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最下位で観客増の事例を考える

私が時々訪問する企業の幹部で、プロ野球 西武ライオンズファンの女性の方がいらっしゃいます。PCやスマホもライオンズ関連の待ち受け画面にしている熱心ぶりです。「今年はまったく勝ってないけど、ずっと応援を続ける」と話していました。

その方の印象もあって、10月17日の日経新聞記事「ヒットのクスリ ライオンズ、超最下位でも観客増 ホテル感覚の「接待」」が目にとまりました。

同記事の一部を抜粋してみます。

かつての野球界は、早稲田や慶応の六大学の方がプロより人気があったといわれる。プロ野球は大学野球と高校野球との間に挟まれた微妙な存在だったわけだ。

しかし読売巨人軍の長嶋茂雄選手、王貞治選手らの活躍もあり、高度成長期とともにプロ野球人気は上昇。逆に大学野球はプロと甲子園に挟まれ、人気は下降した。そして再び、プロ野球はメジャーと甲子園に挟まれることになる。プロ野球人気は低下したのか?

ところが観客動員数を見ると、そんなこともない。2024年についていえば、12球団ともしっかりと前年実績を超えているのだ。

中でも不思議に映るのが、埼玉西武ライオンズだろう。今シーズンは49勝91敗で借金42の断然の最下位。しかもシーズン途中で監督の休養を発表し、ずいぶん早いうちに「白旗」をあげたように見えた。あまりの負けっぷりに「暴動」でも起きるのではないかと懸念したが、西武ファンは我慢強く、優しかった。

事実、ライオンズの本拠地、ベルーナドームの観客動員数は155万5280人で、前年より9%も増えている。理由は球団側の長年のコアファンづくりにある。ベルーナドームは西武球場前駅に直結したような立地とはいえ、東京ドームや神宮球場、横浜スタジアムと違い、ふらっと立ち寄るような環境にはない。常に飲食やイベント、グッズ販売など「縁日」的な取り組みは不可欠で、24年はさらにこれを増やした。

例えばゲストを誘致したイベント。今年は歌手の郷ひろみさんや一青窈さん、お笑いタレントのオードリーの春日俊彰さんなどを招いたのが27日で、前年より7日多い。

今夏開催されたパリ五輪では、フェンシングの男子フルーレ金メダリストの松山恭助選手がライオンズファンで、SNSで話題になっていた。球団のSNS担当がすぐに反応し、始球式の実現につなげた。

西武ライオンズが登場する、本屋大賞を受賞した小説「成瀬は天下を取りにいく」とのコラボイベントも開催。本の表紙の背景をベルーナドームに変えたステッカーを配布すると、それまで野球に縁遠かった客がかなり来場したという。

ベルーナドームは「テント型」で、猛暑という弱点がある。そこで氷の配布から子供用プールの設置など新サービスに汗をかく。こうしたたゆみないサービス経営には理由がある。

球団社長は系列のプリンスホテル出身で、「チームの野球の強さへの依存は危うい」という共通意識の下、"ホテル屋"ならではの発想で様々な「おもてなし」に動いているからだ。週末の観戦を欠かさないという女性ファンは「往年の名選手との交流会を開くなど企業努力を感じる。あと外野の応援スペースがライオンズと同じで、相手チームにも優しい」と話す。

ライオンズだけでなく、他の球団も地域密着戦略で観客増を実現している。もっとも野球ファンは40代以上が多く、ライオンズのファンクラブも高齢化が進んでいる。

女性誌や美容雑誌に「イケメン」選手の露出にも取り組むライオンズ。強さと若さを取り戻せば天下取りは近い!?

西武は今年のリーグ戦では断トツの最下位でした。私は、最近は見ることが少なくなったのですが、子どもの頃はよくテレビでプロ野球中継を見ていました。巨人戦の中継しかありませんでしたが。当時は、西武は断トツで優勝し続ける「常勝球団」と言われていましたので、時代の流れを感じます。

私が最もテレビ中継を見ていたのは、おそらく1986年です。当時は、家から比較的近いという理由で広島を応援していたのですが、広島・西武がそれぞれリーグ優勝し、西武が日本シリーズを4勝3敗1分けで接戦を制するという、白熱した年でした。西武は、当時高校野球界のスーパースターだった清原選手が入団した直後で、たいへんな話題でした。

当時ファミリーコンピュータで、ファミリースタジアムという、ゲーム界で初めて実名のスポーツ選手をモデルにしたゲームが発売されて話題になったのもこの頃です。私は、そのゲームに出ていた全チームの野手・投手を今でもほぼ正確に覚えているほど、取り組んだ覚えがあります。

日本野球機構のデータによると、1986年の観客動員数は次の通りです。2005年以前は実数ではなく概算のようです(いくつかの球団は、前身となる当時の球団が別)。セリーグは巨人と阪神、パリーグは西武に人気が集中し、巨人戦がテレビで放映される影響で巨人が絡むセリーグのほうが観客動員も全体的に多かったのがよくわかります。

セリーグ合計:390試合、11,367,000人、1試合平均29,146人
巨人2,956,000人、ヤクルト1,787,000人、横浜1,428,000人、中日1,760,000人、阪神2,360,000人、広島1,076,000人

パリーグ合計:390試合、6,323,700人、1試合平均16,200人
日本ハム1,193,000人、西武1,662,000人、ロッテ692,700人、近鉄1,028,000人、オリックス1,145,000人、ソフトバンク603,000人

2024年の観客動員数は、次の通りです。総数、1試合あたりのいずれも増加、リーグ差はほぼなくなり、特定球団への人気の依存が減って全球団が底上げされたのが見てとれます。意外にも、今では巨人ではなく阪神が最も観客動員数が多いようです。

セリーグ合計:429試合、14,617,824人、1試合平均34,074人
巨人2,825,761人、ヤクルト1,998,846人、横浜2,358,312人、中日2,339,541人、阪神3,009,693人、広島2,085,671人

パリーグ合計:429試合、12,063,891人、1試合平均28,121人
日本ハム2,075,734人、西武1,555,280人、ロッテ1,915,246人、楽天1,642,371人、オリックス2,149,202人、ソフトバンク2,726,058人

両リーグの総観客動員数は1986年が17,690,700人、2024年が26,681,715人。この間で8,991,015人増となっています。チケット代は球場や座席で異なるため一概には言えませんが、1席2,000円とすると、チケット代だけで8,991,015人×2,000円=約180億円分増収となります。グッズなど関連の商品・サービス売上も増えているはずですので、増収要因はさらに大きいと想定できます。

しかしながら、その間娯楽全体での野球の存在感が高まったかというと、そういうわけでもありません。スポーツ界に限っても、サッカーなど他の競技の人気が高まったため、野球が占める度合いは相対的に下がっているはずです。それでも、観客動員数は増えているわけです。

冒頭の記事は西武ライオンズに関する内容ですが、同様の取り組みは(程度差はあるかもしれませんが)他の球団にも当てはまる内容だと思います。すなわち下記です。

・地域密着型の活動や、球団や選手と観客との距離を縮める活動を積極的に行う
・観客を「カンキャク」ではなく、「お客さま」としてもてなし、気配りのきいたサービスを展開する
・タレントやアニメなどとのコラボイベント、ダンスショーや縁日的な要素を取り入れる
・美容雑誌との関連付けなど、選手を野球以外のテーマでも見てもらえるようにする
・SNS等も活用して、積極的な発信でプロモーションにつなげる
・上記などの合わせ技で、野球のプレイを基軸としながらも「男性・コアな野球ファン」から「女性・ライトな野球ファン」まで客層を広げ、チームの勝敗や強弱以外で来場したくなる魅力をつくる

なお、上記を調べてみた過程で知ったのですが、3年連続でセリーグ最下位だった中日が、2024年の観客動員数が球団史上過去最高を記録したようです。1試合平均の観客数だと12球団全体でも4位です(上記の観客動員数だと横浜のほうが中日より多いが、横浜のほうが1試合多かったため、1試合平均だと中日のほうが多い)。3年連続最下位でお客さまが過去最高更新って、画期的な記録ではないかと思います。

なぜ伸びているのか理由を知りたく、調べたり考えてみたりしたのですが、よくわかりませんでした。検索したところ、「若い世代がビクトリーショー(中日が勝利した試合後に行われるショータイム)で盛り上がり、友達と一緒に来て幻想的にライトアップされたスタンドの写真をインスタにあげている」と出てきました。上記などの取り組みがより成果を上げていること以外に、このショーの効果もあるのかもしれません。

いずれにしても、「だれに何をどのように提供するのか」というマーケティングの再定義について、他業界にとってもヒントになる例だろうと考えます。

少し頭の整理が進みましたので、今度冒頭のライオンズファンの方に会った時に、何が良いのか尋ねてみたいと思います。

<まとめ>
だれに何をどのように提供するのか、再定義する。

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