先行指標(PMI)で景気動向を考える

11月16日の日経新聞で、「世界経済 けん引役失う 中国、今年3%成長に失速見通し 米欧は後退予測広がる」というタイトルの記事が掲載されました。

同記事の一部を抜粋してみます。

世界経済の失速が鮮明だ。中国は新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策などの影響で2022年の成長率見通しが年初の予測を2ポイント近く下回り、3%台に沈む。直近10月は消費が減少に転じた。米欧は歴史的な物価高で急速な利上げを迫られ、22~23年に景気後退に入るとの予測が広がる。日本は7~9月期に4四半期ぶりのマイナス成長に陥った。けん引役不在の世界は先行きの不透明感も強い。

QUICK・ファクトセットがまとめた民間予測で、22年の中国の実質成長率は3.3%だ。年初の予測から1.8ポイント下がった。上海市の封鎖などで春に景気が急激に悪化した後、夏場に出てきた持ち直しの兆しが足元で再びしぼむ。

消費は11月に入っても鈍い。象徴的なのは、11日に最終日を迎えた年間最大のインターネット通販セール「独身の日」だ。1~11日の全国宅配便取扱量は前年同期比11%減少した。最大手のアリババ集団などは期間中の売上高を公表しない異例の対応をとっている。

政府の規制強化で住宅不況も出口が見えない。10月の住宅販売面積は前年同月を2割超下回った。国内総生産(GDP)の3割を占める不動産関連の低迷で家電や家具の販売が伸びず、建材などの生産も勢いづかない。

成長エンジンの変調は世界経済に暗い影を落とす。日本工作機械工業会が集計する工作機械受注は10月に前年同月比5.4%減と、2年ぶりにマイナスとなった。ゼロコロナ政策下の中国の停滞が響いている。

「世界の市場」の需要減は資源価格にも表れる。シンガポール取引所(SGX)で鉄鉱石の期近先物は1日、一時1トン80ドルを下回り、20年2月以来の安値をつけた。鉄鉱石価格は世界の貿易量の約7割を占める中国の景況を敏感に映す。一時急騰が目立ったエネルギー相場も足元の値動きは低調だ。

中国は08年のリーマン危機後は巨額の経済対策を打って成長を続け、世界経済を下支えした。その役割を果たす存在が見当たらない状況になっている。

米S&Pグローバルがまとめた総合購買担当者景気指数(PMI)は中国が9月から2カ月連続、米欧は7月から4カ月連続で、好不況の境目の50を下回る。

米欧は物価高でコロナ後の回復シナリオの見直しを迫られる。日本経済新聞が民間エコノミスト10人に聞いたところ米国は6人、ユーロ圏は10人全員が23年までに景気後退局面に入ると答えた。ユーロ圏は2人が「すでに後退」とみる。

以前のGDP(国内総生産)2桁成長のような勢いがなくなっていたとはいえ、中国はコロナ禍発生前まで、2017年以降もGDP6%前後の成長率を実現してきました。3%台というのは同国としては低い水準です。コロナ禍対策やその他の影響で、明らかに景気が低迷していることが伺えます。

上記の中で、購買担当者景気指数(PMI)に注目してみます。

「Purchasing Managers' Index」の頭文字をとった「PMI」は、企業からみた景況感を示す経済指標です。購買担当者に生産や受注、価格動向などを聞き取り、その結果を指数化したもので、50を上回れば前月より拡大、下回れば縮小を示します。つまりは、50が好不況を判断する分かれ目とされています。

購買担当者は取引先の動きや製品の需要、自社の生産計画などを見極めたうえで原材料を仕入れます。よって、これから先の景況感を映す先行指標となります。

中国は、6月は同指標が55を超えていました。しかし、6月以降悪化し続けていて、9月から50を割ってさらに悪化を続けているようです。上記記事中にある要因などによって、当面の景気動向に慎重な見方が広がって、仕入れにも慎重になっているのが伺えます。

ユーロ圏は4月以降悪化を続けています。米国も3月以降悪化を続け、9月にいったん持ち直して50付近まで戻したものの、10月にまた悪化となっています。

中国のPMI(総合)は、2021年8月に50を割り込みました。その後50以上に回復し、3月にまた50を割り込んだ後、6月にかけて回復していました。米国は、昨年から今年の6月までずっと50を超えていました。

世界3大経済圏の米国、中国、欧州のPMIが揃って50を下回るのは、2020年以降初めてです。コロナ禍が発生した2020年2月は、米国、中国で50を下回っていたものの、欧州は50を超えていました。2020年4月は、米国・欧州は50を下回っていたものの、中国は既に50以上に回復していました。今回3大経済圏が揃って50を割ったというのは、世界全体で当面の景気動向が懸念される象徴的なシグナルとして見てとれるかもしれません。

日本のGDPも、内閣府が15日発表した速報値では7~9月期の実質成長率は前期比で年率でマイナス1.2%と、4四半期ぶりのマイナスとなっています。主要な海外市場のすべてで消費や生産活動の先行指標となるPMIが悪化しているということは、輸出をはじめとした経済活動の動きが鈍り、日本経済全体も当面の動向が懸念されると言えそうです。

政策や施策は、すべてをとることはできません。各国が景気支援よりインフレ抑制を優先させるとして金利政策等に反映させてきたことのデメリットが、やはり表面化しているということでしょうか。

米国IT大手のツイッター、メタ、アマゾンなどが大規模な人員削減を行うと発表されていますが、例えばPMIのような景気の先行指標にその手がかりを求めると、背景としてその理由が見えてくるものがあります。

ただ、ツイッターは赤字が常態化していたビジネスモデルのため、景気動向に関係なく変革を必要としていたという背景があります。アマゾンは、2019年末に80万人弱だった従業員数が今では150万人以上まで増えています。「アマゾンが1万人規模の人員削減を計画」と聞くと物々しく感じますが、割合でいうと増加後の全体の約0.6%です。見出しだけからの印象でなく、全体においてのインパクトの度合いからも見るべきです。

いずれにしても、企業活動・事業活動においても、今後の動向により神経質になるべき局面が続くのではないかと思われます。

<まとめ>
景気の先行指標の今後に注意する。


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