賃上げと労働分配率を考える(2)
6月4日の日経新聞で「大企業、賃上げ余力大きく 昨年度の労働分配率38%で最低」というタイトルの記事が掲載されました。
同記事の一部を抜粋してみます。
賃上げのテーマを聞くことが増え、先日の投稿「賃上げと労働分配率を考える」で賃上げと労働分配率について取り上げました。上記の記事は、労働分配率について最新の算出を試みた結果のようです。
厚生労働省による労働経済白書「令和5年版 労働経済の分析」にOECD諸国との労働分配率の国際比較のデータがあります。それによると、例えば次の通りです。
左から、年・日本・英国・米国・フランス・ドイツ
1996~2000 62.7 53.2 60.5 56.3 58.5
2001~2005 59.1 56.1 60.0 56.3 57.6
2006~2010 58.7 57.8 58.0 56.4 55.8
2011~2015 57.2 57.0 56.5 58.1 57.2
2016~2020 57.2 57.7 57.3 57.9 58.3
同記事では、労働分配率が下がっていき、大企業が38.1%、中小企業が70.1%になったとあります。両者をならすと全体で50%台になると想定されます。そのうえで、上記国際比較にある57.2%は2020年までですので、同記事から想定するとここからさらに下げていると思われます。
国際比較では、以前に比べばらつきが少なくなっているようです。ここ2-3年の企業業績が堅調だったのはなにも日本だけではありません。同記事の示唆する図式は、他国にも当てはまっている可能性があります。そのことを勘案すると、日本全体での現在の労働分配率は、国際的に一般的な水準であり、同等程度とざっくりとらえてよいかもしれません。
全体としてはそうだとして、大企業・中小企業間で大きな差異があります。大企業の38.1%は賃上げ余力があることを示していますが、中小企業の70.1%は下がったとはいえ依然として高い水準だと言えます。先日の投稿「賃上げと労働分配率を考える」でも取り上げてみたように、賃上げと合わせて商品・サービスで適正な値上げを行っていくことも大切になってきます。
また、賃上げについても、一律に行うのかは論点になります。
先日ご一緒した企業様でも、物価上昇分を踏まえた一律のベースアップを行うと同時に、評価結果に応じて昇給金額を分けている定期昇給の現行ルールから、さらにメリハリをつける見直しが行われました。
物価上昇分は等しく社員全体に賃上げを適用するが、それを超える賃上げ分は会社として評価・厚遇したいパフォーマンスや能力開発が認められる者に対して、従来以上に優先配分するルールに変えるというわけです。過去に比べて大がかりに賃上げの対応をするタイミングは、自社の目指す分配ルールを明確にし見直す機会にもなると思います。
直接の賃金以外にも、資格取得への補助や教育研修費の支出を拡充し、人材育成への投資を増やすという対応も、生み出した利益を人件費関連で有効に活用する方向性として考えられます。
適正な労働分配率の値に、決まったひとつの正解はありません。業種やビジネスモデルによって一定の傾向もあります。自社としての適切な目安を設定し、その維持、それに沿ったメリハリのある還元を行うことを目指せるとよいと思います。
<まとめ>
自社としての適正な労働分配率を設定し、それに沿った方針策定を行う。
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