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人生のハンドルを握り扉を開ける(2)

前回は、月間致知6月号の、井村屋グループ会長CEO中島伸子氏への特集取材記事「希望は失望に終わらず 人生のハンドルを握り扉を開けられるのは自分だけ」をテーマにしました。壮絶な体験という苦難を糧に変えていくことについて考えました。

個人的に印象に残った部分から、その他にも2点考えてみたいと思います。

・方針や目標の実現には、それを可能にするための十分な仕組み・取り組み必要である

同記事から一部抜粋してみます。

──理念をいかにして現場に浸透させておられますか?

理念やパーパス(企業の存在意義)って何となく掲げて言葉が独り歩きする場合がよくありますけど、それでは意味がありませんので、一人ひとりの社員が自分の腑に落ちるようにしています。

一例を挙げると、「井村屋マインド」という心得を毎年配り、全員が常に携行し確認できるようになっているんです。朝礼でこの心得に書かれている「期待する人財像」や「10(Ten)action」に照らし、自分自身どのような人物になりたいか、いま実際に何をしているか、もしくは何をしてきたか、課題は何か、これから何をやりたいか、ということを皆の前で発表する。それをメンバーと共有し、意見をもらう機会を設けています。

毎月1日には社長メッセージがあり、全社員に発信されますし、部門長や管理職からの朝礼は各会社本部全員の前で週1回、チームごとの朝礼は毎日行っています。

──実体験を交えて、自分の言葉で「井村屋マインド」を語ると。

そうです。私はいつも思うんですよ、具体的に何か実行しなければいけないって。言っていることは立派だし、理路整然としているけど、行動しないというのはダメですね。そういう人は失敗もない代わりに成功もない。地に足をつけて、自分の経験や体験を積んで人生を歩んでいくことが一番大事だと思います。

自発でチャレンジし、失敗したとしてもそこから学び、次の成長に結びつける。PDCAを回し、やりがいを高めていく。そういう風土づくりにいま一所懸命努めているところです。

──社員教育に余念がないですね。

2011年に総務人事担当の常務として本社勤務になった際、女性の管理職は私を含めて2人しかいませんでした。また全社員の経歴を見てみると、昇進に制限のある一般職やエリア総合職の中にも、立派な特技や資格を持っている優秀な人がたくさんいました。

そこから2年かけて総合職に一本化する人事制度をつくり、さらに2年かけて摩擦が起こらないよう一人ずつ面接し、丁寧に説明していったんです。併せてメンター制度や女性社員研修、通信教育の学費助成などを推進してきました。

その結果、かつて1%以下だった女性管理職比率は現在15%になっています。また当社では通信教育を受講して資格取得することを昇格昇給の要件の一つにしていますが、社員約900名のうち自己啓発含めて約600名は継続して学んでいます。各社員が持っている公的資格を調べたら、産業カウンセラーやキャリアコンサルタント、中には合格率約6%の難関である社会保険労務士など、全部で2,500種類ほどあったんです。

──それは驚異的です。

ある社員が「勉強は自分自身のためにするもの。単なる昇格昇給の手段としてではなく、生涯学ぶことが本質だ」と言ってくれまして、それを聞いて私はすごく嬉しかったです。「学ぶ組織」って強いじゃないですか。

また、社内のよりよい人間関係づくりを目的として、2013年から「サンキュー活動」や「一Qさん活動」に取り組んでいます。「サンキュー活動」は社員同士で感謝したいことを専用のカードに記して渡すことで、相互に励まし合い信頼を築いていく。「一Qさん活動」は消費者の立場で自社の商品やサービスに対する疑問点や改善点を投書し、商品開発やサービス向上に繋つなげていく。これを年に一度、表彰しています。

──組織の活力を高めるために、様々な仕組みを導入されている。

それと長く続いている1つに、社員の誕生日会を定例で開催しています。これは2代目の井村二郎の時から60年以上続いている当社の伝統なんです。社員数が少なかった頃は3か月に1回の頻度だったそうですが、いまは毎月1回、その月に誕生日を迎える社員をレストランに招待し、フルコースを食べながら、経営陣も交じってコミュニケーションを取る。累計800回を超えているんです。

一人ひとりの成長を願い、明るく使命とやりがいをもって仕事をし、チームで心を一つにしてお客様においしいものを届ける。その理念のもとこれらの活動を通じて、顧客満足と従業員満足を高めると共に、企業としてさらなる成長を図っています。

同社のHPを見てみると、以下の「ミッション」「ビジョン」「パッション」が掲げられています。さらには、「期待する人財像」や「10(Ten)action」も含まれた「クレド」も掲げられています。

(M) ミッション(社会的使命)
「おいしい!の笑顔をつくる」
お客様の食生活においしい!の笑顔の輪を広げ続けましょう。

(V) ビジョン(ミッションを果たす道程)
Be always for Customers!
社員一人ひとりが、いつでもお客様の立場に立って、いつもお客様のことを意識し、行動しましょう。

(P) パッション(情熱、心意気、行動)
「イノベーション(革新)」
パッションの原点はイノベーション(革新)の発揮です。 あなたの「変える」が企業を成長させます。

朝礼で理念やクレドを読み上げるという仕組みはあっても、お題目のように読み上げるだけではあまり効果がありません。同記事のように、朝礼に参加する各人が自分の頭で理念やクレドと照らし合わせて考え、発表するなどの取り組みがあって、初めて生きた仕組みになると言えます。

同記事からは、理念やクレドが飾り物ではなく、社員一人ひとりに浸透し各人のものとして日々の実務に活かされるようになるための、仕組みと取り組みが充実していることがうかがえます。

同社では、女性管理職比率の目標達成(もちろんこれだけが目的ではないわけですが)を目指して人事制度のルールを変える、全メンバーの保有資格をあぶりだして技能を可視化しさらに磨きをかけるようにする、風土づくりのためのルールを作って力を入れて運用する、などが見受けられます。

女性管理職比率の目標を掲げている企業も時々見かけますが、掲げているだけでは施策として不十分です。同社の例のように、実際にそれを実現させることにつながる仕組みと取り組みが伴ってこそ施策と言えます。

それにしても、900人で2,500種類の資格があるということは、2500÷900=2.78となります。同じ資格を複数人が持っているということもあるはずですので、1人当たり平均で4つや5つといった数、あるいはそれ以上の資格を持っているのだろうと想像します。学習する文化がなしには実現できない状態だと思います。

メンター制度、研修制度、資格取得支援制度といった仕組みだけでも不十分。そうした仕組みなしにみんなで学んでいくという声かけや行動といった取り組みだけでも、十分な推進力を発揮するには不足感あり。仕組みと取り組みが同時に充実することで、学習する文化は実現できるのだと考えます。

ところで、普段の仕事の中で企業関係者から時々、「組織全体で学ぶという文化を高めていきたい。いろいろな方法があると思うが、何が一番重要と考えるか?」という質問を受けることがあります。その際には、「最も重要なポイントは、職位の高い人が率先して学んでいることではないか」と答えています。

「学ぼう」と言っている経営陣や上位管理職者が勉強していなければ、メンバーにとってはまったく説得力がありません。職位の高い人ほど多くの時間を勉強に投入しているという取り組みは、学習する文化づくりにおいて欠かせないと思います。

続きは、また次回取り上げてみます。

<まとめ>
目的に適った「仕組み」と「取り組み」の双方を充実させる。

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