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ニューロダイバーシティーを考える

1月20日の日経新聞で、「御社に「脳の多様性」はあるか」というタイトルの記事が掲載されました。人手不足に直面しながら事業創出を求められる企業の間で、「脳の多様性」を意識した経営が今後広がるという、調査会社の米ガートナーの将来予測を紹介した内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

IT(情報技術)に強い調査会社の米ガートナーが昨秋、10の将来予測を発表した。生成AI(人工知能)やロボットの台頭などに交じって目を引く項目がある。

「2027年までに『フォーチュン500』の有力企業の25%が自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)、読書障害といったニューロダイバージェントな人材を積極採用し業績を向上させる」

キーワードは「ニューロダイバーシティー」だ。直訳すれば「脳の多様性」などとなるが、臨床心理士でこの分野に詳しい村中直人氏によると、「脳や神経、それに由来する個人レベルでの特性の違いを多様性ととらえて尊重し、社会で生かそう」という考え方を含んでいる。

企業経営とも密接に関わる。障害を抱える人の就業はときに困難を伴うが、例えば周囲の音が過剰な刺激となる人には雑音を消すイヤホンの利用を認める、口頭で指示されるのが苦手な人とは文書でコミュニケーションするといった小さな対策でもハードルは下げられる。労働力に厚みが増せば、企業にとってプラスだ。

なかにはパターン認識や記憶、計算などで際立った能力を示す人がいる。イノベーションの糸口になりうる。独SAPや米IBMのように自閉症者を雇用し、戦力とする大手が欧米では少なくない。

日本もこのテーマを軽視できない。野村総合研究所の推計では自閉症スペクトラム障害(ASD)、ADHDと診断される人は約140万人。働く機会の少なさなどによる経済損失は年2兆円を超すという。国の調査も発達障害の診断が増える傾向を示している。

課題を乗り越える試みはある。新興のウェルステック(東京・千代田)は発達障害などの人に就労機会を提供する「就労継続支援B型事業」を手がける。一般にB型は単純作業が多いが、同社は動画編集やブログ執筆など付加価値の高いデジタルな仕事を用意する。

障害を抱える人の選択肢を増やす活動が大事なのは言うまでもない。ただ、ニューロダイバーシティーの概念を障害者雇用の枠組みで狭く解釈してはもったいないと臨床心理士の村中氏は訴える。

障害の有無とは関係なく、そもそも人の脳は多様で、もののとらえ方、体験、感覚は人によって違う。ニューロダイバーシティーはすべての人を理解するためのカギとなる――。そんな主張だ。

四半世紀前にこの言葉が唱えられて以降、脳神経科学は進展し、脳の個人差についての研究も目立つようになった。多様性に満ちた人間を「ふつう」「平均的」といった基準でくくり、全員に固定的なルール、尺度をあてはめるとするなら無理が生じる。

企業経営で考えれば「力を発揮できる条件は社員ごとに異なり、個別に最適化した働き方が重要」ということになる。だから村中氏は新会社を設け、働き方の調整(アコモデーション)に取り組む企業の支援を始めた。

世の中には朝型の人、夜型の人がいる。遅寝遅起きで夜にこそ実力を出せるという人に「さあ朝だ、頑張ろう」と迫るのは合理的と言えない。静かな場所でしか集中できない人もいれば、周りに人がいてざわつく環境で能率が上がる人もいる。在宅・オフィス勤務の最適な比率は千差万別のはずだ。

(私の場合、机でパソコンに向かって原稿を書くより、電車に揺られてスマートフォンで、という方が作業がはかどる。これも「脳の多様性」のせいだろうか)

村中氏が話す。「互いに似ていない脳がチームとなり頭をひねるからこそ新しいものが生まれる。率直かつ安全に情報や意見をやりとりし、アイデアをかけ合わせることでイノベーションは起きる」

昨今、雇用する人材の多様性を確保する「ダイバーシティ」の必要性が叫ばれています。ダイバーシティのテーマでは、年齢、性別、国籍などで様々な属性の持ち主を雇用して活躍できる環境づくりが話題になる場面を多く見かけます。子育てや介護など、本人以外の事情を抱える人に対してどのように就労環境を提供できるかの論点もよく見かけます。

同記事では、それらと比べて進みにくい障害者雇用も重点的に取り組むべきだとしています。加えて、テーマを「障害者雇用」ではなく「ニューロダイバーシティー」と位置付けて、脳の多様性のひとつと捉えることを主張しています。

同記事で夜型の人について取り上げていますが、夜のほうが作業がはかどるという夜型人間の人を、私の周囲でもこれまでに何人も見てきました。介護施設で、夜シフト専任で働く「夜専雇用」として雇用され、「夜以外働きたくない」という介護士の方に会ったこともあります。

考えようによっては、朝型の人、朝~昼型の人、夜型の人などがいて、さらに同じ朝型でも早朝型の極から緩い朝型までいろいろいて、平均どころをとって会社での就業時間が決まっているのかもしれません。

就業時間を職場で一律にするのがよいか、各人の自由に任せるのかは事業やビジネスモデルなどの事情もあり、一概には言えません。そのうえで、全員に対して不必要ではないかと思われる固定的なルール、尺度をあてはめる例も見かけることがあります。例えば、以下などです。

・完全テレワーク、就業時間も従業員の事情に合わせて裁量で設定してよい、という方針ながら、必ず勤務時間に含めないといけないとされる一律のコアタイムが4時間存在している。

・各チームのメンバーの間で行われるメンバー会議について、メンバー同士の都合のみで決めることに全社での制約がある。○時~○時までの間で行われなければならないと、実施時間帯が決められている。

法令に合った内容のルールでなければならず、労務管理の問題もありますので、就業時間の環境設定をすべて従業員の裁量にゆだねるのは難しいかもしれません。そのうえで、「そのルールは、本当に必要不可欠で、生産性を上げるために役に立っているのか?」という問いは大切だと思います。

私は今ちょうど、メンバーと協力しながら資料作成を進めているプロジェクトがあります。そのメンバーはアイデアマンで、知識豊富です。情報収集と思いついたアイデアの吐き出しや、図を書くのが得意です。私はあまりアイデアマンではなく、情報収集もあまり得意ではありません。どちらかというと、誰かが吐き出したアイデアをまとめて、一連の文章にまとめていくことのほうが得意です。

以前は、資料のパートを分担し、それぞれがほぼ同ページ数ずつの資料を作成するというやり方をしていましたが、今一つ進捗が早くありませんでした。そこで2人で話し合ってやり方を以下のように変えました。

・資料の担当パート分けをやめて、作成プロセスで分けることにした。そのメンバーが、歩きながら独り言で吐き出したアイデアを音声入力し、保存したテキストファイルを私に送ってくる。

・私がそのファイルに書かれた内容から、目的に合った要素整理、論理構成にして、文章として完成させる。完成させたファイルをそのメンバーに送る。

・そのメンバーは受け取ったファイルの文章を読み、思いついた図を差し込む。

この方法に変えることで、体感的には進捗のスピードが2倍になり、双方の満足度も大幅に高まりました。これなども、「ニューロダイバーシティー」を生かした協業だと言えそうです。上記に挙げた、就労時間や就労場所などの環境設定だけではなく、お互いの強み分野を生かした作業領域の柔軟な調整も、「ニューロダイバーシティー」の実践だと言えると思います。

経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。そして、次のように説明しています。(経済産業省HPより抜粋)

「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。

私たちは皆、脳や神経の違い、それによる得意、不得意な要素を持っています。そして、自分にとって当たり前の基準を、他者にも適用したくなります。その基準で「なぜこんな簡単なことができないのか」と他者のことを見たくなりますが、他者も別のテーマでは同じように自分を見ているものです。

可能な限り、仕事などの中でニューロダイバーシティーを実践できれば理想的だと、同記事から考えます。

<まとめ>
脳や神経の違いによる特性の違いを、お互い多様性ととらえて活かす。

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