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DX化の事例から考える

先日、ある経営者様との話の際、「DX化を進めようと思うが、成功させるための要諦は何だろうか」という問いかけがありました。自社が進めたい何をもってDX化と定義するのかは会社によりますし、要諦もひとつではなくいろいろあるはずです。

そのうえで、次の2点は外せない要件ではないかとお話しました。

・トップ(組織のリーダー)の強い意志で活動を主導すること
・立場や世代に関係なく、その方面に明るい人材(特に若手)を積極的に推進メンバーとして登用すること

6月23日のテレビ番組「がっちりマンデー!!」で、株式会社アズパートナーズを取り上げた特集がありました。「高齢者ホームをDX化してがっちり」というテーマでした。

同社は、介護付きホーム、デイサービス、ショートステイの運営など、高齢者向け事業を中心に手がけている会社です。2024年4月に東京証券取引所スタンダード市場に上場しています。

同番組で紹介されていた内容を、一部抜粋してみます。

・関東27か所で高齢者ホームを運営。施設、利用者数、従業員数、売上は、20年前の創業以来右肩上がり。前期売上は174億円で過去最高。

・利用者の従業員に対する印象「ケチつけるはずないじゃない(すばらしい)」「皆さん優しいからね」「若い方ばかり」「パワーをもらおうと」

・従業員の平均年齢は、一般的な高齢者ホームで46歳。同社は28歳。新卒がここ3年間で毎年170人以上ずつ入社している。

・夜勤では、若手従業員がスマホを操作している。3時間に1回、各利用者が眠れているか、ベット上で過ごしているかのチェックを「眠りコネクト」というスマホ上のアプリで行う。全室のベッドに埋め込まれたセンサーとアプリが連動し、熟睡中かどうか、ベッド上か離れているかなどを把握できるほか、心拍数・呼吸数なども表示される。

・高齢者ホームで一番たいへんな業務は夜勤の定期巡回。入居者の全室に対して1晩3回以上巡回が必要という規則がある。これがたいへんで、人材の離職理由の筆頭格になっている。

・しかし、アプリを開発したことで、夜勤の巡回業務を効率化できた。夜勤の定時巡回業務を、一般的な高齢者ホームでは従業員6人が5時間かけて行うところ、同社では3人・20分で同じことが実現できている。アプリを見て問題がなさそうなら部屋には行かないため、せっかく寝ている利用者を起こしてしまうこともない。

・社長が東京都などの自治体に直談判に行った。「スマホを使った、入居者にとっても良い巡回方法がある」と粘り強く直談判し、直接巡回しなくてもスマホでのチェックOKを認めてもらった。

・従業員の反応「タイパいいと思います、とっても」「全室を直接見に行かないといけない施設もあるが、想像してもたいへん」

・夜勤の仕事効率がよくなる、従業員の負担が減って昼の仕事がしっかりできる。利用者も喜び、仕事のやりがいも感じやすくなり、若い従業員が増えていく。Win-Winの好循環。他社に対して、ベッドとスマホの連動システムを使ったコンサルティング事業も始めている。

・このすごいシステムの開発のきっかけは、若手従業員からの発案だった。
社長「この業界で10年やってきてますというような人は、なかなか自分たちのやってきたケアを変えられない。新卒の人は自社で初めてケアをする。なんでこんなことやってるの?これって大変じゃない?と気づく」

私もかつて、数か月間という期間ではありましたが、介護事業の現場で仕事に従事していたことがあります。その道のプロの方に比べると極めて限定的な知識と経験ではありますが、介護事業にまったく接点のない人よりは現場事情をイメージできるものと思います。

介護事業所での夜勤業務は、上記にあるようにかなりの身体的負荷がかかります。加えて、人命にもかかわるという緊張感からくる精神的負荷もかなりのものです。「やりがいは感じているが、自分には今後物理的に継続していけそうにない」と感じてしまうことが、他の理由も複合的に重なることで離職につながるというケースはよく見られました。(中には、夜勤手当が稼げるということで、夜勤専門で勤務を希望する人もいましたが)

その時の経験も踏まえると、「従業員6人が5時間かけて行う→3人が20分で行う」に変わることは、相当な職場環境のイノベーションだと想像します。

同事例から3つのことを考えてみます。ひとつは、リーダーの強い意志と、権限移譲・知恵のボトムアップの必要性です。

つまりは、冒頭の2つの要件です。DXのような組織のあり方や業務プロセス、管理方法などを根底から変えるような取り組みは、リーダーの強力なコミットメントなしになしえません。

同時に、DXの具体的な企画を立てる最適任者がリーダーとは限りません。往々にして、若手人材を中心とする他者のほうがその分野に明るく、知識豊富で最適なことがあるものです。特に「自分はデジタルが苦手なオールディーズ」と自覚するなら、企画立案の権限などを含めて適任者に裁量を持たせて任せることが、うまくいくためのポイントだと思います。

そのうえで、放任はせずに自身も学ぶことです。少なくとも、研究開発の予算を投入する是非やプロジェクト自体のゴーサインを、最終的に自身が判断し決裁できる程度にDX(に限りませんが)について理解しようとすることも、リーダーに求められる要件だと考えます。

同社の例も、導入はそう簡単ではなかったのではないかと想像します。

これまでの現場で蓄積されたやり方、業務プロセスの方法論が確立され、シフトのローテーションも組まれています。「従業員6人・5時間」を「3人・20分」にするようなまったく新しいインフラ・仕事のやり方への転換は、それまでの業務に慣れて当たり前だと思っていた人には心理的抵抗が大きいはずです。「本当に3人にして大丈夫なのか」といった異論もあったのではないかと思います。

そうした抵抗を突破し、強い使命感で組織全体を変えるようなプロジェクトを完遂できるかどうかは、最後は責任者の意志によるのではないかと思います。

続きは、次回取り上げてみます。

<まとめ>
DX化のような組織変革は、リーダーの強い意志と権限移譲・知恵のボトムアップが必要。

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