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海外で稼いではいるが

12月18日の日経新聞で、「投資会社化するニッポン 海外での稼ぎ、GDP比1割」というタイトルの記事が掲載されました。日本経済が海外で稼ぐ構図が強まっていると説明しています。

同記事の一部を抜粋してみます。

日本経済が海外で稼ぐ構図が強まっている。配当や利子などの収益額は7~9月期に年換算で50兆円を超えた。10年間で2.8倍に膨らみ、国内総生産(GDP)比で1割に迫る。企業が世界で進めてきたM&A(合併・買収)などが実を結んでいる。こうした所得の一部は現地子会社にとどまる。国内への還流や家計への分配が進まなければ内需が細り、成長力の底上げにつながらない懸念がある。

M&Aに詳しいKPMGFASシニアアドバイザーの加藤雅也氏は「国内市場の縮小に対応するため、企業はこの20年、海外の拠点と顧客を同時に手に入れるM&Aを活用してきた」とみる。欧州などでM&Aを重ねるアサヒグループホールディングスのように既に成長の軸足を国外に置く企業は少なくない。リクルートホールディングスは米求人検索サイト「インディード」の貢献で22年4~9月期の純利益が過去最高となった。

財務省・日銀によると日本の対外投資の資産は21年末に1249.9兆円。このうち海外企業への出資など直接投資は228.8兆円と10年間で3倍に増えた。負債を差し引いた対外純資産は411.2兆円で31年連続で世界最大だ。

GDP統計のもとになる国際収支統計で、配当や利子などの受け取りと支払いをまとめた第1次所得収支をみると21年は26.6兆円の黒字だ。国際通貨基金(IMF)によると日本の黒字額は20年、21年と続けて世界最大だった。

黒字を手放しで喜べるわけではない。海外からの対内投資が少ないために支払いが少なく済んでいる事情もある。

対照的なのが第1次所得収支の赤字が続く英国だ。「対内投資が増えて海外への支払いが多くなり、投資先だった欧州の成長低迷で受け取りが減った」と財務総合政策研究所主任研究官の松岡秀明氏は分析する。

「投資会社日本」の海外収益の行き先も問題だ。日本経済研究センターの斎藤潤研究顧問は「必ずしも国内に還流していない」と指摘する。21年の受取額38.0兆円のうち20.8兆円は直接投資分。うち配当金などとして日本に回っているのは9.1兆円だ。11兆円あまりは海外子会社の内部留保になっている。

企業が世界で稼ぐだけでは国内で良質な雇用が生まれにくくなる懸念は残る。海外で獲得した新技術を国内産業の強化に活用するよう促すことも経済政策の課題になる。

上記から2点考えてみます。ひとつは、海外市場で稼ぐことの重要性です。

国内市場は人口減少などの影響で、多くの業種にとって市場性は今後頭打ちとなっていきます。海外市場で収益が狙える商品・サービス、ビジネスモデルをもっている会社にとって、上記は改めて海外市場の重要性を示唆していると感じます。

もうひとつは、海外からの投資を呼び込むことの重要性です。

同日付日経新聞「きょうのことば」やダイヤモンドオンライン記事を参照しながら、経常収支について考えてみます。

経常収支=貿易収支(財貨の輸出入)+サービス収支(知的財産権等使用料、旅行など)+第一次所得収支(対外投資で得られる収益)+第二次所得収支(他国への援助など)です。

対外投資には、海外に工場をつくったり海外企業を買収したりする「直接投資」と、利益を得るために株式や債券を購入する「証券投資」があります。取得した株の議決権の割合などによって、直接投資か証券投資かのどちらに当てはまるかが決まります。

第1次所得収支では、日本側が得た利益は受取額、海外投資家が日本への投資で得た利益は支払額で、差し引きして受取額が多ければ黒字となります。この額について、21年で26.6兆円の黒字だったのが、今は年間で50兆円の勢いということです。急拡大中と言えます。米独仏などを上回り、世界最大の第1次所得収支黒字国というわけです。

一見すると、第1次所得収支の黒字拡大は望ましいことのように見えます。しかし、上記英国の例とは逆に、海外からうまく対内投資を集めることができていない=日本が魅力的な投資対象エリアだとみなされていない、と言うこともできます。このことは、長期的な国の発展を考えると、望ましいとは言えないことです。

加えて、海外で稼いだ日本企業が、国内にその稼ぎ分を再投資せずそのまま海外子会社で留保していることの表れだと、指摘することもできそうです。

さらに海外市場に活路を求める、海外で稼いだ利益で国内に再投資する、外国からの対内投資を呼び込む。私たちの事業活動でできることとして、3つのいずれも今後の日本にとって一層必要なことであり、そのいずれであっても日本の発展への貢献につながることだと思います。

<まとめ>
第1次所得収支の黒字はよいことではあるが、同時に改善の余地も示している。

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