見出し画像

ワイン消費量の減少から考える

6月22日の日経新聞で、「ワイン消費、曲がり角 ピーク比7%減 酒離れ・質重視 低度数やコスト減、造り手も対応工夫」というタイトルの記事が掲載されました。私の周囲でも、お酒を飲まない人が増えているという話を聞きます。

同記事の一部を抜粋してみます。

世界のワイン需要が減っている。2023年の消費量はピークだった17年から7%減った。オーストラリアではワイン在庫が過去最高水準に膨れ、フランスでは国が補助金を出して余剰ワインの処理を支援する。若者の酒離れや、質を重視する傾向が強まったためで、生産者らも新しいトレンドへ適応を急ぐ。

世界の大消費国で消費が振るわない。最大市場の米国は23年の消費量が33億リットルと、5年で1.6%減った。2位のフランスは同4.7%減少した。ドイツや英国も同様だ。かつて輸入ワインがブームとなった世界7位の中国では消費量が5年でほぼ半減した。景気減速で高級外食などの需要が冷え込んだほか、国家規模の「ぜいたく禁止」運動で贈答用や接待用の購入も減った。

米国では1990年代半ば以降に生まれ、全人口の2割を占めるZ世代で酒離れが顕著だ。1981~96年に生まれたミレニアル世代に比べて1人当たりの飲酒量が2割ほど少ないとされる。

Z世代に受けるのは「Sober(しらふ)」と「Curious(好奇心が強い)」を組み合わせた「ソバーキュリアス」という飲酒に懐疑的なライフスタイルだ。ノンアルコールや微量(low)の含有量を意味する「NoLo(ノロ)」飲料も人気だ。

欧州ではビーガン(完全菜食主義者)や肉類の摂取量を減らす「フレキシタリアン」(柔軟なベジタリアン)が増加し、肉と合わせて飲まれやすい赤ワインの消費が減少傾向にある。

先進国の一部は人口減少社会ですが、世界全体の人口は増えています。景気も強い状態が続いています。経済力が高まって新たにアルコール飲料を常用する余裕が出てくる、これまでより多く買う余裕が出てくる層は、世界全体で見れば増えているはずです。にもかかわらず、世界のワイン消費の総量が減っているというわけです。

同記事によると、多くの先進国でワイン消費量が減っています。中国は特殊要因がありそうですが、それを割り引いて考えても消費減となってそうです。若手世代を中心に、アルコール飲料への執着が弱くなり酒量が減っているのは、日本だけではなく世界的な傾向のようです。

もうひとつ記事を取り上げてみます。5月27日のフィナンシャルタイムズ電子版では、「深刻さ増す米国民の孤独」というタイトルの記事が掲載されていました。5月31日の日経新聞での紹介記事から、一部抜粋してみます。

米国民の間で意見が一致しない問題は数多くあるが、共通する問題が1つある。それは孤独感だ。

米精神医学会が2024年に実施した調査によると、18~34歳の約30%が孤独を感じることが週に数回あると回答した。これに先立ち、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中に米ハーバード大学が実施した調査では、米国民の36%が「ほとんどいつも」孤独を感じていると答えた。

支持政党別に見ると、共和党支持者よりも民主党支持者にその傾向が強かったが、この調査は政治的志向、経済状況、社会および文化的背景の違いや、人種、性別を超えて米国民の間に孤独感が広がっていることを物語っている。

こうした危機を生み出している理由は多くある。

米経済が力強く回復しているにもかかわらず、多くの人が懸命に働いても生活が思うに任せず、安心感や社会とのつながりが得られないと感じている(この問題は政治学者ロバート・パットナム氏が00年に著書「孤独なボウリング 米国コミュニティの崩壊と再生」を出版したことで初めて注目を浴びた)。

加えて、目まぐるしい技術革新へのフラストレーション(特に子どもたちへの影響)が募っているほか、消費重視の文化への疲弊感も高まっている。

これらすべては、民主党のクリス・マーフィー上院議員(コネティカット州選出)が言うところの「精神的空回り」につながっている。それは、多くの人が社会や社会のリーダーたちから切り離され、見捨てられていると感じる現象だ。

幸福感に関する調査の多くは、たとえ自分が中間層入りし、一定の経済的な安心感を得られても、実際に幸せだと感じられるかどうかは、その人の家族や友人、地域社会との関係によることを示している。

問題は何事も猛スピードで進むデジタル資本主義と働き過ぎが浸透した今の社会では、いい生活を味わうための十分な時間も、多くの人にとって質のある安定した生活を維持するだけの十分なお金もないことだ。

全米自動車労組(UAW)のショーン・フェイン委員長をはじめとする労働運動家たちが、週4日労働制の導入を要求し始めたのもこれが理由の一つだ。彼らは、企業がここ数年で得た莫大な利益の一部を従業員に還元すべきだと考えている。

労働者の自由時間を増やすことも提唱しているマーフィー氏は、これは左派と右派双方が支持している考えだと指摘する。

最近は最低賃金の引き上げからSNSへの規制に加え、ある程度の独占禁止対策が必要だとする点については、共和党、民主党に関係なくコンセンサスが形成されつつある。

これらはすべて、経済的不安や社会的孤立から個人の主体性の欠如まで、孤独を感じる根本的な原因に少しでも取り組もうとする政策だ。

このことは、米経済が先進国では最も広範かつ急速に回復しているにもかかわらず、インフレや移民問題、あるいは選挙の争点となっているほかの関心事と同様、米国民が悲観的になっている原因なのかもしれない。

筆者は彼らの取り組みを全面的に支持するし、特にマーフィー氏のような進歩的左派が「精神性(spirituality)」といった言葉を使うのは、政治家として極めて賢明だと思う。というのも左派の政治家は経済的な課題を多く語るが、神を信じている人が大半のこの国で、精神的な問題と関連付けて経済的問題を語ることはほとんどないからだ。

人々の間で孤独感が広がっていることも、世界的に共通する問題のようです。英国に次いで世界で2番目に孤独・孤立対策担当大臣を設置した日本は、先見の明があると言えるのかもしれません。

目に留まった記事を2つ取り上げてみましたが、アルコール飲料消費の減少や孤独感の広がりに限らず、世界的に共通して若手世代中心に見られる潮流は他にもいろいろあります。

例えば、少子化もそうです。経済発展の進展と出生率は、ほぼ例外なくどの国でも反比例する関係にあります。エシカル消費やESG投資など、地球環境問題に絡んだテーマに若手世代ほど敏感なことも同様です。

改めて、次のようなまとめを試みてみます。

・日本で若手世代ほど顕著に見られるトレンドの事象の中には、他国でも一般的で、世界的潮流の可能性がある。その背景に、人間の社会経済の発展過程で普遍的な要因があるのかもしれない。

・記事で指摘された、景気回復しても安心感や社会とのつながりが得られないと感じる、技術革新へのフラストレーション、消費重視の文化への疲弊感などは、少子化などと同様その一例である。

・それらの事象から生じる問題や事象を生み出す要因に対して、他国・他者に先駆けて有力なアプローチや具体的な対応方法を見出すことができれば、それらが飛躍的に拡散するポテンシャルがある。

従来型の「以前と同じような飲み方をしよう」と働きかけるだけでは、盛り返すのは難しいのかもしれません。他の方向性としては例えば、低アルコール飲料を開発したり、飲み方の新しい提案をしたりして、選択肢を増やすなどです。

上記のようなことを感じた次第です。

<まとめ>
身のまわりで見られるトレンドの中には、世界的潮流になっているものがある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?