見出し画像

有力株の保有を考える

4月27日の日経新聞で、「京成、脱・鉄道偏重に難路 今期、4期連続損益改善見通し 東京ディズニー株巡り圧力」というタイトルの記事が掲載されました。東京ディズニーリゾート運営のオリエンタルランド株を売却し、成長投資と株主還元に関する計画を示すよう、一部の株主から提案されていることに関連して考察されている記事です。

同記事の一部を抜粋してみます。

京成電鉄は26日、2025年3月期の連結経常利益が前期比13%増の581億円になる見通しだと発表した。損益改善は4期連続だ。株主から求められている東京ディズニーリゾート運営のオリエンタルランド(OLC)株の売却については方針を明らかにしなかった。

この日発表した24年3月期連結決算は売上高が前の期比18%増の2965億円、経常利益は93%増の515億円となった。好業績の背景にはインバウンド(訪日外国人)効果がある。成田スカイアクセス線を走る有料特急スカイライナーの輸送人員、収入が増加。23年度は1日平均の輸送人員が22年度と比べて2.3倍の1万7500人、通年の輸送収入も約2倍の69億円となった。

同社を巡っては1.6%の株式を保有している英投資ファンドのパリサー・キャピタルが24日、OLC株の持ち分比率を約19%から15%未満に下げ、成長投資と株主還元に関する計画を示すよう提案していた。

京成が保有するOLC株は時価評価で1.6兆円ほどになる。仮に15%未満まで売却すれば約3300億円の売却益が出る。しかし、多額の売却益を手にしても大型の投資案件が見当たらない。

22年7月に公表した長期・中期経営計画で不動産業を第2の柱に成長させるとした。もっとも22~24年度計画では設備投資の総額1493億円のうち運輸業に6割超の935億円を投じる一方、不動産業は3割強の488億円止まりとなる。

京成の事業は鉄道やバスを中心とした運輸業に偏重している。23年3月期の売上比率を事業別にみると、運輸業の売上高は1478億円で全体に占める割合は約6割だった。

運輸業に経営資源を集める背景には、成田空港と都心をつなぐ空港輸送の成長期待がある。成田空港は30年に発着数の拡大を掲げており、旅客増に伴う運賃収入の増加が見込めるのだ。

東京圏の私鉄大手は運輸業が売上高に占める割合が4割を切る。輸送客数の減少に備えて非鉄道事業の強化による成長戦略を選択しているのだ。東急の渋谷や小田急電鉄の新宿など、私鉄各社は沿線活性化のため大型の不動産開発に投資を続けている。

JPモルガン証券の姫野良太氏は「立地に恵まれた鉄道会社は開発に伴う利益が見込める。京成の資産は再開発に資する広さや立地に乏しく、十分に投資を進められなかった。主要駅の1日当たり乗降人員数も他社に劣るため、集客効果も含めて投資リターンが見込みにくい」と分析する。

パリサーはOLC株の売却益をM&A(合併・買収)やレジャー施設の開発など、成長に資する投資に振り向けることを提案した。だが、京成は持ち分法適用の範囲内でOLC株の保有を維持する方針を変えていない。

京成の自己資本比率は42%で競合と比べて財務の健全性が高い。野村証券の広兼賢治リサーチアナリストは「保有する価値を説明できなければ、株主からのプレッシャーは高まっていく」と指摘する。

中長期的な視点で考えた際に、同記事にあるファンドの提案のとおりOLC株を売却し成長投資すべきなのか、それとも保有し続けるべきなのか。決まった正解はない問いですが、同記事と逆に売却により手放すことが何かについて整理してみたいと思います。

ヤフーファイナンスの情報、及び京成電鉄の有価証券報告書を参照すると、2024年5月2日時点で次の通りとなります。

・OLCの株価:4,330円
・OLCの株数:1,818,450,800株
・京成電鉄の保有分:上記×19%=345,505,652株
・15%未満にするために必要な売却分:上記×4%=72,738,032株
・OLCの株価上昇率(概算):10年間で5.09倍(850円→4330円)
・京成電鉄における、持分法による投資利益:174億円(2022年4月~2023年3月)

有価証券報告書によると、持分法適用関連会社として「オリエンタルランド、その他3社」となっています。上記174億円のうち、どれだけがオリエンタルランドによるものかは不明です。そのうえで、持分法適用関連会社の4社のうち、中核的存在なのは間違いないでしょう。適当な想像で、100億円としてみます。

そもそも、京成電鉄所有のOLC株の年間配当だけでも、345,505,652株×14円(OLCの1株当たり配当金額)=4,837,079,128円で約50億円あります。

株式保有19%→15%に割合が減少すると、この100億円のうち約21億円が得られなくなると想定されます。

2014年の日経平均株価は年間通じて17,000円近辺でした。そこから2024年にかけて2倍強という上昇率に対して、OLC株は5倍以上ですので、さすがのパフォーマンスという感じです。

今後もこれまでと同じ株価上昇率とは限りませんが、OLCという超優良企業であること、日本市場がバブル期の過去最高値を突き抜けたことなどを考えると、例えば今後10年間で4倍程度になることも十分想定できるかもしれません。売却分に相当する3300億円分の株を今後10年間保有すれば、10年間で300%=9900億円アップと想像することができます。

つまりは、72,738,032株によって10年間で得られる新たな価値は、9900億円+21億円×10=約1兆110億円と想像することができます。

逆に言うと、売却で手にする3300億円によって投資することで、10年間で1兆円以上=単純計算で年間1000億円ずつの利益を生む結果にならないのなら、利益面だけで言うとOLC株を保有し続けたほうがよいということになると考えられます。そのような有望な事業を見つけるのは、京成電鉄に限らず簡単なことではありません。

そのOLCは絶好調のようです。将来の株主還元規模もますます広がり、将来的な保有価値が前述の試算を上回っていくことも想定されます。そのことも勘案すると、「京成は持ち分法適用の範囲内でOLC株の保有を維持する方針」もうなずけるものがあります。

企業の本来の目的を考えると、3300億円を使ってその企業ならではの強みを生かした事業開発に投資し、新たな価値を市場に提案するほうが望ましいと考えられます。

経営には一方で、鉄道事業をはじめとする公共性の高い社会インフラを守りながら、自社を持続させていかなければならないという側面もあります。OLC株の保有は、その有力な源になると言えます。

もし自分が京成電鉄の経営者だったら、英投資ファンドの売却提案と、現経営陣によるOLC株の保有を維持する方針と、どちらを選ぶでしょうか。決まった正解はありませんが、考えてみるとよいテーマだと思います。

<まとめ>
有力株の保有で得られる財務面の好影響は大きい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?