見出し画像

経営者に物申す社員

先日、ある企業の経営幹部の方から、次のようなお話を聞く機会がありました。

「こないだ経営会議があり、その中で社長と幹部陣でQ&Aの時間があった。ある幹部Aさんの質問に対する回答で、社長が長い独り語りを始めたが、回答になっていないと感じたAさんが途中で話をさえぎりさらに質問を重ねた。わたしはこの会社に長くいるが、自分含めて社長の話をさえぎって意見を切り出した社員は初めてである。」

Aさんはしばらく前に入社した人材でまだ日が浅く、社長及び他の幹部陣から見ても拙速なところもあるようです。それは能力的な問題ではありません。むしろ、能力的にはとても高いということです。社歴が短いために、会社の商品・サービスやお客さまに関する情報で把握しきれていないことがあり、そのことによって提案や質問の論拠をやや埋めきれていない面があるようです。

よく、転職直後には、
・「前の会社ではこうだった」といった「前の会社論」を振りかざすと疎んじられることになる。
・まずは、郷に入ったら郷のことをよく理解するまで、従順な姿勢のほうがよい。
などと言われることがありますが、そのことを彷彿させるお話です。

しかし、Aさんの主張はやや拙速なところがありながらも、極めて我の強い社長にさえも(採否はともかく意見として)聞き入れられていると言います。それは、Aさんの意見が本質を捉えているように聞こえるからというのがあるそうです。なぜ本質を捉えていると言えるかというと、「明らかに会社のことを四六時中考えているから」だそうです。

30万部を超えるベストセラーとなった書籍『1日1話、読めば心が熱くなる 365人の仕事の教科書』の第2弾として、『1日1話、読めば心が熱くなる 365人の生き方の教科書』が近日発刊されるそうです。致知出版社様から受信したお知らせメルマガの中に、同書に掲載予定の内容がありました。以下、一部抜粋です。

「質問の手を挙げたら昇格 松下幸之助の判断基準」
岩井 虔(PHP研究所客員・元専務)※肩書は『致知』掲載当時

~~もう一つ申し上げたいのが、「質問の手を挙げたら昇格」というお話です。ある時、幸之助さんは「わしは創業期から従業員によう話をしたもんや。その後で時間があれば〝なんぞ質問ないか〟と聞くようにしていた。そしてパッと手の挙がる従業員の名前を覚えておく」と言われました。

「覚えてどうなさるんですか」と聞くと「昇格」とおっしゃったんです。
まさか、冗談だと思うでしょう?
するとこんな説明をしてくださったんですね。

「わしは現場の情報を皆から得たくて聞いている。でも、もう一つ理由があるんやで。それは何か?誰が松下を継いでくれるか、経営の幹部になってくれるか。後継者を求めているんや。わしが質問ないかと言った時にパッと反応できるためには、まず問題意識が必要や。

また皆からええ格好しいと冷やかされるし、勇気も要る。でもわしが『質問ないか』と言った時に、これを絶好のチャンスと受け止めて行動で示せる、そういう逞しい人材を後継者にせずして会社の発展はない」と言うんですね。

ニコニコと質問をしながらも、内心ではそういう考えを持ちながら行動されていたことにハッと目の覚める思いがしました。~~

このお話からは、2つのことを感じます。
ひとつは、会社や会社を通したお客さまのことを常日頃から考えることの大切さです。問題意識は、この姿勢があるからこそ生まれてくるものなのだと改めて思います。パッと手を挙げて質問したことが的を射ていないこともあるかもしれませんが、問題意識を持ち続けていれば、後でどこが至らなかったのを考えて見つけることにもつながるでしょう。

もうひとつは、「機会」(チャンス)の対は「準備」であることです。機会が来た時に準備を始めても間に合いません。普段から現状について考えたり行動したりして、問いを探し続けていることで、機会が来た時にすぐ対応できるようになります。松下氏がこれらを昇格の条件、つまりは組織マネジメントを任せる人に求める要件に挙げるのは、うなずけます。

冒頭の社長も、Aさんが普段から会社のことを人一倍考えて準備しているというのが分かるからこそ、話を聞いてくれるのだろうと思います。その話が会社方針として採用すべき内容かどうかはともかく、会社のことを考えられた結果であれば聞いて何かのプラスにはなるはずです。

このように考えると、「転職直後に「前の会社論」を振りかざすとよくない」というのは、それ自体が悪なのではなく、前提があるのだと思います。前提とは、「今いる会社のことを中途半端にしか考えていない状態で、単なる思い付きベースで」ということです。社長に対してすらパッと質問できるぐらい問題意識を持ったうえでの「前の会社論」であれば、聞くに値するのだと思います。

<まとめ>
普段から会社や会社を通したお客さまのことをよく考えて、問題意識をもつ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?