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人事制度はいつ作成や改修をするのか

先日、ある経営幹部の方から問いかけがありました。経営者や人事担当の方と話をしていると、時々話題になることがあるテーマです。

「どれぐらいの企業規模になったら人事制度が必要になるのだろうか。個人的には、明確な人事制度がない現状はよくないと思い、自社なりのちゃんとした人事制度を作りたいと考えているが、経営者や他の幹部は必ずしもそう考えてはいないようだ」

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する場合は作成しなければならないと、法定で決められています。他方、人事評価や評価結果を反映する処遇のやり方を明確に定める人事制度については、作成有無は各社の判断次第です。また、作成するとしてどこまでを仕組み化するかも、各社次第です。

よって、この問いに対する決まったルールはありませんが、必要となるタイミングについての私なりの考えは次の通りです。

・一定の規模(社員数30人)以上になった組織

社員数30人を超えた会社では、体系的な人事制度を作って運用する必要があると考えられます。人のマネジメントに関する制度ですので、売上や事業規模などよりも、人数のほうが基準として適しているでしょう。

社員数30人程度までは、その気になれば、社長が全員の成果・行動を概ね把握することも可能です。よって、これといった制度・ルールがなくとも(あるいは、あいまいな制度・ルールのみでも)、最終的に社長の頭の中にある経営判断で全社員の評価・処遇をすることが可能です。また、社員もその結果で納得しやすいものです。

しかし、組織がそれ以上の社員数の規模になっていくと、社長が全社員の成果・行動を把握し続けることは物理的に不可能です。「30人」に論理的な根拠はありませんが、それぐらいの規模になったあたりから経営者が「そろそろ私一人で決めるのは限界」と言い始めることがよくあるものです。

また、社員の評価・育成に関するマネジメントを、再現性ある状態として承継していくためにも、制度・ルールの可視化が不可欠です。加えて、評価者(幹部・管理職)が、同じ制度・ルールに基づいて社員を評価・育成できるよう、評価者育成をしていくためにも不可欠だと言えます。

・一定の年数を経過した組織

小規模の会社であっても、設立後10年を超えて維持・発展を目指すような組織の場合は、体系的な人事制度を作ることをお勧めします。

設立初期の社員は、会社の理念や方針に対する共鳴度が高く、お互いの社員に求めることも明確なため、「事業で目指す成果の定義と追求」のみを基軸にすることでも、人材マネジメントは機能しやすいと言えます。

しかし、一定の年数が経つと、設立初期の状況を知らない新たな人材が組織に入ってきます。新しい社員に対しては、設立以来の自社として大切にしたい考え方や各社員に求める成果・行動が、どうしても共有しにくくなっていきます。自社の人事・人材に対する方針・ルールを明文化することで、各人に求めていきたい成果・行動を促しやすくなります。

なお、既に人事制度を策定済みの会社であっても、5年以上経過した場合は改修の検討をお勧めします。もちろん、改修の検討といっても、全面改修から一部の改修まで、範囲とレベル感は様々です。改修を検討した結果、見直しの必要なしという結論もあり得ます。

そのうえで、改修の検討をしたほうがよいというのは、5年も経つと事業環境が変化しているからです。例えば、今であればリスキリングがテーマとなっていて、会社として社員に学び直しを促すこと、学び直しをした社員を評価することの必要性が叫ばれています。こうした動きは、5年前にはそれほど見られなかったことです。

事業環境が変われば、社員に求めるべき成果、行動、スキル、マインドなどが変わってきます。それらが変わるのであれば、人事に関する考え方・決め事である制度も変わっていくのが自然です。むしろ、「人事制度がずっと以前に作られたまま何も変わっていない」状態のほうが、不自然だと言えるでしょう。

成果を上げ続ける組織では、例外なくその組織ならではの人材マネジメントが機能しています。そして、環境変化を見定めながら人材マネジメントのあり方を見直し続けています。

また、上記で挙げた規模や年数に当てはまらなくでも、人事制度は作成しないよりしたほうがよりよいです。人事制度は、その会社が社員と共にどんな会社になっていきたいのか、という人に関するビジョンを形にするものだからです。たとえ、社員間で十分なコミュニケーションが行われていて、そうしたビジョンを共有・実践できているという会社であったとしても、形になっていたほうがより共有・実践を促せるはずです。

人事制度の作成といっても、すべての制度面において、一概に凝った評価シートの作成や複雑な賃金テーブルの設計などを意味するものではありません。「この部分はこだわって凝った仕組みを作るが、別の部分は特に決め事をつくらず都度判断とする」といった設計もありです。

言い換えれば、「ここについては明確なルール化はせず裁量の余地を残す。なぜならば・・」という制度を作るということです。そのように考えると、小規模の組織でも、人事制度はないよりあったほうがよいことが、イメージできると思います。

<まとめ>
一定の規模数になった組織、一定の年数が経過した制度は、新たな制度作成や見直しが必要。

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