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不動産価格の上昇から考える

12月28日の日経新聞で「惑う商品市況(下)都心、中古も「億ション」定着」というタイトルの記事が掲載されました。海外投資家の購入意欲が不動産市場を押し上げる形となり、日本人の所得水準からはますます買いづらいものになっているという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

「東京都心のマンションを探している。予算は30億円」。今年秋、不動産仲介のリストインターナショナルリアルティ(横浜市)に香港の実業家から問い合わせが届いた。

同社では海外の富裕層からの物件照会が右肩上がりで増えている。11月は前年同月比で2割増の195件。1~11月は2120件と、前年の同期間と比べて4割以上増えた。大半が投資目的だ。

2023年、都心部のマンションは一段と高騰した。不動産調査会社の東京カンテイ(東京・品川)によると、都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷)における中古マンションの平均希望売り出し価格は、直近11月まで10カ月連続で02年の集計開始後の最高値を更新した。

11月は70平方メートル当たり1億896万円。今年に入り中古マンションでも「億ション」が定着した。中古マンションは新築に比べ売買の流動性が高いため、住宅市況の温度感を映しやすいとされる。

同じ東京23区でも、エリアによって売買市場の景色に違いが生じてきている。都心6区で値上がりが続く一方、品川区や世田谷区といった城南・城西6区および練馬区や江戸川区といった城北・城東11区では頭打ちとなった。21~22年は3エリアそろって値上がりしてきたが、今年に入ってからは都心6区の独歩高が鮮明だ。

東京カンテイの高橋雅之主任研究員は「それぞれのエリアにおける主な買い手の購買力の変化」と指摘する。都心6区をけん引する一角として目立ってきたのが投資家だ。とりわけ海外マネーは円安の追い風も生かし、資産性が高い優良物件を買いあさる。

これに対し、城南・城西6区と城北・城東11区では「実需層」と呼ばれる国内の一般家庭が主な買い手だ。家庭の懐事情は厳しい。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、1人あたりの賃金は物価を考慮した実質が10月まで19カ月連続でマイナスとなった。物価高に賃金の上昇が追いつかず、一般消費者にとり住宅は高根ならぬ「高値の花」の様相を強めた。

今後も実需の住宅購入には向かい風が吹きそうだ。市場では日銀が24年にもマイナス金利政策を解除するとの観測が広がる。金利上昇で住宅購入時の借り入れコストが膨らむ。「金利ある世界」の足音が近づく中、日本の不動産を買える海外の富裕層と買えない国内の一般層との差はますます広がりそうだ。

同記事からは3つのことを考えました。ひとつは、不動産価格全般が下げに転じる可能性は低いのではないかということです。

知人と会話をしていると、「不動産価格は上がりすぎている。バブルだと思う」という話を聞くことがあります。90年代前半にバブル経済が崩壊して不動産価格が暴落しました。崩壊前には不動産価格が高騰しました。その状況を彷彿させるのと、当時の価格水準を超えるような物件も出始めているために、そのような印象を持ちやすくなります。

そのうえで、当時とは状況が大きく異なります。不動産を価値化・活用するために必要となる資材費や人件費が上がり続けています。国内人口の減少は国内の不動産買い手減少につながりますので、不動産市況にとってはマイナス要因です。一方で、人手不足はプラス要因になります。資材費はその多くを国外に依存しますので、こちらも今後引き続きプラス要因となります。

マイナス要因とプラス要因のどちらがどれぐらい有利になっていくのかは、だれにも詳細はわからないところだと思いますが、どちらか一方だけにぶれるというのは想定しにくいのではないでしょうか。

国外の影響という観点では、不動産の内外価格差が、バブル当時とは大きく異なっていることも指摘できます。当時は、日本が世界一の経済大国になるのではないかと言われていたような時期で、国外の個人が簡単に買えるようなものではありませんでした。しかし、それ以降他国の経済力が相対的に日本を上回る勢いで高くなっていきました。今では、冒頭のように個人の買い手も積極的に物色している状況です。

先日、ある不動産会社の知人から、「城東エリアで、億に近い築30年の高層階を売り出したところ、中国人が即決で購入した。その後2000万円ぐらいかけて室内を大改装している」という話を聞きました。同記事では都心6区が取り上げられていますが、6区以外でも似た状況は広がっていくものと想定されます。

人の移動が今後さらに盛んになれば、投資用に加えて、日本にセカンドハウスや別荘を持とうという海外の買い手にも価格は左右されることになると考えられます。国外の不動産価格は経済拡大・インフレによって基本的に上がり続けます。国外の買い手は各国間で相対的に割安な物件を探します。国内不動産価格はその動きにある程度連動することも、プラス要因として働きそうです。

2つ目は、市況全般的には価格が上がっていくとしても、その中で個々の物件が選ばれるかどうかの結果や優勝劣敗は広がりやすくなるのではないかということです。

今後の日本では、人口減少や道路などの社会インフラの老朽化によって、住みやすい環境とそうでない環境の差が開いていくことが想定されます。投資目的にせよ自身の居住目的にせよ、どんな物件でもよいわけではありません。個別の商品の内容によって価格がつくかどうかの是非が変わってきます。

環境・立地や建物の特徴など、魅力的な要素があるものほど選ばれやすくなるという当然の視点が、今後ますます重要になるということだと思います。街づくりの観点からも、ショートステイ目的・永住目的のいずれにしても、魅力的なエリアにしていくことがますます大切になるということが言えます。

3つ目は、これらの視点が他の分野の商品・サービスも同様に言えるということです。

よく似た構造にあるのは、ホテル・旅館業界だと考えられます。廃業するホテル・旅館もある一方で、全体的な宿泊料金の相場は上がり続けています。その中で個別には、より強気な価格設定をしているホテルや旅館も見られます。相場の上昇要因のひとつは外国人宿泊者です。外国人にとって、日本の宿泊料金は年々割安になってきたという背景があります。

このことは、物販や法人向けビジネスなどでも同様のことが言えるはずです。買い手は国内だけでなく国外にもいる、今後ますます国境を越えて最適なものを選ぼうとする流れは続いていく。そのように考えると、国内の人口動態や市場規模、業界の過去のトレンドだけでは想定できない将来の動きがあると言えそうです。

あらゆる分野の事業、商品・サービスにとって、共通する視点ではないかと考えます。

<まとめ>
将来の動きは、国内の動きや過去の業界トレンド以外の要因にも左右される。

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