最下位で観客増の事例を考える
私が時々訪問する企業の幹部で、プロ野球 西武ライオンズファンの女性の方がいらっしゃいます。PCやスマホもライオンズ関連の待ち受け画面にしている熱心ぶりです。「今年はまったく勝ってないけど、ずっと応援を続ける」と話していました。
その方の印象もあって、10月17日の日経新聞記事「ヒットのクスリ ライオンズ、超最下位でも観客増 ホテル感覚の「接待」」が目にとまりました。
同記事の一部を抜粋してみます。
西武は今年のリーグ戦では断トツの最下位でした。私は、最近は見ることが少なくなったのですが、子どもの頃はよくテレビでプロ野球中継を見ていました。巨人戦の中継しかありませんでしたが。当時は、西武は断トツで優勝し続ける「常勝球団」と言われていましたので、時代の流れを感じます。
私が最もテレビ中継を見ていたのは、おそらく1986年です。当時は、家から比較的近いという理由で広島を応援していたのですが、広島・西武がそれぞれリーグ優勝し、西武が日本シリーズを4勝3敗1分けで接戦を制するという、白熱した年でした。西武は、当時高校野球界のスーパースターだった清原選手が入団した直後で、たいへんな話題でした。
当時ファミリーコンピュータで、ファミリースタジアムという、ゲーム界で初めて実名のスポーツ選手をモデルにしたゲームが発売されて話題になったのもこの頃です。私は、そのゲームに出ていた全チームの野手・投手を今でもほぼ正確に覚えているほど、取り組んだ覚えがあります。
日本野球機構のデータによると、1986年の観客動員数は次の通りです。2005年以前は実数ではなく概算のようです(いくつかの球団は、前身となる当時の球団が別)。セリーグは巨人と阪神、パリーグは西武に人気が集中し、巨人戦がテレビで放映される影響で巨人が絡むセリーグのほうが観客動員も全体的に多かったのがよくわかります。
2024年の観客動員数は、次の通りです。総数、1試合あたりのいずれも増加、リーグ差はほぼなくなり、特定球団への人気の依存が減って全球団が底上げされたのが見てとれます。意外にも、今では巨人ではなく阪神が最も観客動員数が多いようです。
両リーグの総観客動員数は1986年が17,690,700人、2024年が26,681,715人。この間で8,991,015人増となっています。チケット代は球場や座席で異なるため一概には言えませんが、1席2,000円とすると、チケット代だけで8,991,015人×2,000円=約180億円分増収となります。グッズなど関連の商品・サービス売上も増えているはずですので、増収要因はさらに大きいと想定できます。
しかしながら、その間娯楽全体での野球の存在感が高まったかというと、そういうわけでもありません。スポーツ界に限っても、サッカーなど他の競技の人気が高まったため、野球が占める度合いは相対的に下がっているはずです。それでも、観客動員数は増えているわけです。
冒頭の記事は西武ライオンズに関する内容ですが、同様の取り組みは(程度差はあるかもしれませんが)他の球団にも当てはまる内容だと思います。すなわち下記です。
・地域密着型の活動や、球団や選手と観客との距離を縮める活動を積極的に行う
・観客を「カンキャク」ではなく、「お客さま」としてもてなし、気配りのきいたサービスを展開する
・タレントやアニメなどとのコラボイベント、ダンスショーや縁日的な要素を取り入れる
・美容雑誌との関連付けなど、選手を野球以外のテーマでも見てもらえるようにする
・SNS等も活用して、積極的な発信でプロモーションにつなげる
・上記などの合わせ技で、野球のプレイを基軸としながらも「男性・コアな野球ファン」から「女性・ライトな野球ファン」まで客層を広げ、チームの勝敗や強弱以外で来場したくなる魅力をつくる
なお、上記を調べてみた過程で知ったのですが、3年連続でセリーグ最下位だった中日が、2024年の観客動員数が球団史上過去最高を記録したようです。1試合平均の観客数だと12球団全体でも4位です(上記の観客動員数だと横浜のほうが中日より多いが、横浜のほうが1試合多かったため、1試合平均だと中日のほうが多い)。3年連続最下位でお客さまが過去最高更新って、画期的な記録ではないかと思います。
なぜ伸びているのか理由を知りたく、調べたり考えてみたりしたのですが、よくわかりませんでした。検索したところ、「若い世代がビクトリーショー(中日が勝利した試合後に行われるショータイム)で盛り上がり、友達と一緒に来て幻想的にライトアップされたスタンドの写真をインスタにあげている」と出てきました。上記などの取り組みがより成果を上げていること以外に、このショーの効果もあるのかもしれません。
いずれにしても、「だれに何をどのように提供するのか」というマーケティングの再定義について、他業界にとってもヒントになる例だろうと考えます。
少し頭の整理が進みましたので、今度冒頭のライオンズファンの方に会った時に、何が良いのか尋ねてみたいと思います。
<まとめ>
だれに何をどのように提供するのか、再定義する。