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米非農業部門雇用者数他の結果を考える

毎月第一金曜日の日本時間21:30(夏期の場合)は、市場関係者の注目度が極めて高い米非農業部門雇用者数の統計結果が発表される日です。先週の9月1日金曜日にも発表がありました。

私は、スポーツ観戦の感覚で、晩酌をしながら同指標の発表前後の市場の値動きを見るのが通例になっています。値動きを見ているだけで、経済の勉強になり面白くもあるからです。

今回は、同指標の結果は予想を上回ったものの、6・7月分の数値が下方修正されました(速報から確報値へ)。同時刻に発表された失業率3.8%も、予想より悪い結果で昨年2月以来の高水準です。平均時給も予想を下回る結果でした。これらを受けて、21:30から米金利低下、米ドル安が進んでいきます。米ドル・円は、145円台から一時1ドル144円40銭台まで円高が進みます。

8月米非農業部門雇用者数変化:+18.7万人、予想+17.0万人
8月米失業率:3.8%、予想3.5%
8月米平均時給前年比:+4.3%、予想+4.4%
8月米平均時給前月比:+0.2%、予想+0.3%

21:30にはカナダの4~6月期GDP前期比も予想+1.2%を下回る-0.2%で発表されたことで、加ドル・円も目立った円高が進みます。

なお、米非農業部門雇用者数は、+20万人が基本的な巡航速度だと言われています。それを上回れば良好、下回れば不調として、経済を捉えることができる1つの材料とされているものです。

コロナ禍による人の移動の混乱を挟んだため近年は不安定な動きになっていますが、米国の人口は毎年およそ220万人~250万人程度のペースで増えています。1か月あたりでは約20万人となります。つまりは、増えていく人口を賄うだけの働き口が確保されているのかどうかが、+20万人のラインだというわけです。そのように考えると、一定の重みがあり、世界中の市場関係者が注目する理由もうなずけます。

しかし、売り一巡後は米ドル買い戻しが優勢になりました。22:45に8月米製造業PMI改定値が予想47.0を上回る47.9で発表されたことや、「インフレは一定の進展があるものの、依然として高すぎる」という要人発言があったことなども材料視されて金利が上昇に転じたことがきっかけのひとつです。米ドル・円も反転して145円台半ばまで円安に進みます。そして、23:00に8月米ISM製造業景況感指数も予想47.0を上回る47.6で発表されると一気に円安が進み、朝起きてみたら結局終値は146円20銭台と米ドルは日中の高値で引けていました。

この日の米国株式市場で、ダウ工業株30種平均の終値は116.76ドル高の34838.67ドルと堅調に引けました。ナスダック総合株価指数の終値は3.15ポイント安の14031.82だったものの、この日まで5日連騰していたことを考慮すると堅調に引けたと言ってよいかもしれません。

「PMI」は、企業からみた景況感を示す経済指標です。購買担当者に生産や受注、価格動向などを聞き取り、その結果を指数化したもので、50を上回れば前月より拡大、下回れば縮小を示します。つまりは、50がこの先の景気の好不況を判断する分かれ目とされています。

ISM製造業景況感指数とは、全米供給管理協会(ISM)が公表しているアメリカの製造業の景況感を示す指数のことをいいます。300を超える製造業企業に対して「新規受注、生産、雇用、入荷状況、在庫」といった項目に関するアンケートを実施して、回答結果から指数を算出しています。最新の状況を表し、しかも精度が高いとして信頼度も高いものになっています。一般に、数値が50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退と判断されます。

これらから、2つのことを考えました。ひとつは、これから先の海外経済はこれまで以上に警戒が必要かもしれないということです。

予想を上回ったとされる指標が上記でいくつかありますが、もともとの予想が好不況の分かれ目とされる値を下回っていた値です。予想以上とはいえ、すべての結果が分かれ目を下回っています。失業率も上がり、時給の上がり方も軟化しているということで、堅調と言われた雇用の需給関係も今後緩んでいくかもしれません。

中国の景気も、不動産問題に象徴されるように、懸念が大きくなっています。今後の海外での事業活動、海外経済の影響を受ける日本国内での事業活動において、より慎重なシナリオを想定しておくのが妥当かもしれません。

もうひとつは、株式市場、為替市場が、過熱気味なのかもしれない点です。上記は、トータルではそれほど力強い内容とは評価できないと思われますが、株も為替もリスクオンの強気相場で引けている印象です。これが、果たして現状とこれからの見通しを的確に映し出した結果なのかどうかは、疑問なところです。

もちろん、市場の構成要素は上記指標にまつわるものだけではありません。上記指標は全体を構成する中のごく一部の要素です。今の相場が適正値という可能性もあります。そのうえで、不調を予感させる指標もある中での買われ過ぎの可能性があることも、視野に入れておくべき状況ではないかと思われます。

<まとめ>
ネガティブな材料より、ポジティブな材料により反応して市場が引けたと思われる、今月の第1金曜日だった。


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