【モノなし生活94〜100日目】 もう、なにもいらない
100日間のシンプルライフチャレンジ、最後の1週間の記録です。
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【94日目】鎮江香醋
中国料理で酢といえばこの黒酢のイメージ。酸味だけじゃなくコクや深み、香ばしさも出る気がする。普段の炒め物にもよく入れるけれど、正直、黒酢自体はマストアイテム100個に入るほどでもない。なのになんでここで登場したのか。それは、どうしてもこの豆乳スープが飲みたかったから。
台湾の朝ごはんにありそうな、鹹豆漿(シエンドウジャン)ふう。豆乳に酢を入れると、ちょっとだけ固まってゆるいおぼろ豆腐みたいになる。この変化が好き。とろとろの豆乳をかきまぜているとき、人はやさしい気持ちを取り戻す。いらいらしながらおぼろ豆腐を作る人、絶対いない。最近、おいしそうでおしゃれそうな台湾料理屋さんが続々オープンしているらしいのに全然行けてなくて、どうしてもこのスープが飲みたくなった。油条(揚げパンみたいなもの)の代わりに油揚げをカリカリに炒めてのせてみたら大正解だ。とろサクじゅわっとほおばるたびに自分を褒めながら完食。
80日目くらいまでは、1日1つアイテムが増えることが嬉しくてたまらなかった。もともと自分のものなのに毎日プレゼントをもらっているようなお得感。でも後半、頭痛で寝込んだ日ぐらいからか、毎日アイテムを選ぶことを「ノルマ」と感じる瞬間が出てきた。何が必要だろうと考えるのが少し億劫だ。大事なものランキングの順位に忠実な品物というよりは、まあまあ長い付き合いができそうなもののなかから、その日の気まぐれで欲しいと感じたものを選ぶようになってきた。
【95日目】テレビ
12月20日はM-1グランプリ決勝の日。最近は見逃し配信などもあるので95日目まではテレビがなくてもなんとかやってこられたが、M-1だけは絶対にリアルタイムで観たかった。2020年は他のどんな年よりもお笑いに支えられた1年だったという実感がある。毎週欠かさず聴くラジオ番組も増えたし、Youtubeで毎日のようにコントを配信している芸人さんたちの情熱に励まされた。そういうものに触れていると、世界が変わっても人間の灯は消えていないと思えた。
1日中つけっぱなしにするとさすがに疲れるだろうけど、見たいものを選んで視聴しているかぎり、テレビは豊かな時間の敵ではない。私の習慣的にはスマホのほうが何倍も時間泥棒だ。
【96日目】花椒
四川料理に欠かせない、しびれ担当の香辛料。四川省出身メンバーの多い我が家ではメジャーなスパイスで、96日間もこれを使わなかったのは珍しいことだった。花椒を解禁し、さあしびれうまい料理を作るぞ!とキッチンに立とうとしたら家族が先に麻婆豆腐と水煮牛肉を作っていた。私のシンプル生活で迷惑をかけないようになるべく自由に過ごしてもらっていたけど、花椒だけは知らず知らずのうちに我慢させてしまっていたようだ。
【97日目】日焼け止め下地
いつもなら日焼け止めは季節に関係なく年中塗っている。初期にも日焼け止めの存在がよぎったが、マスクで隠れるしいいか、と保留にしてきた。でもよく考えたらマスクをしているからこそ日焼け止めを塗ったほうがいい。顔の上部と下部で色が違ったらおもしろくなってしまう。気づくのが遅かったが、気づいてしまったらもう、いてもたってもいられなくなった。下地としても優秀で、塗ると顔がパァッと明るくなる。鏡を見て「顔あかる!」と思った。顔の電源がONになった。ほぼすっぴんで過ごす気持ち良さも、メイクでONにする晴れやかさも、やっぱりどっちも好きだ。
【98日目】ラップ
いまさらすぎる大事なものシリーズ。電子レンジがないから食べ残しが減る、食べ残しがないとラップの需要が下がる、というしくみ。電子レンジってシンプル生活前は毎日必ず使っていたけれど、なければないで全然困らないもの第1位かもしれない。あたためたければフライパンで焼いたり鍋で蒸したりすればいいし、そのほうがおいしい場合が多いのも発見だった。特に冷凍のたこ焼きはレンジでチンするより多めの油で揚げ焼きにするほうが断然うまい。肉まんも言わずもがな、蒸した方がふかふか。電子レンジよ〜全然なくていい〜。でもあったらあったでまた毎日使いそう。現金な私。
【99日目】オーブンレンジ
前日さんざんレンジは要らないと言いながら、その舌の根も乾かぬうちにオーブンレンジ。でもでも、レンジ機能のためじゃない。今日は12月24日。クリスマスは1年で最もオーブンが活躍するシーズンだと思う。ケーキを焼き、チキンを焼き、パイを焼く。いっそがしい。なくてもなんやかんや乗り越えられたかもしれないけれど。クリスマスって乗り越えるもんじゃなくて準備するのが楽しいものだからなぁ。オーブンは言うなればクリスマス準備ボックス。あと、素敵なレシピを見つけてどうしても試したくなった。
DJみそしるとMCごはんさんの、パイシートで作るクリスマスオードブル。ツリーの電飾みたいにぴかぴか光ってるイクラに誘われた。25日に作ろうかと思ったけど、25日にはケーキを焼くだろうし、料理を準備しつつケーキもパイも作ったらキャパオーバーで具合が悪くなりそうな気がしたので、セルフ・マネジメントの結果パイをイブの今日にスライドさせることにした。
お手本より膨らみが足りないけど、私にしてはよくできたほう。星の型抜きがないために包丁で無理して切った星がいびつで愛おしい。毎年の恒例にしたい。
【100日目】家族へのプレゼント
メリークリスマス。もうなにもいらない、今日欲しいのは楽しいクリスマスの時間だけ。誰かにプレゼントをあげるのは、自分がもらうよりずっと嬉しい。
もう気づいていた。なにかを欲するのに疲れてしまった。100個なんて全然足りないと思っていたのに。ものが増えるたび便利になっていき、1日目より100日目のほうが断然幸せなのだろうと予想していたけれど、最後はもうなにかを得ることから逃げ出したくなっていた。無意識になんでも手に入れていた頃は麻痺していたが、1日1つというペースで気がついた。心から何かを欲しいと思うのは、結構カロリーが高い願いだ。本来エネルギーが必要な行為を、効率と惰性のために心を無にしておこなってきた。そんな日々のなかでゆるやかに感性が閉じていったのも無理ない。
もう欲しくない、と言いながら、まだまだ足りない当たり前のアイテムもある。カバンも財布も取り出さなかった。だからといって今後私に必要ないものというわけではないけれど、なくてもなんとかなるという実感を得られたのは大きい。手ぶらでも不安にならない。素の自分が強化された感じ。なくてもいいのに所有するんだからよほど気に入ったものじゃないと、という選び方もできる。
【101日目】
シンプルライフを実践していた家からもとの家に戻った。これまで適当に欲して、最後まで責任を取らなかったたくさんのものたちからの視線を感じる。なんかおしゃれそうで買ったけど使いにくい、木の皮を編んだカゴ。かわいくて捨てられない輸入ビールの缶。使ってないのにずっとキッチンにあるガラスのティードリッパー。パスタの入っていないパスタケース。やめて、見ないで。ごめん。私が意識をかたむけられるものの数には限界があったのだった。目を合わせてお別れしていこう。シンプルライフチャレンジ101日目。これからあたらしい旅がはじまる。
おしまい
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これまで100日間の挑戦を見守ってくださったみなさま、ありがとうございました! チャレンジが終わって今日で5日め、いまはまだ腑抜けた感じでいます。ちょっと落ち着いてこの経験を俯瞰できるようになってから、実はいらなかったものとか実はめっちゃ大切だったものランキングとか、またあらためてまとめたいと思っています。とりあえず年内に100日目までのレポートを出しておきたかった。
家にいることが多い1年だったけれど、家のなかで大冒険することができました。初めてはさみを手にしたときのあのプリミティブなよろこび、いつまで持続するかな。暮らしはものでできているし、暮らしはものでできていない。来年はこの生活で気づいた「実は持っていた長い時間」をたくさん感じられるように過ごしていきたいです。みなさま、良いお年を!
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