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中古不動産の今後を考える

8月13日の日経新聞で、「億ション続々、高騰でも… 日本の住宅「割安」 収入比、OECD平均未満 都心・新築偏重」というタイトルの記事が掲載されました。高騰する日本の不動産価格について、国際比較の観点も含めて考察した内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

東京都心のマンションの平均価格が1億円を超える日本の住宅価格。しかし国際比較すると景色は様変わりし、「割安」といえる水準だ。経済協力開発機構(OECD)によると、収入と比べた住宅価格で日本は平均を下回る。新築偏重で中古市場が活性化せず、地方を含め空き家が増加。全国的に住宅がだぶついており、価格は国際的に取り残されている状況だ。

円安傾向で海外マネーは都心の物件に一極集中している。その資金が中古や地方の住宅にも流入し、価格が国際標準に追随できる上昇軌道をたどれば、それらの住宅を保有する個人の家計への恩恵も大きい。中古や地方の物件が資金を呼び込める仕組みが欠かせない。

不動産経済研究所(東京・新宿)によると、2023年度の東京23区の新築マンション平均価格は1億円を超える。しかし、住宅の価格が割高か割安かを表す指標「住宅価格収入比率」(住宅価格÷1人当たり可処分所得)で日本はOECD平均を下回る。コロナ禍後の住宅価格の上昇率もOECD平均より一貫して低い。

「新築志向がいまだ根強い」(三上進・三井住友信託銀行ローン業務推進部部長)ことの影響が大きい。国土交通省によると、欧米の主要国では市場で流通する中古住宅の比率は80%前後だが、日本は14%しかない。

このため中古住宅の流通が進まず、OECDによると、空き家率(別荘除く)は日本が13.0%と米国や英国よりも高い。一方、人口1000人当たりの新築住宅の着工数は日本が6.6戸と米英を上回る。

不動産コンサルタント、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は「日本は建物の情報はブラックボックスだ。データを整え、ネットを通じて海外からも簡単に把握・取引できる仕組みが必要だ」と訴える。必要な修繕を施し、情報を開示するだけで海外の評価は上がると予想する。

住宅の需要が加速度的に減り始めるなか、海外資金は市場を下支えする柱だ。近年、日本の地方部の魅力を情報発信する外国人観光客は多い。一部の人からだけでも移住や別荘の需要が出てくれば、地方の住宅市場は一変するかもしれない。

矢作氏は「米国ではニューヨーク以外にカリフォルニア州、テキサス州など多数のビジネスセンターが点在し、各地で住宅市場が活況だ」と一極集中の是正を説く。短期的には地方に大規模ビジネス拠点を整えるのは難しいが、「リモートワークの一段の拡大を進めるだけでも、人の流れは相当に変わる」とみる。

日本の住宅は、生活者にとっては高いと感じる価格ながらも外国の不動産の金額と比べると安い、と言われています。簡単に買えない価格帯まで上がっているのは、主に外国人を含む投資家による購入意欲が価格を押し上げる結果だろうと思っていましたが、同記事を参考にすると、別の切り口からも捉えることができそうです。

住宅価格が可処分所得をどれだけ上回っているかの割合の指数は、OECDの平均に対して、日本は下回っているというわけです。

同記事中で紹介されているグラフによると、(グラフからの目算のため正確ではないですが)2015年を100とした場合の住宅価格収入比率は、OECD平均が日本を上回り続けていて、2023年時点でも4ポイント程度の差があります。つまりは、OECD他国に比べると、日本はまだ居住する住民にとっても住宅が買いやすいほうだということになります。

このことから、「その都市で不動産がいくらで買えるのか」という絶対額の観点で、他国より安いから日本の不動産が買われやすい、というだけでもなさそうだと想定できます。そのことに加えて、生活者目線から見ても日本の不動産は全体的には他国よりまだ割安であり、投資の観点以前に利用の実需としても全体的には割安だということも、買い要因として想定できるのかもしれません。

そのうえで、上記は「日本の住宅全体」を平らにして見ていることを前提にする必要があります。例えば、住宅の中でも「都内・新築・マンション」は高騰しているものの、「都市以外・中古・戸建て」などはそうとは限らないということです。立地や物件による価格差は大きそうです

日本では、以前から新築志向が強いと言われます。新品を好む傾向があり、「お古」は買いたがらない、敬遠しやすいというわけです。中古マンションは、賃貸としては利用されるものの、売買ではあまり評価されませんでした。

しかし、このことも変わりつつあるのかもしれません。8月16日の日経新聞記事「〈経済財政白書から〉マンション、薄れる新築志向 資産価値下がりにくく」から一部抜粋してみます。

内閣府が住宅金融支援機構のフラット35利用者調査などから推計したところ、中古住宅を購入した割合は22年度に27.1%となった。12年度の13.5%から増加した。

住居の種類別でみると、例えば年収1000万円以上の層では12年は中古マンションを選んだ割合が1割だったのが、22年度には2割弱まで高まった。一方で新築のマンションの割合は12年度の3割から2割に低下した。年収が600万~1000万円の層でも中古は人気だ。年齢別では、30代以上で新築がよいとする割合は半分を下回った。中古マンションの資産価値が見直されていることが新たな「熱」を生んでいる。

東京圏のマンションで、実際の新築物件と中古物件の価格低下幅から推計した新築時の価格を比較すると、13年度は実際の新築の方が1平方メートルあたり3万円程度高かったのに対し、22年度は逆に6万円程度安かった。新築には新品であることや、間取りや内装を選べることから「新築プレミアム」と呼ぶ特有の価値があるとされる。白書は新築プレミアムが消失していると分析した。

白書は欧米に比べ中古住宅の取引の透明性が低いと指摘した。「少子高齢化と人口減少が進む中にあっては過剰供給につながる新築信仰から脱却し、既存住宅を有効活用することが重要」と結んだ。

全所得層において、中古マンションを購入する層が増え、それに伴って中古と新築の価格差が小さくなっているというわけです。

これまで中古が選ばれにくかった要因としては、大きく2点挙げられるのではないかと考えます。ひとつは消費者が新しいもの好きであること、もうひとつは中古に関する情報が不透明なことです。

しかし、これらの傾向も変わっていくかもしれません。

Z世代を中心とする若手世代は、環境問題などにも敏感で、一様なブランド志向などより是々非々で買うものを選ぶ傾向が強くなっていると言われます。

メルカリが13日に発表した決算では、上場後初めて2期連続で最終黒字を確保し、国内のフリマアプリなどマーケットプレイス事業の流通総額も初めて1兆円を超えるなど国内事業の好調さを示す内容でした。「中古品も正当に評価できるものは購入に抵抗がない」という、かつての新品志向とは異なる傾向を予感させます。

中古マンションに関する情報の透明性は今後の課題ですが、国も中古物件の流通や管理強化を促しているところです。今後改善されてくれば、中古不動産の活況がさらに期待できるかもしれません。社会全体の既存資産を有効活用する観点からも、望ましい動きだと思います。

以上、新築と中古の住宅をテーマに考えてみましたが、

・データでは、全体の傾向と個別の傾向と、両方をおさえて俯瞰して見る必要がある
・今後の変動要因となりそうなことを想定してみる
・中古品の市場にさらなるビジネス機会を見いだせるかもしれない

これらは、不動産以外のあらゆる事業にも当てはまることではないかと思います。

<まとめ>
中古品に対する志向、評価は、変わりつつある。


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