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大規模な人員削減について考える

4月14日の日経新聞で「巨大テック 大量解雇の波紋(下)肩たたき、次は自分では? 「蜜月」に転機、代償の懸念」というタイトルの記事が掲載されました。米国などで、景気と需要の減速懸念から、いわゆるハイテク各社で人員削減の動きが高まっていることに関連して、米グーグルの実情を考察しようとした内容です。

「安心して働ける環境を会社は与え、従業員はそれに応える。そんな会社と従業員の「蜜月」に転機が訪れた。それは大きな代償を払うことになるかもしれない。」としています。

同記事の一部を抜粋してみます。

「次は自分ではないか」。米グーグルで働く多くの従業員はいま、こんな恐怖を感じながら働いている。グーグルが約1万2000人の人員削減を発表した2023年1月以降、社内の雰囲気は変わった。

グーグルにとって創業以来、最大規模の人員削減。従業員の動揺は人数の多さだけでない。「ハイパフォーマー(評価が高い社員)も解雇されている」。ある中堅社員は解雇の基準が不明確なことが不安を増幅していると説明する。

今回解雇されたヘンリー・カークさんは8年間勤め、直近はマネジャーとして30人のエンジニアを取りまとめてきた自負がある。会社からの評価は高かったととらえており、「もともとディレクターに昇格したら、起業しようと考えていた」と前を向く。ただ「みんなが不安を感じている。残留社員に対するメンタルケアが必要だ」と以前の職場の同僚を気遣う。

グーグルはこれまで社員の肩たたきをしてこなかったわけではない。会社を去る人は毎年いたが、それは評価の低いごく一部に限った話だった。「OKR(Objectives and Key Results=目標と成果指標)」などと呼ぶ制度で、きめ細かい評価と人事管理に努めてきたからだ。

仕事に没入できる職場も売り物としてきた。食事や飲料、おやつも無料。「キャンパス」と呼ぶ広い社屋で、マッサージやクリーニング、通勤用の自動車のオイル交換までできた。

グーグルに限らない。「食事に困ることはない。家にいるよりも便利だった」(ニューヨーク市在住のメタ関係者)。手厚い福利厚生とオフィスの居心地の良さは、全米で最も優秀な人材をひきつけて高成長を実現する巨大テクノロジー企業に共通する原動力だった。

ハーバード大経営大学院のサンドラ・サッチャー教授はレイオフ(一時解雇)の「隠れたコスト」を指摘する。残った社員も不安や悲しみ、罪悪感に悩まされる。「残留社員は仕事への意欲をそがれ、生産性が低下する」と説明する。

レイオフに踏み切った企業の大半で2年間は業績が向上しないという分析もある。リストラ費用に加え、残った社員の士気や生産性の低下が足を引っ張るからだ。巨大テック企業では蜜月からの落差が大きく、その分支払うコストも大きくなりかねない。

巨大テック企業は「生産性」の低下に悩んできた。従業員1人が生み出す利益額が減ったのに、高額報酬はそのまま。アクティビスト(物言う株主)の英TCIファンド・マネジメントは22年11月「社員が多すぎ、報酬も高すぎる」と人件費圧縮を要求した。アルファベット従業員の報酬は中央値ベースで29万ドルに達していた。

1人当たりの生産性(利益)を引き上げる狙いの解雇が隠れたコストを生み、生産性が低下したら本末転倒だ。さらなる解雇という負の連鎖にもつながりかねない。

グーグルから解雇された別の元社員は、以前と同じ職種への再就職を模索しつつ、地元のスーパーマーケットで商品を売る日々を過ごす。ライドシェア(相乗り)のドライバーとしても働き、別の仕事も始める予定だ。「もう、一つの企業だけで働くキャリアは描かない」

経済環境が改善し、新たな事業を育成できれば高い成長力を取り戻す可能性もあるが、揺らいだ信頼の回復は容易ではない。今回の大量解雇は巨大テック企業の姿を変えることになるかもしれない。

グーグル元社員のような、当該領域で力を持っているであろう優秀人材であっても、スーパーの販売担当やドライバー職の副業もやりながら、キャリアのリスクヘッジをするという話が印象的です。

同記事からポイントと考えられるのではないかと思うことを4点挙げてみます。ひとつは、ある事例や事象について、表面的な情報に加えていろいろな角度から多面的に、本質的に捉える必要があるということです。

グーグルと言えば、「OKR」や「心理的安全性」など、有力とされるマネジメントの方法論、考え方を実践してきた組織です。同社をヒントあるいはモデルにしながら、これらの方法論や考え方を自社のマネジメントに取り入れた他社も多いはずです。

そうした方法論や考え方も万能なわけではありません。グーグルほどの有力な組織であっても、程度差はあれ、やはり他の組織同様、光と影の部分があるということを、同記事からは改めて感じます。例えば「心理的安全性だけをスローガンとして掲げてさえおけば大丈夫」などではないということを、改めて認識する必要があるのだと思います。

2つ目は、評価の基準をはっきりさせる必要があるということです。

米国企業は日本企業に比べて、業績好調であっても、その企業にとっての成果を満たさないとみなしたローパフォーマーは解雇するのが一般的です。ましてや、グーグルほどの有力な企業であれば、集まる人は優秀で物分かりもいい人材ばかりのはずです。求められる基準は高いはずで、その基準に達しない場合に組織を去らなければならないというのは、十分にわかって入社していることと想像します。実際、これまでもそうだったであろうことが、同記事からもうかがえます。

しかしながら、(詳細は分かりませんが)同記事から今回特徴的なのは、これまでの基準では合格となっていたパフォーマンスを出す優秀人材でさえも、今回は解雇対象となっていることが伺えることです。また、会社を取り巻く環境が変わり、環境変化に合わせて基準が変わったのなら変わったで説明があればまた話は別ですが、その説明もなされていない感じです。

これでは、従業員の立場からは「何をどこまでやれば、自分への期待役割に応えてOKとみなされるのか、わからない」となるのも当然と言えます。

「OKR」では一般的に、高い目標を掲げて取り組むことが基本とされます。書籍「OKR(オーケーアール) シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法 日経BP」などを参考にすると、OKRでは、成功確率の自信50%程度のものを、O(目指す目標)やKR(主な結果)として設定するよう推奨しています。そして、実際の達成度が60~70%で成功とみなすようです。

言い換えると、OやKRで設定した値が未達でも平時の状態ということになります。だからこそ、未達に終わることで犯人探しが始まるわけでないし、達成できればこの上ない喜びであるOやKRに向かって、ポジティブなチャレンジを続けていけるという考え方です。

例えば、こうした目標設定で、達成となった場合評価とどう関連するのか、未達となった場合には評価とどう関連するのか、あるいはそれらはまったく評価と関連しないのか。評価の基準をはっきりさせておかないと、メンバーは設定のよりどころが分からず、うまく設定できなくなります。

その結果、例えば「自信50%程度のものを目標として設定しようと推奨されているが、未達に終わると結局評価が落ちるらしい。ならば、ほぼ成功間違いなしの、無難な目標にしておこう」など、本来OKRが目指した状態とはまるで異なる運用になってしまうかもしれません。

OKRというやり方を踏襲している組織も多いと思います。例えば、上記のような状況が起こっていないか、振り返ってみる余地があると思います。

続きは、次回以降のコラムで考えてみます。

<まとめ>
評価の基準をはっきりさせる。基準が変わったなら、変わったこととその理由を明確に説明する。

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