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物流費の売上高比率を考える

3月6日の日経新聞で、「物流費の売上高比率低下 運転手の待遇改善が課題 輸送需要鈍化、足かせに」というタイトルの記事が掲載されました。企業の売上高に占める物流費の割合が下がっているということを取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

企業の売上高に対する物流費の比率が2年連続で下がった。製品値上げによる売上高の伸びを、物流費の上昇が下回っている。運送業の残業規制が強化される4月を前に人手を確保したい物流会社の運賃引き上げが遅れている可能性がある。

日本ロジスティクスシステム協会(JILS、東京・港)は、製造業や卸売業、小売業などの荷主企業を対象に、売上高に対する物流費の比率を調査している。23年度の見込みは5.00%で、22年度より0.31ポイント、直近のピークだった21年度より0.70ポイント低い。

物流業界では人手不足などを背景に運賃引き上げ機運が高まった。物流費の上昇を受けて、売上高比物流費率も15年度の4.63%を底に上昇に転じ、20~21年度に急上昇した。22~23年度はその反動も出たとみられる。

物流費率に適正水準はなく、企業や業種によっても異なる。荷主にとって物流費はコストだが、削減だけを求めては輸送網を保てない可能性が浮上すると「物流が経営課題になった。安さではなく『適正な運賃』を目指すようになった」(JILSの担当者)。

23年度の調査でも、物流会社から「値上げ要請があった」と答えた荷主企業は87%に上る。そのうち92%は値上げに応じた。それでも売上高比物流費率が下がったのは、物流費の伸びが売上高の伸びより小幅なためだ。

ここ数年、原料高を理由にした製品値上げが相次ぎ、多くの企業が販売単価の向上で売上高を増やした。半面、値上げで販売数量は落ちた例も少なくない。運ぶ荷物が減れば、結果的に荷主企業の物流費は抑えられる。

輸送需要が鈍いと、運送会社は荷主に運賃引き上げを求めにくい。混載トラックの主要路線である東京―大阪間の運賃は、23年度に前年比1%高にとどまった。

4月からはトラック運転手の時間外労働が制限される。残業手当の多かった運転手の賃金が下がらないよう、運送各社は基本給の上昇などに取り組む。「原資となる運賃の引き上げが欠かせない」との声が多い。荷主企業との交渉に基づいて物流費をどの程度引き上げられるかが、待遇改善のカギとなる。

普段いろいろな企業の方とお会いしていると、物流費の値上げの話を聞くことがよくあります。「昨今の環境を考えると、値上げの要請を受けざるをえない」「毅然として物流費の値上げを要請していく」などです。

よって、相応に上がっているのだろうと思っていたのですが、その感覚からすると「東京―大阪間の運賃は、23年度に前年比1%高にとどまる」などの同記事内容は少し意外な感じがしました。

では、荷主の立場としては、どれぐらいの値上げ要請にこたえるべきなのでしょうか。

同記事に「物流費率に適正水準はなく、企業や業種によっても異なる」とあるように、この問いに対する決まった正解というものはないのだと思います。そのうえで例えば、同記事が示唆するような「売上高に占める物流費の比率」というのは、ひとつの判断材料になるかもしれません。

もっとも、同記事の言うように、売上高=商品単価×販売数量で決まります。よって、売上高だけではなく、販売数量に影響を与える資材の搬入回数や商品の出荷回数も考慮する必要があるかもしれませんが。

仮に例えば、売上高が増えていて、資材の搬入回数や商品の出荷回数は横ばい、物流費が売上高と同じパーセンテージで上がっているとすると、売上高に占める物流費の割合は同じです。この場合、荷主の利益額も一定規模で上がりつつ、物流会社の利益額も一定規模で上がっているはずです。

一方で、売上高が増えていて、資材の搬入回数や商品の出荷回数は横ばい、物流費も横ばいだとすると、売上高に占める物流費の割合は下がっていきます。その荷主企業としては増えた利益を確保できて望ましいことかもしれませんが、そのままでは物流会社に何の新たな還元もなされません。

従業員の賃金を上げていかなければならない、燃料費は上がっている、物流システムを支えるITシステムのメンテナンス料も上がっているなど、物流会社には物流会社の事情があります。物流費の据え置きは、当然ながら物流会社にとって減益、場合によっては経営の維持が困難なレベルに追い込んでしまうことになります。

一方で、荷主としても、無尽蔵に値上げに応じるわけにもいきません。

そこで、次のように整理しておくのも、ひとつの考え方として有効だと思います。

・自社の売上高に対する物流費の占める割合の変化を見る
・売上高に加えて、物流量の変化も加味する
・それらの変化率から、物流費用の値上げにどれぐらい応えるべきかの判断材料のひとつとする
・いずれは、他社や業界等の外部情報も参考にしながら、自社にとっての売上高に占める物流費率の適正水準を、物差しとしてもっておく

こうした整理、あるいは整理に基づいて財務諸表を見ることを日常的に行っていない企業も散見されます。特に中小企業ではその傾向がより強くなります。あるいは、経営者はそうしているが、幹部社員や管理職にそうした関心がなく財務諸表を見ていない、という企業も散見されます。

下請けや協力会社など、様々な利害関係者との協業で自社の事業も成り立っています。利益の1社総取りというわけにもいきません。値上げによるコスト増というテーマに向き合うにあたって、売上高に占める当該支出項目の比率を事実ベースで評価するというのは、シンプルながら有力な方法ではないかと考えます。

ある物流会社様から、「自社のほうから値上げのお願いを切り出す前に、相手のほうから「適正な値上げに応じるべきだと思うので、これでいかがですか」と言ってくれる荷主さんも出てきた」というお話も聞きました。こうした視点も、これからますます求められるのではないかと思います。

このことは、物流費以外の項目にも当てはまる視点だと思います。

<まとめ>
売上高に占める、当該支出項目の比率の変化を確認し評価する。

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