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人的資本の見える化

4月12日の日経新聞で「社員のやる気、数字で見せる 「人的資本」こそ競争力、日本企業に伸びしろ」というタイトルの記事が掲載されました。モノ・カネと違って企業会計では直接資産とみなされてこなかったヒト資源について、その状態を見える化しようというものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~企業会計では資産とみなされない社員のスキル、やる気などを数字で開示する動きが広がっている。デジタル時代の競争力の源泉は工場や店舗ではなく、革新的ビジネスを創造する「人的資本」という考え方からだ。

社員こそが利益の源泉であっても、企業会計の原則では会社が完全に支配していないものは資産の項目に計上できない。辞表ひとつ出せば去ってゆける社員は資産にそぐわず、そもそも価値を客観的に数字にできるモノサシがない。これまで企業の決算書では給与や社会保障費といったコストとして処理されるだけだった。

「費用としての人件費から、資産としての人的投資へ」。岸田政権の新しい資本主義実現会議でも、形には残らない人への投資を評価する方法論をさぐっている。知的財産などを評価する米オーシャン・トモの試算では、米企業の株式時価総額の約9割は無形資産に由来する。米証券取引委員会(SEC)は一足早く、企業に人的資本にかかわる情報を開示させる仕組みを整えた。

企業の「ESG(環境・社会・企業統治)」と株価の関係を調べた資産運用会社、ニッセイアセットマネジメントは、将来の収益にダイレクトにつながる「S」が最重要という結論にたどり着いた。同社の橋田伸也・株式運用部担当部長は「社外でのボランティア活動や寄付行為よりも、能力や意識を高める教育システムがあるかどうかをみる」という。~~

同記事では、具体的な例として4社の指標を挙げています。

・オムロン:「人的創造性」 年間の付加価値÷人件費 24年度までに7%増が目標

・味の素:「人財投資額」 次世代リーダー育成研修などの費用 20~22年度に1人あたり88万円

・三井化学:「後継者準備率」 後継者候補数÷ポジション数 20年度は226%

・双日:「チャレンジ指数」(新分野への挑戦) 上司の評価が「平均より上」の割合 20年度は51%、23年度目標は70%

こうした動きはとても望ましい流れだと考えます。経営目標の指標としてよく見ることのある売上高や利益率などは、そのほとんどが、事業活動による最終成果指標か最終の一歩手前の成果指標です。これに対して、上記のようなヒト関連の指標は、中間の成果目標か成果に至る途中の行動目標に当たるものが多くなります。研修費用をたくさん使ったり後継者候補がたくさんいたりすることをもってして、事業が成功して売上高が上がるとは限りません。しかし、その可能性は高くなるはずです。

人が育たなければ組織は発展しないということは、これまでもいろいろなところで言われてきました。しかし、そのことを指標として明確化することはなかなかできていませんでした。今回の動きによって、最終成果を生み出すためのプロセスを、ヒト資源という無形資産から把握することにつながります

そして、短期的な最終成果に直結するかどうかにかかわらず、自社や他社がヒト資源の活用にどれだけ力を入れているかが見えやすくなります。ヒト資源の活用に熱心な企業がこれまで以上に評価されるきっかけになる動きだと思います。

こうした指標を取り入れるにあたっては、注意も必要だと言えます。それは、必要に応じて多面的に指標を持つということ、そして「目標を目的化」させないということです。上記の例で言えば、例えば人的創造性は分母の人件費を節約すれば指標がプラスとなります。付加価値を上げることではなく賃金を据え置くことで指標を上げようとすると、本末転倒になってしまいます。

人財投資額も闇雲に研修を企画して実施すれば指標が上がりますし、後継者準備率もポジションを減らせば指標が好転してしまいます。

そこで、例えば賃上げ率も同時に見ることにしたり、研修実施後の効果測定も試みたりすることで、目標の目的化を起こさせず本質的な指標の活用につなげることができると思います。

これまでにも重要指標として採用されることが多かった「研究開発費」などは、モノに対してだけではなく、その研究に携わるヒトに対する投資の意味合いも含んでいると言うことができます。ヒト資源に関して、自社に合った指標・目標を設定し、活用できるとよいと思います。

<まとめ>

自社に合った有効なヒト資源の指標を設定する。


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