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第百二話できること、できないこと

「……」
 治安維持所のお偉いさんからの連絡を受けた私は頭を抱えた。
 操られていた六人の中身――が見つかったのだが、その形状に頭を抱えることとなった。

 俗にいうエロでよくある人格排泄のに似ている。
 人型の胸像。

――ふぁーーーーっく!!――
――きるぜむ!!――
――関係者全員覚悟しとけよ!!――  

 そして頭を抱える理由は、現在治安維持所にこの術を解呪して本人に戻す術を使えるものがいないこと。
 私はそれができるようになっていることにある。
 ちなみに、他に解呪等ができる学院の教授は運悪く遠出。

――くそが!!――

 何より問題なのが――
「分からないが、ダンテ一人に対応させるのは私は許せん」
 と言い出す我が愛しの兄上基エドガルド。
 見たら吐くのが分かっているが、フォローを入れるのにフィレンツォだけだと心もとない。
 いや、フィレンツォには寧ろ私をフォローしてもらいたい。

――となると――

「俺は役に立たないが、いいのか」
「ええ、いいんです」
 カルミネに同行を頼んだ。
 一番精神的に安定しているのはカルミネで、エドガルドへのフォローも他の三人よりも上手だからだ。
 治安維持の方に案内され、六人が寝かせられている部屋へと移動する。

 机が置かれており、箱が置いてあった。

「フルヴィオ・アコーニトの部屋にあったものです」
「なるほど……でも奴にはこんな術は使えないはずだ」
「現在調査中です」
「頼みます」
 私はそう言って、深呼吸してから箱の蓋に手をかける。
 蓋を取ると――

 予想通り、小さな胸像状態のが六体並んでいた。

「お゛ぇええええ」

 予想通り、エドガルドの潔癖が合わさってエドガルドは部屋の隅で吐いていた。
 いや、私もイラストとかで耐性つけてなかったら吐く……いや、吐きたいけど我慢だ今はと言い聞かせる。

「カルミネ、エドガルドの事を頼みます」
「分かってるが、ダンテ、お前も無理はすんなよ、後で休め」
「分かってます」
 見抜かれていた。
 が、今はそれどころじゃない、早く六人を元に戻さないと。

 とりあえず、一人のを手に取り、その人物の元へとよる。
 ベッドに寝かされている彼女を見て、目を閉じて「想像」し、術を行使する。

 元の魂の形――
  異物が光る玉の様な物体になる

 それを押し込む――
  光体をい彼女の胸元へと鎮める。

 しばらくすると、彼女の目に生気が戻る。
「きゃあ!! あ、あ? も、戻ってる!! 私元に……!!」
「ベルタさん、ご無事ですか?」
「だ、ダンテ殿下……!!」
 私を見ると彼女は号泣した。
「お願いです、アメリア達も助けてください!!」
「分かりました、フィレンツォ。彼女をお願いします」
 もう怪しい気配も何もない、以前会った時のベルタさんだったのを安心しつつ、他の五人も同じように戻していく。

 結論。
 めっちゃ疲れた。

 全員を戻し終わると私はぶっ倒れて屋敷へと返された。
 ベッドの上で横にさせられ――
「ダンテ、今回の無理は不可抗力だと諦めるが、次はするなよ!!」
「すみません……」
「ダンテ、役に立たずすまない……!!」
「エドガルド、いいんですよ……あれは私も正直こたえました……吐きそう」
「誰か袋をもってこーい!!」
「あ、こ、これですか?!」
「エリアよくやった!!」
 エリアが持ってきたエチケット袋に、私はゲロッた。

 あんな魔術考えたの死ねばいいのにと思いながら。

 もともと人格排泄系のネタは好きではなかったが、リアルで目にすると更に好き嫌いどころではなく吐き気を催すものを見たと言いたくなるような状態になる。
 いや、実際吐いたけど。
 人格排泄ネタが好きな人には申し訳ないが、私にはこれは無理だ。

「……癒されたい」
 げろり終わって、口を濯いで少しだけ楽になった私は、思わずぽつりと呟いた。

「子守歌を歌うか?!」
「紅葉茶を飲みますか?!」
「えとえと、ぬ、ぬいぐるみはどうですか??」

 アルバートと、クレメンテとエリアが思いつく何かを出そうとするのが分かった。

「――お前達、気持ちは分かるが焦るな。とりあえず紅葉茶よりも、今は白湯がいい、アルバートお前の子守歌はやかましいからなしで、エリアぬいぐるみは抱かせとけ」
 カルミネは冷静に、処理し、私に白湯を渡して、飲ませて落ち着いたのを確認するとエリアからのぬいぐるみを預かり、私に抱きしめさせた。
「すみません……ところでエドガルドは?」
「そこで思い出して吐いてるぜ、フィレンツォが見てる」
 視線をカルミネが指さしている方に向ければ、エドガルドがエチケット袋に吐いているのを、フィレンツォが世話していた。
「……」
「汚れ仕事系は俺が担当する、他はエドガルドに任せるでいいだろう?」
「ずま、ない゛……お゛ぇ゛え゛……」
「エドガルド様、今後は無理をなさらないように……」
 カルミネの精神のタフさが心配になった。
「カルミネ……貴方は大丈夫だったのですか?」
「あー……まぁ、もともと家柄でそう言う事柄については知っててな、目にするのは初めてだったが、まぁなんとかなった。それにお前達二人の顔の青白さをみたら留飲も下がったしな」
「……すみません」
「ずまな゛……ぇ゛え゛……」
「だからエドガルド、お前は今は無理するな。フィレンツォ部屋に連れて行こう」
「はい、畏まりました」
 カルミネがフィレンツォと共にエドガルドを自室へと連れて行くのを見送ると、私はふぅと息を吐いた。
「……ダンテ、様、無理しないでください」
「そうだ、ダンテ。お前も吐きたかったら言ってくれないか」
「ダンテ、貴方も無理しないで」
 三人が私の顔を覗き込み、頭を撫でる。
「大丈夫ではないですが、今は無理はしてませんよ……ただエドガルドが心配で……」
「同伴したのカルミネで良かった。私達じゃどうにもならなかったしな」
「は、はい……」
「エドガルド同様吐いていたでしょうね、そうしたらダンテの負担も増してました……カルミネでよかったですが」

「私達も強くならねばと思いました」

 クレメンテがきっぱりと言いきった。
「そうだな、カルミネがダメになった時を考えないといけない」
「ぼ、僕も頑張ります……」
「三人とも……」
「「「なんですか?」」」
 私はため息をついた。
「人にはやれることとやれないことがあるんですよ、ですから、そこを間違えないように……間違えると、エドガルドみたいに駄目なのに直視して吐くという事態になりかねませんから……」
 そう言うと、三人は思い当たる節があるようで頭を抱えだした。
「できる範囲でいいんですよ。ええ……」
 私が言ってもある意味説得力にかけるけれども、そう言うしかなかった。

 ヒトには限度というものがある。
 慣れてその限度を上げることはできなくはないが、慣れるまでが大変だ。
 勿論、慣れなければいけないことがあるのは知っている。
 前世では医療関係、内臓をみたりするのだ、慣れなくてはならない。

 選択肢の中で選んだから責任を持つというのも理解できるが、理解したくない。
 選択肢がそれしかなかった場合だって考えられるからだ。

 存外、ヒトの可能性は少ないのかもしれない。






https://note.com/fujisaki_25/n/nf2c6e59b160c  103話

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