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【モノなし生活74〜83日目】 暮らしの相対性理論を考える


所持品0でスタートして100日間1つずつアイテムを取り出す生活をやっています。もうかなり後半戦。見守っていただきありがとうございます。


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【74日目】ボールペン

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実はこの73日間、ほとんど文字を書かずにやってこれてしまった。ほとんど、というのも、仕事などでごくわずかに人に借りる形でペンを使うことはあった。メモや日記はスマホ・PCで事足りていた。このままでも100日乗り切れる。

でもなぜここでペンを、と思ったかというと、このときはまだよくわからなかった。よくわからないけど、手元にない時もこのボールペンの書き味の良さが忘れられなかったし、誰かに手紙でも書きたいな、なんて思った。全部で最大100アイテムしか選べないのにそんなのんびりしたことを言ってる場合か? と思う自分もいるが、74日目にしてなぜペンを手に取ったのかは、今週じわじわとわかりはじめる。


【75日目】お風呂用洗剤

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昨日ペンを出したけどまだ書くもの––––ノートもメモ帳も持っていなかったので、今日はそういった紙類を手に入れるのが最速ルートなはずだった。なのに私はけっこう気がそれるというか注意力散漫なタイプなので、今日になってみるとお風呂のことが気になった。掃除はしていたけど、洗剤でちゃんとしっかりやりたい。一度これがやりたい、これがほしいと思うと目の前のことしか見えなくなる。だからこの生活を始める前に書き出してみた暮らしに必要な100個のものと、実際に暮らしてみて取り出したものやその順序は全く違っている。


【76日目】レターセット

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だれかに手紙を書きたいと思うことが去年より多い。2020年、はっきりとコミュニケーションが変化した。でもそれだけじゃない。

ここ最近ずっと考えていることがある。それは「あっちの時間に行きたい」ということだ。この生活の初期、何もない部屋でスマホもPCもなく過ごした長い長い時間。いまとは流れる速さがまるで違う。ぐぐぐ、と地球が回る音が聞こえそうだった。1時間が永遠に思えた。窓から虫の合唱と立体的な風が入ってきたあの夜。あの夜のことを何度も思い出す。滑り落ちていく時間じゃなくて、一瞬一瞬の粒の中に立ち止まることができた。いつも焦って生き急いでいたけど、本当はこんなにたくさんの豊かな時間を持っていたんだとわかった。

光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのと同じに、人間には時間を感じとるために心というものがある。もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないも同じだ。(ミヒャエル・エンデ『モモ』(岩波書店)文庫版 p.236)

モノを手放して心の輪郭が見えた。心は時間をつかまえた。スマホをもう一度手にした時、この感覚を忘れずにいようと決意した。意図的に電源切り、SNSのアプリを削除してみたけれど、結局は流されてすぐスマホ依存に戻ってしまった。こんなの予想できたことだ。だからといっていくら思い切った性格の私でも、スマホを解約することはできないだろう。じゃあどうやって。とりあえず、"あっちの時間"を増やしてみたい。

好きなパジャマを着る、ベランダで音楽を聴く、落ち着いてハンドクリームを塗る、本を読む。これらはあっちの時間のものだった。「リラックスが大事」とか「ゆっくり過ごす」とかそういう言葉に置き換えるとむしろピンとこない。私には2つの時間がある。AとBがある。あっちとこっちがある。

あっちの時間に行ける道具を増やしたい。書き味のいいペンで文字を書くことと、誰かに手紙を書くことは、あっちの時間のものだ。ペンが欲しかったのも、こうした心の声だったのかもしれない。


【77日目】お風呂用スポンジ

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自分の歯を磨くようにお風呂を磨きたい。これまでせっかちな時間と多すぎるモノに埋もれて見えなかったけれど、自分と家はつながっている。大きなリュックを背負っているときに、リュックの端っこがなにかに触れると自分の体として反応するみたいに、家が自分の一部になっている。


【78日目】フェイスシェーバー

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眉毛とか顔のあらゆる産毛とかを剃りたい気持ち。自分にしかわからないけど、顔に緊張感が出る気がする。一方で78日間も放置しましたし、絶対処理しなきゃいけないものとは思っていない。自己満でいい。それ以上でもそれ以下でもあってはならぬ。指毛とかわいい指輪は共存できる。


【79日目】花瓶

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これも、あっちの時間のもの。

1年に1度、毎年同じホテルに1週間泊まるのを楽しみにしているという知り合いがいる。お気に入りの部屋に到着してまずすることは、近所の花屋で花を買ってきてダイニングに飾ることらしい。いかにその1週間を慈しんでいるかがわかるエピソードだなと思っていた。1週間後そこを去るとわかっていても花を飾る。それは時間の中に心で留まろうとする仕草かもしれない。私も今日という1日のなかに入り込んで生きるために花を飾りたい。今日の時間を祝福する花。花と呼吸したい、花瓶のある暮らしがいい。

セイヨウヒイラギを飾る。一気にクリスマスだ。

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体感時間をのばそうとつとめたり、短くてもその瞬間を味わおうと集中すること。時間を消費する道具と、時間を生んだり止めたりできる道具の違いについて考える。そこには暮らしの相対性理論がある。


【80日目】頭痛薬

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とにかく頭が痛かった日。100日間もあったら具合の悪い日もある。具合の悪い日も暮らしはつづく。チャレンジより体調が最優先だし、薬の類はカウント外でもいい気もするけど、とにかくどんなものよりも頭痛薬だけが欲しかった。

このとき初めて、ほかになにが欲しいか考えるのすらしんどい自分を発見した。ということは、けっこう満たされてきているのかもしれない。もともときっと1万個とかそれ以上のものに囲まれて暮らしてきたのに、80個で満足しはじめているなんて。1日1つというペースでやってきたことにも意味がありそう。ゆっくり食事するとおなかいっぱいになるみたいな。


【81日目】小さいスプーン

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大きいスプーンはもう手に入れていたけれど、小さいスプーンにしかできないことがある。それはプリンをすくうこと。そしてもうひとつ、忘れてはいけない重要な役割もある。それはアイスをすくうことだ。


【82日目】部屋着ゆるズボン

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違う。先日追加したジーンズがきつくて履けなかったわけじゃない。ジーンズを洗濯機に入れて乾燥させたら縮んでウエストがさらにきつくなった。何も違わないな。

パジャマのズボンも持っているし、家にいるだけならそれでもいいはずなんだけど、最近パジャマの効用に感動している私はパジャマと部屋着を分けたいと思った。パジャマを着るってすごい。今から寝ますから!という宣言であり、儀式。時間が切り替わる。別の時計になる。パジャマの聖域を守るためにも部屋着のズボンを取り出した。


【83日目】アイブロウパウダー

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何気なく1月のシンガポール旅行の写真を見ていたら、このときの自分の顔のほうが好きだな、と思った。シンプルライフに挑戦してメイク道具を断捨離したらすっぴんのほうが好きになりました。とはなりませんでした。眉毛はある意味最重要だし、アイブロウパウダーって実は鼻筋とか顔の陰影なんにだって使えるんだよね……。マッチ箱くらいの大きさに顔の材料の70パーセントくらいが入っている。震えるほどスタメン。リモート会議は風が吹かないから前髪で眉毛隠せるし、なくても偶然やってこれただけだった。アイブロウパウダーは、要る。


続く


次の記事→【モノなし生活84〜93日目】 ちょうどいいは、いびつだ。

シンプルライフチャレンジについての取材を受けました。それぞれ、質問していただいたことで気づけたことも多かったです。ぜひ読んでもらえたら嬉しいです。



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