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若手世代の投資意欲

6月1日の日経新聞で、「株高が問う進路(下)若者は「貯蓄より投資」好循環のタネ、生かせるか」というタイトルの記事が掲載されました。「貯蓄から投資へ」は経済政策の合言葉のようになっていますが、若手世代にその傾向が見てとれるという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

若年層に投資が広がる傾向は経済統計にも表れる。総務省の家計調査を基に分析すると、世帯主が39歳以下の家計が持つ株や投信など有価証券の額は2022年に平均105万円と、10年前の3.5倍に増えた。この2年は前年比で4割前後の伸びを示している。

保有額は高齢層が多いものの、60歳代や70歳以上はこの10年の伸びが1.2~1.4倍にとどまり、若者の積極姿勢が顕著だ。

今年65歳のリタイア年齢を迎える人は、日経平均株価が史上最高値を付けた1989年に働き盛りの31歳だった。人生の大半が株価低迷と共にあり、デフレ下で預金こそ確実な選択肢だった。今年30歳になる人はアベノミクスが本格化した2013年に20歳となり、上昇相場を見てきた。

もっとも、個人マネーが必ずしも日本企業の成長につながっているわけではない。QUICK資産運用研究所によると、22年度に最も資金流入が多かった投信は米S&P500種株価指数連動型だった。トップ10のうち8つが主に海外資産に投資するタイプだ。個人は高成長の米企業ほど日本企業に魅力を感じていない。

経済協力開発機構(OECD)によると、設備や建物、ソフトウエアなど成長の基盤となる資本ストックは過去10年で米国は17%、ドイツは7%増えたが、日本は0.4%増どまり。潜在成長率が伸び悩み、国民の所得も低迷した。国内事業が日本企業の足を引っ張り、さらに国内投資に二の足を踏む悪循環に陥っている。

「国内投資の拡大こそが、この賃上げ機運を持続させていく」。岸田文雄首相は春に開いた官民連携フォーラムで強調した。企業が稼いだ現金のうち国内設備投資に投じた割合は1990年代の106%、2000年代の76%、10年代の63%と右肩下がり。アベノミクス下の法人減税などの政策効果は限られた。脱炭素の呼び水となる財政支出など、有効な手立てを打てるかを政府は問われている。

企業が個人マネーを集めて国内投資を増やし、成長の果実を賃上げや株主還元に向ける好循環が目指すべき進路だ。若者のマネーは動き出した。33年ぶりの株高の持続性は、企業や政府の覚悟と挑戦にかかる。

以前、個人投資家が伸び悩んでいるということを取り上げたことがあります。家計の金融資産では依然として現預金が圧倒的に多いながら、若手世代は投資意欲も高まっていて、変化の兆しも感じられるという内容でした。上記記事からは、その後投資意欲はさらに高まってきているということが感じられます。

今年になって、日経平均株価がバブル経済崩壊後の32年ぶりの高値を更新していますが、投資意欲の高まりが要因のひとつと考えられそうです。

上記から、3つのことを考えてみます。ひとつは、今回の高値更新は、株式市場復権のトレンドとして続く可能性があるということです。

バブル中の高値更新が、実態を伴っていない、投機的な経済活動の表れだったことは各所で言われている通りです。一方で今の株高は、バブル時のような土地神話等に基づくものではありません。投機的な要素がゼロではないとしても、国際経済全体で日本市場の見直しという流れも踏まえて形成されている、実態を伴った動きとされています。

加えて、上記記事にあるように、私たちの経済を見る目の潮目が変わってきています。数十年デフレ・株価下落を見続けると、物価も株価も上がらないものとして見てしまいます。逆に、インフレ・株価上昇を見続けると、物価も株価も上がるものとして見ようとします。

物心ついた時からインフレ・株価上昇を見てきた世代にとっては、そうでない世代に比べて、株式投資は日常的な感覚となります。インフレ・株価上昇にあった世代が増えていくことで、投資額も増えていくことが想定されます。このことが株価の下支え要因になるでしょう。

2つ目は、投資が消費を喚起し、経済を好循環させる可能性です。

同記事の指摘の通り、投資の行き先が必ずしも日本企業に向かっていないという実情があります。しかしながら、利益を生み出した源泉が国内だろうと海外だろうと、利益は消費に向かいます。これが新たな消費喚起の流れになって、国内経済を長期スパンで好転させていく可能性は考えられます。

例えば、日本でも1970年代には個人株主が積極的に動いていました。70年~80年代は、預金で6%や8%の金利がついていた環境で、この金利による収入が消費を呼び、高度経済成長の一因につながった側面があります。投資による利益が増えれば、そこから経済の流れが多少なりとも変わるかもしれません。

3つめは、投資環境の整備の必要性です。

日本での個別株投資がしにくい要因として、取引単価が高いことが指摘されています。取引が100株単位というルールがあるため、例えば株価が1,000円の企業であれば最低でも10万円が必要です。

これに対して、米国市場では1株単位で投資可能となっています。有力とされる大企業や今後が期待されるベンチャー企業の株でも、1万円程度から購入可能なものが多くあります。米国市場のほうが資金を集めているのは、企業の魅力度に違いがあるのも一因かもしれませんが、投資しやすさの環境の違いも一因と考えられます。

投資を促すNISAの制度も、参考にした英国のISAに比べると利用による旨味も少なく、まだ発展途上だと指摘されてきました。

しかしながら、NISAの見直しをはじめ投資環境の改善に向けた制度改定の動きや、金融教育活発化の動きも出てきています。こうした動きがさらに活発になっていけば、投資を押し上げる要因になっていきそうです。

当面の経済環境は、国外を中心に景気後退を示唆する慎重な見方が叫ばれていますが、長期の時間軸での株式市場という視点では違う見方ができるのかもしれません。

<まとめ>
これから労働力人口となる世代は、インフレ・株価上昇を当たり前のものとして、投資に向き合うようになると想定される。

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