶴の記憶と性質を持っているというだけで』
「そこがかなり重要な気が……」
『持ってた結果役に立つ以上に、無茶して怒られる方が多いではないか』
「う゛」
そこは事実だから否定ができない、悲しい事に。
『後、お前はダンテを演じているとかアホな事考えてるかもしれないが、別に演じても何でもないぞ、素のままいるではないか。公では口調が若干丁寧になるのも前世からの癖だし』
「うう……反論できない」
『第一ダンテがどうなるかはゲームではプレイヤー次第。つまり、これはお前の行動の結果だ。ヘタレで人付き合いが苦手で、その癖周囲の評価を気にして無茶する小心者であること隠す癖に、悪意に関しては人一倍敏感で、他人事であっても怒りを持つ。それがお前だよ、ダンテ』
「何かめっちゃくちゃディスられてる気がするんですが」
『貶してもいるが、褒めてもいるぞ?』
「大体七割ディスりに聞こえるんですが?」
「気のせいだ」
神様の言葉はわりとちくちく刺さってくる。
が、話を聞いてもらって、話をして割とすっきりした。
今の私はダンテ・インヴェルノなのだと。
『悩みもなくなったようだしな、まぁこの悩みは言えんから仕方ないが』
「はははは……」
『他の連中に言えない悩みがあるなら私にでもいうといい』
「ありがとうございます、神様」
『礼などいらぬ、お前を死なせたのはこちらの……』
「か、神様?」
急に神様が無言になった。
『ぐあー!! あのクソたわけめ!! あれほど人の人生を弄るなと口酸っぱくいっていたのに何故やるのだー!!』
「オウフ……」
神様のどうやら思い出したくない案件基私の死んだときの件に触れたらしい。
しばらく神様は身内への怒りを口にし続けていた。
神様の愚痴を聞くのを終えて「戻り」目を覚ますと、五人が私のベッドを広くして一緒に眠っていた。
「何時の間に……」
「ダンテ様が就寝なされた後ですよ」
フィレンツォがお茶を入れながら言う。
「何故?」
「何処かダンテ様の表情が暗かったと、まるで自分が自分なのか不安であるかのように見えたとのことです。私にもそう見えましたので御傍にいれば少しは気が楽になってくれるのではないかと言う事で」
「そうか……心配をかけたな……」
「いえ、ダンテ様は公私の差が激しい御方ですからね」
「それに関してはほっといてくれ、フィレンツォ」
それは自分でも自覚しているので、ほっといてほしかった。
「公的な部分で無理をし、私的な面の駄目さを隠そうとするのはもう皆さまご存じなので隠さなくてもよいのでは?」
「いや、知らない人が多いからそうもいかないだろう」
私はため息をつく。
「此処にいる皆さまは知っています、皆さまの前位なら素をさらけ出しても良いのでは?」
「……出してる、つもり、なんだけども……」
「私の前と比べると大きな差がありますよ。池と湖程の差が」
「そんなにか……」
「はい」
私は額に手を当てる。
いわゆる、私の状態は「好きな相手には綺麗な姿でいたい」状態なのだろう。
だが、結婚する事も考えるとそれでは駄目なのだ。
相手の駄目な部分もひっくるめて、その人物そのものだから。
まぁ、駄目な所でどうしようもない駄目な所は自助努力等で治す必要があるが。
私の場合、無意識に無理をするというのが一番直さなければならない箇所だ。
だが、治らずに此処にいる。
ベッドから起き上がり、椅子に腰かけてフィレンツォから砂糖とミルク入りの紅葉茶をもらう。
口にしながら、これからどうするべきかと悩み始める。
学院の宿題というか課題は無理のない範囲で進めて、もう終わってしまっている。
だが、教えるのが下手なのでエリアやクレメンテへ教えるのはエドガルドやフィレンツォに任せている。
――暇だ……――
「ダンテ様、暇だなぁと思っているようですが、今はゆっくり休んでください。夜が大変でしょうから」
フィレンツォの言葉にごふっとお茶を噴き出しかけた。
げほげほと咳き込んでいると、寝ていた五人が起き上がった。
「ダンテどうした? 風邪か?!」
「だ、ダンテ様、おからだ、大丈夫、です、か?」
「ダンテ、無理をしてませんか?」
「おい、アルバートダンテは無理していたか?」
「私の見える範囲ではしてなかったけど……どうなんだい、ダンテ?」
何とか私は落ち着いて、深呼吸してエドガルド達に言う。
「……ちょっと気管にお茶が入っただけです、ご安心を」
「ええ、ちょっと気管に入っただけのようです、皆様ご安心を」
済ました表情のフィレンツォを私はじと目で睨む。
――覚えてろこのやろう――
後で、奥さんに報告してやると決めた私はエドガルドを通して、フィレンツォの奥さんに連絡をして「貴方の旦那に性的な発言を多々されてそろそろ気がめいりそうです、どうにかしてください」と告げ口をした。
後日、しこたま怒られたのかしょげているフィレンツォの姿があったが、私は悪くない。
夜、のんびりと休める日もあれば、そうでない日もある。
今日はそうでない日だ。
日中休んでいた分、しっかりとする時間。
「エリア、どうしました」
部屋にやってきたエリアに私は微笑みかける。
「あの、その……」
エリアは性行為をするときとしない時が他の四人よりも非常にあやふやだ。
どうしても、いまだに相手の機嫌を考えてしまう癖が残っている。
その為か、私の部屋にこうして来る時は常に薄着をしてくる。
他に四人は、ただ添い寝する時は寝間着、そうじゃない時は薄着とはっきり分かれていることが多い。
稀に着衣プレイ的な事をしたがるのが二名程いるので、例外もあるけれども。
エリアは私の傍に寄ってきて、ベッドに恐る恐る上がり、私の隣に横になる。
最初の頃は、これも中々できなかったから随分進歩したと思う。
「エリア、どうしたいですか?」
「え……あ、その……ダンテ様が、したい……なら」
「エリア」
私は優しく彼の名前を呼び、頬を撫でる。
「私は大切な方に無理強いをしたくない、ですから私がしたいかどうかではなく、貴方がしたいかどうかをおっしゃってください」
「僕が……望む様に、本当に……?」
「はい、貴方の望む様に」
何度も繰り返す、何度も、何度も繰り返している。
エリアの受けた虐待行為の傷は深い、だからそれを癒すためなら何度でも同じ言葉を口にする気はあった。
「どうします?」
「……今日は、抱いてください、優しく……」
未だ根深い傷を癒すために、私はエリアを抱きしめてキスをした。
何度も何度も――
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