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もし20年前にアマゾンに入社し、報酬の一部を自社株で受け取っていたら?

5月31日の日経新聞で、「株高が問う進路(中) 富生む力に日米格差 企業、還元偏重では限界」というタイトルの記事が掲載されました。株主への還元に関する考え方を取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

東京証券取引所は企業にPBR(株価純資産倍率)の改善を求めた。時価総額を純資産で割るPBRの引き上げは、分母の純資産をスリムにする配当や自社株買いが手っ取り早い。還元拡大の発表が相次ぐ。

落とし穴はないか。BofA証券が東証株価指数(TOPIX)の構成企業を対象に資金の使い道を分析したところ、10年前に比べ株主還元は3倍近くに増え、総額で研究開発費を上回るようになった。その間、研究開発費や設備投資は5割前後の伸びにとどまる。

投資不足は現金創出力に表れている。将来への投資や還元の原資となるフリーCFについて、日米の主要500社の中央値を比較すると、米国では10年で2倍に増え、日本では3割減った。巨大企業が多い米に比べ規模が10分の1にとどまるのは仕方がないとしても伸びでも見劣りする。

IT(情報技術)の比率が高い米国は、設備投資の負担が軽い。一方、製造業主体の日本は設備投資や在庫の確保で現金を生みにくい構造にある。海外投資家をひき付けるには還元だけでは不十分で、現金創出力を高める必要がある。

「再編の進展が日本株一段高のカギだろう」。UBS証券の足立正道チーフエコノミストはこう指摘する。海外投資家の声は(1)企業の数が多すぎる(2)投資したくても企業規模が小さくて投資できない――という2点に集約されるという。

企業数が多くコスト競争に陥りやすい構造は現金を生む力をそいできた。グローバル投資家が求める5000億円程度の時価総額がある企業は東証プライム市場に上場する約1800社のうち300社に満たず、成長のための投資マネーもひき付けられない。

現金を生む力が乏しいと資金使途は「パイの奪い合い」になる。いっときの還元ブームにしないためには、企業再編や事業の統廃合にも踏み込む大がかりな改革が欠かせない。

上記に関連し、2つのことを考えてみます。ひとつは、日本の企業数は多すぎるのかということです。

同記事の指摘にあるように、プライム市場に属する企業数は多すぎるかもしれません。では、上場非上場に関係なく、企業の絶対数は多すぎるのでしょうか。この両者は、分別して考えるべきです。

株式会社小川製作所のブログに、企業数の国際比較について分かりやすくまとめられた内容があります(6年前のデータではありますが、傾向を見る上で今でも参考になりそうです)。同ブログを参照すると、2017年時点で、大企業(従業員250名以上)の数は、調査対象国36か国中で、米国(約2万6千社)、ドイツに次いで、日本は3位(約1万1千社)となっています。

中小企業(従業員249名以下)では、米国(約421万社)、イタリア、トルコに次いで、日本は4位(約280万社)です。

ここで、対人口比の企業数を見てみます。人口が多ければ労働者が多く、必然的に企業数も増えるはずだからです。同じ人口に対してどれだけの企業数が存在するのかは、企業数が多いか少ないかを考える上で一つの視点になるはずです。

人口100万人当たりの大企業数は、日本は87社で25位(36か国中)です。米国の80社とほぼ同じです。人口100万人当たりの中小企業数は、2万2千社で33位(36か国中)です。米国は1万3千社で日本より少ないですが、日本もG7の国の中では米国の次に少ない国となっています。イタリアでは6万1千社あります。

仮に米国とだけ比較すると「日本は企業数が多い。特に中小企業が多い」となりますが、それは国際比較全体で見ておらず、本質を外した局地的な比較に過ぎないと言えるのではないでしょうか。

このように整理してみると、時々見かける「日本は中小企業の数が多すぎるから、全体の生産性を押し下げてしまっている」という話は果たして本質なのか、疑わしくなります。本質はむしろ、付加価値を生み出す事業活動、それに必要な投資ができていないこと、結果として給与水準が低いことにあるのではないかと考えます。

もっとも、今後はこうした国別の対人口比企業数という指標もあまり意味をなさなくなるかもしれません。国境を越えて他国市場に商品・サービスを売り、他国の人材をオンラインで雇用するような企業が増えれば、こうした概念が当てはまらなくなるためです。

もうひとつは、何が株主還元になるのだろうかという点です。

例えば、グーグル(現アルファベット)の株式上場は2004年8月で、20年近くたっていますが、配当金は2023年現在でも出ていません。しかし、配当に回すお金がないわけではなく、巨額の利益を上げているであろうことは周知の通りです。得た利益は、自社株買いによる株主還元にも使われているようですが、事業への投資に使い、さらに成長し株価を高めることが最大の株主還元だと考えているものと想定されます。この10年間で株価は約6倍になっています。

アマゾンも無配当企業です。この20年間での株価の最安値は、2001年後半の5.5ドル、最高値は2022年前半の3,400ドルでます。仮に最安値で買って最高値で手放せば、600倍以上になったということです。1万円分買っていたら600万円。このように考えると、原則100株単位でしか買えない日本の市場を、米国のように1株単位から買えるようにすべきではないかという意見の意義も改めて感じられます。

こうした無配当主義の米国企業もあるわけです。米国企業と聞くと、株主の強い要求に応える超資本主義企業、配当もバンバン出す、というイメージの方も見かけますが、それは一部の企業だけかもしれません。

このような事例も見てみると、改めて下記のように整理できます。

・株主還元の方法はいろいろある。長期安定して高配当を継続するのも株主還元だが、利益を配当に回さずさらなる成長事業への投資に回し、企業価値を高めて株価を高めることも株主還元になる。

・配当や自社株買いに利益を回す分、投資に回す余剰が減っていき、企業の停滞の要因になり得る。このことが日本企業全体に当てはまっている可能性がある。

ところで、アマゾンに20年前に入社して今日まで勤続し、報酬の一部を自社株で受け取っていたら、今頃どうなっていたのでしょうか。天文学的な額の報酬を手にしていたことでしょう。(もちろん、平均的な企業よりも成果に厳しい企業のはずですので、成果創出して居場所を確保し続けての話ですが)

アマゾンは極端な例ですが、既に大企業となっている成熟産業の企業であっても、事業計画と投資次第で10年で株価2~3倍などは十分にあり得ることだと思います。

例えば、次のような組織づくりを目指した経営を志向するのもよいのではないでしょうか。

・魅力的な将来ビジョンと計画の概要を提示する
・それに賛同した人材を集め、定着率も高める
・報酬の一部を自社株で渡し、従業員も経営陣に準じるような意気込みで仕事に没頭する

非労働時間をいかに捻出するかの工夫を行う休み方改革も重要ですが、上記のような仕事のあり方が、真の意味での働き方改革につながるのではないかと思います。

<まとめ>
利益を配当や自社株買いなどではなく事業投資に回し、成功させることも、株主還元である。

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