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個人投資家伸び悩みの理由を考える

7月8日の日経新聞で、「個人株主16%、50年で半減 東証分布調査 米韓に見劣り 若者の投資促進カギ」というタイトルの記事が掲載されました。「貯蓄から投資」がスローガンになる中で、日本の個人株主比率が低下していることについて取り上げています。

同記事の一部を抜粋してみます。

日本の個人株主比率が低下している。東京証券取引所が7日発表した2021年度の株主分布調査によると、個人の保有比率は金額ベースで16.6%と50年前から半減した。

個人株主数は6460万人と8年連続で増えたが、この数字は各上場企業の株主数を単純合算した延べ人数だ。実態は1400万人台といわれ、人口の9人に1人にとどまる。韓国は4人に1人の計算だ。米国は金額ベースで個人が株の約4割を持つ。家計の金融資産に占める株や投資信託の比率も、日本は欧米に比べ低い。

背景にあるのは高齢化だ。日本の個人で株を持つのは高齢者に偏っており、年齢別では60歳以上が金額ベースで67%を保有する。高齢者が相続を意識するようになると、保有株を売却して現金化し不動産を購入するケースが少なくない。

一方、若者層はどうか。30歳未満の個人が持つ株は全体の1%にとどまるが、投資意欲は旺盛だ。楽天証券は新規口座を開設した人のうち20~30代が7割弱を占める。マネックス証券は30代の口座開設が最多だ。賃金が上がらないなど将来への不安が強まり、「積み立てでコツコツと投資する需要が伸びている」(マネックス証券)。

こうした日本の個人が向かうのは外国株だ。1~6月の公募投信(上場投信除く)の純資金流入額は約4兆円と過去4番目の大きさで、資産別では外国株で運用する投信には4兆2000億円が流入。6月の資金流入が最も多かったのは米S&P500種株価指数に連動する投信だった。

海外株を中心に若者などの株式への関心は強い。それなのに若者を中心に日本株の個人投資家が増えにくいのは最低売買単位などの壁がある。例えば、1株6万8000円のファーストリテイリングの単元株は100株で、最低680万円ないと購入できない。米国株は1株単位で購入でき、直近の米アップル株だと1株140ドル程度(約1万9000円)だ。

「個人株主数は8年連続で増えたが、相変わらず人口の9人に1人」ということは、株主になっている個人の絶対数はあまり増えておらず、取り組んでいる個人が複数の企業に投資を増やしたのが増加の主な要因と想定されます。つまりは、やる人はやるが、やらない人はやらない、というのが、より傾向化されたと言えるのかもしれません。家計の金融資産では、現預金が圧倒的に多く、依然として株や投資信託にはあまり向かっていないというのも、各所で指摘されています。

この状態は近年あまり変わっていないわけですが、もう少しひもといて考えると違った面が見えてきそうです。ここでは3点挙げてみます。ひとつは、もともと日本でも個人の投資意欲があったということです。

同記事を参照すると、1970年代には個人株主の比率が4割近くありました。しかし、75年には金融機関が個人を逆転します。70年代には5%に満たなかった外国人投資家が、90年代には10%を超え、21年では30%を超えて金融機関の約30%と並んでいます。個人のほうは、90年代に20%を下回って今に至っています。

このような、以前は個人が活発に株主になっていて市場で今より存在感を持っていたと示唆する情報を見ると、「日本人は個人が投資しない文化」などの印象論は疑わしいことが改めて分かります。

2つ目は、投資の多くが国外企業に向かっているということです。これには、大きく2つ理由があるように思われます。

国外企業のほうが収益を伸ばし株価が上がるように感じられるため、魅力的に映るという要因と、投資しやすいという環境要因です。記事も指摘するように、100株単位というルールが壁となって国内企業には投資しにくいという制約も大きそうです。

上記のファーストリテイリング以外にも例えば、トヨタ自動車で株価2100円、最低単位100株のため、21万円なければ投資できません。1株から投資可能で、若手世代からも投資を吸収する米国市場では、GAFAMなどの有力企業や売買ランキング上位に入るベンチャー企業でも日本円で1万円程度から購入可能です。

私の周囲でも、小規模単位で米国株の投資に取り組んでいる人が散見されます。「国内企業は最低単位の値段が高い。よって値幅リスクが大きく、個別投資はできない」と言います。以前は国外企業への投資は手段が限られていて困難でしたが、今ではネット証券から個人が簡単に売買可能です。

3つ目は、上記にも関連しますが、投資を促す環境づくりが不十分な点です。

日本でも投資信託などでもっと安価な金額から投資可能なサービスが増えてはいますが、他国との比較においても、株式市場に足を向けさせやすい環境が十分とは言えないでしょう。

株の売却益や配当にかかる税金をなくすNISAという制度があります。年間120万円まで非課税という投資家には有利な枠組みですが、投資期間の制限もあります。参考にした英国のISAは320万円で期間制限もなしであることを踏まえると、NISAはまだ発展途上の仕組みだと言えそうです。NISAを見直すという動きがありますが、それはこのことへの対応だと言えます。

私たちは、ともすれば「もともと日本人は投資というものへの意欲を持ちにくい文化」「金融教育がないことが根源的な問題だ」などと言われることもあります。しかし、以前は金融教育などなくても、多くの人が投資していたわけです。そうした印象論で片づけてしまうと、本質を断片的にしか見ることにならなくなると思います。

これと同様のことは、身の回りの自身や組織でも起こりがちではないでしょうか。「これはこういうもの」「以前からそう」などで片づけがちなテーマについて、果たして以前からそうだったのか、そうだったとしてそうなる要因が網羅的に把握できているのか、振り返ってみたいところです。

また、今以上に個人から投資したいと思われる企業にしていくことが、事業活動で取り組めることだと思います。

<まとめ>
個人の投資が進まないという事象も、意欲がないからとは限らない。

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