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社員への手当支給を考える

先日、ある企業の人事担当の方から問いかけがありました。「現在家族手当を正社員にしか払っていない。正社員以外のいわゆる非正社員も支給対象とするよう制度改定を進めている。ただ、非正社員は労働時間が明らかに正社員より短い。例えば、労働時間の長さに応じて家族手当を割り引くなどの考え方は妥当だろうか?」

雇用形態の違いなどに関わらず、やっていることが同じなら同じ賃金を支払うべきだという「同一労働同一賃金」の動きがあります。その動きに合わせて、正社員のみに与えていた待遇についても、非正社員にも同等に提供するべきではないかという考え方が広がっています。

月々のいわゆる基本給以外にも、賞与や手当(住宅手当、家族手当など)、福利厚生なども、その検討の対象となり得ます。同一労働同一賃金は、何をもってして「同一」とみなすのかが、各社個別の雇用契約の内容や職務内容、報酬の趣旨などにもよりますので、一概にこうあるべきと言えない面があります。

そのうえで、冒頭のような問いかけに対して考え方の軸となるのは、「そのルールの理由に合理性があるか」だと思います。

例えば、賞与支給額の決定が、業績貢献に対する還元という趣旨で、担っている責任や役割の大きさの種類、成果創出度の違いから、正社員と非正社員で異なる支給・算出ルールが適用されるというのは、合理性が感じられます。

一方で、住宅手当や家族手当などは、仕事での成果などとは関係なく、個人の属性を鑑みながら何らかの支援を行うものです。趣旨としては、生活費の多くを占める住宅への支出は負担が大きいから、会社で一定の負担を肩代わりしてあげる。家族を養うのは大変だから、少子化の環境下で子育てを頑張る社員には会社が一部負担して応援する、などのイメージでしょう。

そのうえで、例えば次のようなルールで支給対象者を区分する考え方は、合理性が感じられます。

・持ち家で住宅ローンもない人は住宅への支出がほとんどないわけだから、住宅手当の支給対象外にする。

・自社が支給している給与以外にも世帯に収入源があって、世帯全体で一定の収入がある世帯は、手当までは必要ないとみなす。よって、被扶養者の収入が一定以上であれば家族手当の支給対象外にする。

一方で、個人の属性に対して支給される家族手当が、労働時間によって金額変動するというのは、合理的理由を見出すのが難しいように感じられます。働く時間の長さで手当額が変動となると、結局ここでも業績への貢献度合いや役割発揮の対価の考え方を引っ張ってくることになり、何のための支払いかの趣旨がわからなくなりそうです。

むしろ、考えようによっては、労働時間が短い者ほど家族を養うのが大変だから、もっとたくさんの手当の支援が必要、と捉えることもできるかもしれません。

「理由の合理性があるか」は、類似のテーマを考える上での有効な切り口になると思います。

正社員と非正社員の間で存在する各種ルールの違いをどうするかは、各社で揺れがあるのが現状だと思います。違いが説明できないゆえに、正社員のみに適用してきたルールを廃止する企業も多く見られます。廃止もひとつの選択肢ですが、同社様のように、正社員のみに適用してきたルールを非正社員に拡張するのも、そのルールに意味があるならひとつの方向性です。

同社様と逆で、個人の属性は仕事の成果と関係ないわけだから、自社としては個人の属性に対して支払うような報酬項目は設定しない、というポリシーもありです。何に対してどんなルールでみるか・みないかを決めるにあたっては、組織としてのポリシーが何なのかを突き詰めていくことが求められます。

<まとめ>
その理由に合理性があるか、その合理性が自社のポリシーに合っているかは、手当支給ルールをどう考えるべきかの切り口になる。

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