ダイナミックプライシングの今後

7月11日の日経新聞で、「TDR(東京ディズニーリゾート)、最繁忙期値上げへ」というタイトルの記事が掲載されました。来年度のディズニーシー拡張時に、値幅の設定を拡大することで入園者分散を図るという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

TDRを運営するオリエンタルランドは2023年度の「ディズニーシー」の大規模拡張を機に入園チケットの変動価格幅を拡大する。現在は時期に応じて7900~9400円の範囲で変動する(大人の1日券の価格、500円刻みに4段階)が、最安値を維持しながら幅を広げる方針で、最繁忙期は値上げとなる。休日に偏った入園者を平日に分散、園内従業員もアルバイトから平日も働きやすい正社員に軸足を移し、需要の平準化に対応する。

価格幅の拡大はディズニーランドとシーの両パークを対象にして、需要などを見極めつつ検討していく考えだ。具体的な価格幅は消費者への調査を踏まえて今後決める。来場者数を減らさないため、最低価格は据え置く意向だ。

これまで混雑緩和には施設の拡張や営業時間の延長で対応してきた。それでも新型コロナウイルス禍前は、土日や連休にはアトラクションでの長い待ち時間が常態化していた。吉田社長は「従業員の雇用や来園者の満足度を考えると、より持続可能な運営方法に変えるべきだ」と話す。新型コロナの時短営業や入場制限で来園者を減らしたことが、結果として客単価と利用者の満足度向上につながったことも背景にある。

入園チケットの価格改定と併せて満足度を上げるために効果的とみるのが、5月に導入したアトラクションを時間指定で予約できる有料サービス「ディズニー・プレミアアクセス」だ。有料サービスの拡充は新たな収益源にもなり、吉田社長は「今は一部アトラクションのみが対象だが想定よりも購入率が高く、拡大も選択肢」と話した。

同リゾートの価格改定については、先日の投稿でも取り上げました。今後の年間入園者数の目標を、過去最多の18年度(3255万人)を2割下回る水準とし、1人あたりの売上高を2割高い1万4500円とする方針を発表しています。休日と平日の来園者数のブレを抑えながら、サービスを充実させることで収益力を高める狙いです。

同記事からは、2つのことを考えてみました。ひとつは、平等から公平へのシフトです。

「平等」と「公平」については、以前の投稿でも考えました。

以下のような例で、2500円ずつ同額を4人が受け取るのは平等。そうではなく、Aさん4000円、Bさん3000円、Cさん2000円、Dさん1000円を受け取るのは公平ということです。

・Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、4人の労働者がいる
・その日の製造計画は全体で10個だった。Aさんは4個、Bさんは3個、Cさんは2個、Dさんは1個作った
・作られたもの10個は、品質がどれもまったく同じで、基準を満たしたものだった。全部で10個製造できたので目標達成
・10個の製造によってその製造工程で得られる利益が1万円だった

同リゾートの価格改定は、来園時期による価格差を一層大きくするわけですので、一層「公平」寄りにシフトする動きだと言えます。このことについて、「閑散期や平日に行きたくても行けない人は、高い料金を払わざるをえず、不平等」という意見もあるかもしれません。

しかし、大型連休など、みんなが行きたがる時期に行き、その時期にやはり遊びに行きたいパークのスタッフを多数出勤させる来園者は、相応に高いお金を払うべきだという「公平」の観点の意見もあります。今回、後者の考え方を軸にした動きだと言えると思います。

2つ目は、ダイナミックプライシング(需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法)が、今後ますます広まっていくのではないかということです。

ダイナミックプライシングは、航空運賃やホテルの宿泊費では、以前から当然のように導入されています。年末年始の一番のピーク時に飛行機で移動して高級旅館に泊まる旅行をしたければ、天文学的と思えるような高額な旅費が必要になります。一方で、同じ移動という手段でありながら、鉄道やバスなどは、自由な価格設定が認められていません。おそらくは、「より生活に密着した移動手段は、平等に利用できるべきだ」という考え方が強いからだと想像します。

しかし、通勤ラッシュ時や年末年始などと閑散時で同じ料金は妥当なのかという議論があり、少し前から鉄道などでもダイナミックプライシング導入の是非が検討されています。難しい議論ではありますが、同リゾートのような私たちにとって親しみのある領域での導入から慣れが広まっていくことで、より様々な領域に一般化される展開が考えられます。

思い付きですが、例えば次に鉄道の料金改定が必要と判断された時期には、繁忙期の時間帯だけ値上げするといったところから始まるかもしれません。

しばらく前に、ある経営者様から、「どうしても必要な部品を届けてほしいと運送業者さんに依頼したら、以前の料金の何倍かする驚きの見積もりが来た。それでも事業活動に必要だったので、仕方なく払った。意地悪しているわけではなく、供給制約のあおりを受けてのことなので、運送業者さんの立場もわかる」と聞きました。これもダイナミックプライシングの一種と言えると思います。

個人の事業活動でも例えば、翻訳の仕事で急な納期を突きつけられる依頼の場合、同じ翻訳量の仕事であっても特急料金を上乗せすることは、人によっては以前から取り入れているやり方です。これもダイナミックプライシングの一種と言えるでしょう。

公平の観点からのダイナミックプライシング導入が、自組織や自身の事業活動にも必要性がないか、これまで以上に考えていくべきかもしれません。

<まとめ>
ダイナミックプライシングを、公平の観点から改めて評価してみる。

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