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【モノなし生活84〜93日目】 ちょうどいいは、いびつだ。


所持品0でスタートして100日間1つずつアイテムを取り出す生活も、いよいよクライマックスです。


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【84日目】本

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ホモ・サピエンスの道具研究会『世界をきちんとあじわうための本』(ELVIS PRESS)。いまの自分にぴったりと合う気がした。装丁もシンプルライフを思わせる。

いままで当たり前に所持していたものをいちど手放したことで、知っているつもりだった道具や行動と、本当の意味ではじめて出会うことができた。敷布団はこの肉体で生きていくことの重みを、歯ブラシはケアが尊厳であることを、パジャマは夜と朝の神聖さを教えてくれた。どれも、この世に生まれてから意識することなく、気づいたら持っていたものだった。なにも知らないレベル0の人間に戻って過ごす毎日の新鮮さは強烈で、実感にあふれていた。でもまたこの感覚をすぐに忘れて、どこにもひっかからないつるつるのプラスチックみたいな感性に戻ってしまうかもしれない。自分なりにつかみかけた、世界をきちんとあじわうということへの手触りを深めたくこの本を手に取った。

ページをめくる。ふむふむ、当たり前だと思って無視していたものに気づくこと、意味ではないものに注目すること、か。知ってる知ってる、シンプルライフやってっから。などと思っていると、すぐに足元を掬われた。「当たり前」の最初の例として出てきたのが「呼吸」だったからだ。呼吸! すみませんでした。私はそんなところからはスタートしてませんでした。呼吸。何も持たずに暮らしを始めるより、もっと前。

誰かに教えてもらったわけでもないのに、生まれた瞬間にはもう始めている、あたりまえの営み。でも、呼吸って、何をすることなのでしょう? 酸素を入れて、二酸化炭素を出しているという説明だけで納得できれば、話はとても簡単なのですが、よく観察してみると、ただ吸って吐くだけのことなのに、いろいろやってます。(ホモ・サピエンスの道具研究会『世界をきちんとあじわうための本』(ELVIS PRESS) p.14)

この文章の下には6つの写真があった。深呼吸する人、ふくらんだしゃぼん玉、ストローの刺さったドリンク、リコーダー、火のついたろうそく、たばこの灰皿。どれも呼吸のバリエーション、産物だ。

呼吸とは、いろんなかたちでいろんなものとかかわって、世界を楽しむシンプルなやり方のひとつだということがわかります。(同前 p.14)

呼吸とは世界との関わり。うおー、そこからか。その境地もあるのか。この本を手にとってよかった。80日を超えた私のシンプルライフチャレンジ、まだまだ味わえる深みがありそうだ。


【85日目】コロコロ

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ものが少ない部屋で暮らしはじめてから掃除が楽しい。家具を動かしたりして隙間に溜まったホコリを取り除いたりする必要がない。まず家具がない。ものが多いとどうも完全にはきれいになっていない気がして、常に心のこりがある。部屋を見渡して100パーセントきれいになったとわかるから掃除が快感になったのかもしれない。

いまや掃除は癒し。コロコロはもはや娯楽グッズ。朝、カーテンを開けて寝具を白い太陽の光に晒し、無心でコロコロをかけるとなにかが満たされていく。


【86日目】あらびき胡椒

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ここ数年であらびき胡椒の魅力に気づいた。中華、イタリアンなどあらゆる料理に使えるし、自分の調理の腕ではたどり着けない刺激をいとも簡単に与えてくれる。青椒肉絲にもカルボナーラにも合うのに、はちみつにも合う。すごいなあ。留学中、和食が恋しくなるから醤油を持っていくべしというライフハックを聞いたことがあるが、私は醤油のない国に醤油を持ち込むよりあらびき胡椒のない国にあらびき胡椒を持ち込みたい。あらびき胡椒がない国どこだろう。

柿生ハムクリームチーズにあらびき胡椒。晩酌のお供に自分のためだけに作ったのに家族に見つかって、おいしそうと言われたからあげた。時間をかけて包んだ生ハムを剥がして食べていた。おおおおおおおおおお (龍神がめざめる声)

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【87日目】酔い止め薬

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これは私に必要なものベスト100に入るアイテムだ。

100日間のチャレンジで手に入る100のアイテムは、イコール私に必要なものベスト100ではない。似ているようでちょっと違う。なぜなら本当に暮らしているから。酔い止め薬は私に必要なものだけど、もしこの100日たまたま車に乗る機会が少なかったら登場しなかったかもしれない。


【88日目】電気調理鍋

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無水調理もできる電気調理鍋。ホットクックっていう名前なのは、ほっとけるからなのか? 食材を切って調味料と一緒に入れて、メニューを選びスイッチを押せばあとはほっとくだけ。火加減の細かい調節と、かきまぜも自動でやってくれる。参鶏湯、牛すじ煮込み、タンドリーチキンなど、手間がかかるメニューも失敗なくできてお肉もやわらかい。お店!ってなる。料理はけっこう好きだけど、家事や仕事をしながらだと火を止め忘れてスープの汁が全部なくなり、鍋底に焦げた人参がせつなく張り付いていることもしばしば。火を止めなきゃとわかっていても、その一瞬さえ身動きが取れないこともある。ほっとけるありがたさ。たとえば日曜日の朝、5分で材料を入れてスイッチを押し、そのまま公園に出かけてしまう。すると帰宅してできたてのカレーを食べる、なんてこともできる。ありがたや。

シンプルライフのなかで持ち物をシンプルにすることを学んだけど、暮らしの行動をシンプルにすることも意識するようになった。と言っても、大切なのは一律で効率化するのではなくカスタマイズすること。鍋はひとつあればいい、という数の究極ではなく、便利家電はいらない、という丁寧さへの挑戦でもなく。私らしく心地よく手触りのある生活を続けていくためのカスタマイズ。


【89日目】綿棒

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耳掃除大好きなのに意外と遅くなってしまった。

4年ほど前、関西にある耳掃除専門店に行ったことがある。人気らしく、数ヶ月前から予約して当日を楽しみに待っていた。お店はビル、というよりマンションの一室で、20畳ほどのスペースの中央に施術用ベッドが1台だけ置いてあるのがちょっと異様だった。ベッドに仰向けに寝転ぶとちょうどいい位置にあるモニターで、自分の耳の中を見ることができる。これがずっと夢だった。プロに耳掃除をしてもらう心地よさももちろん期待していたが、耳掃除中の耳の中を見てみたいという好奇心が強かった。大丈夫かなこの話、もし人の耳掃除の話が苦手だったら90日目に飛んでください。いや、決して汚い話ではないんです、汚くないように書きます。いいですか? 

それで、数ヶ月前から予約したんだからセルフ耳掃除断ちをしてのぞめばよかったのに、意識しすぎて逆に耳が痒い気がし、結局こまめに掃除してから当日を迎えてしまった私だった。興奮の面持ちでモニターを見つめるも、そこに映ったのは大してやりがいのなさそうな空洞。空洞です。かろうじて? 産毛が健康そうだった気がする。なんだ……もっとすごいの見たかったです。私がもっと我慢していれば……と施術を担当してくれているストレートヘアが印象的な女性に言うと、彼女は「あっでも待ってください。ここに……」と何もないように見えた穴の中から器用に、白くて細いリボンのようなものを取り出した。なんかきれいで思わず私は、白蛇のようですね。と言った。女性は「縁起がいいですよ」と返してくれた。上品な人だった。ごめんなさい。私の中では縁起が良く上品な思い出だったけど普通に汚かったかもしれない。汚くないからと安心させて騙すようなことしてすみません。


【90日目】味噌

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シンプル行動のひとつ。液体味噌はかなり便利だ。 家族で味噌汁が好きなのが私だけ、ということもあってこだわりのお味噌を買っても使いきれず。液体味噌は溶かなくていいし、炒め物や煮物、和え物にも使いやすい。寒くなってきたので豚汁を作るぞ。


【91日目】ワンピース

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初期は効率を考え、洗濯機でガシガシ洗える服しか選べなかった。最低限の服が揃っていることと、残り日数が少ないことでやっとおしゃれ着てきな冬のワンピースを取り出すことができた。とはいえ外で着るのではなく、友人とのオンライン忘年会の際などに着用することになりそうだ。見えないのをいいことに下には部屋着ズボンを履くだろう。このワンピースをもし外に着ていくとしたら、このワンピースに合うタイツ、合うコート、合う靴、合う鞄が必要になってくる。もしかしたら合う指輪、合うイヤリングも。100日後にそれらを一気に手に入れたとき、両手で抱えきれない幸福でどうにかなるかもしれない。100日経ったら終わりじゃなくて、100日後なんでもある生活に戻ってからの心境の変化も楽しみだ。どうしよう、リミッターが外れていきなり福袋買ったりしたら。シーズンだし。福袋、シンプルライフの人が一番買わないやつやん。いや買いませんよ。たぶん!


【92日目】郫县豆瓣

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四川料理の基本の豆板醤。スーパーで売っているその他の豆板醤ではなかなか本場の味が出ない。郫県(現在の郫都区)というところでで作られているこの郫县豆瓣(ピーシェンドウバン)は、唐辛子やそらまめなどの具がごろごろ入っていて深みとコクがある。普段は大久保の中華食材店や通販などで購入して常備し、ほぼ毎日使う。和食より四川料理のほうが多い家庭なので食べ慣れたけど、私にとってはまだどこか旅のロマンを感じる調味料だ。毎回、ちゃんと中国のレストランの味がする!と感激する。日常に旅のエッセンスが馴染んでいるのは、私の暮らしのスタイルだなあと思う。


【93日目】洗えるペーパータオル

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先日このレポートで、アイテムとしてカウントしていない息子のおしりふきをウェットティッシュ代わりにして家中なんでも拭いてしまっている、というズル且つ非エコな告白をした。

ぞうきんや台ふきんがどうしても苦手だ。きれいに洗っても生乾きのときはにおいがあるし、衛生的じゃない気がしてしまう。でも漂白剤につけておくなどの手入れがどうしても面倒だ。わがままを言っているのはわかる。そこでそんなずぼらな私をほんの一歩だけサステナブルな答えに近づけてくれたのがこの「洗えるペーパータオル」だった。

まずは洗って繰り返して使う。ペーパータオル自体の汚れが気になってきたら心置きなく捨てる。台所だけじゃなくて洗面所やそのほか埃のたまりやすい場所などでも活躍しそうだ。

無理なく続けられるように/心地いいように道具や生活の行動をカスタマイズして、ほかのだれでもなく自分にとってちょうどいい環境をつくる、それが私の目指すべきシンプルライフなのかもしれない。それが仮に五角形のチャートにしたとき、ひどくいびつに見えたとしても。

続く


いよいよラスト1週間。次の記事はこちら→【モノなし生活94〜100日目】 もう、なにもいらない

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