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「ジョブ型」を一部の人材に適用する

10月19日の日経新聞で、「三菱UFJ信託銀、専門人材に年収2000万円 ジョブ型活用」というタイトルの記事が掲載されました。「ジョブ型雇用」の必要性や導入の動きが各所で言われるようになってきましたが、その一例を紹介している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

三菱UFJ信託銀行は2024年4月、IT(情報技術)などで専門性のある人材に最大2000万円強の年収を支払う報酬制度を立ち上げる。職務内容を明確に定める「ジョブ型雇用」の枠組みを活用し、専門人材に特化した給与テーブルを策定して外部企業の報酬水準にあわせて年収を決める。高度人材を社内で育成しやすくする狙いがある。

制度の名称は「プロフェッショナルジョブ人事制度」。ITのうち人工知能(AI)のようなデジタル領域、サイバーセキュリティーにたけた人材や資産運用を担う一部の部署の人材を対象にする。今後財務関連などを念頭に新報酬制度を適用する部署をひろげる方針だ。まず20人程度を対象とする方向で、3年で100人への適用を目指す。

新制度の対象者は職務を定める定義書を作成して達成する目標を明確にし、社内会議を経て適用の可否と報酬水準を決める。適用部署の外への異動は制限し、定期的に成果を精査する。年収は最低でも1000万円を上回る水準に設定し、一般に支店長級に相当する2000万円の報酬を受け取ることも可能にする。

どれぐらいの割合の企業が、いわゆる「ジョブ型」制度を導入しているのかの現状について、労務行政研究所の公開しているデータ「人事制度の実施・改定動向」(2021年12月実施のWEBによるアンケート調査に基づく。1000人以上60社、300~999人84社、300人未満55社が対象)によると、下記の通りとなっています。

<各等級制度の導入率>
職能資格制度:一般社員52.6%、管理職40.3%
役割等級制度:一般社員26.5%、管理職35.7%
職務等級制度:一般社員15.3%、管理職15.8%
その他:一般社員5.6%、管理職8.2%

ジョブ型は、上記の中では職務ベースで採用・担当職務の定義・評価がなされる「職務等級制度」、あるいは「その他」が該当すると想定されます。その観点からは、全体の中でまだ2割程度であり(現時点ではもう少し増えているかもしれませんが)、導入企業は少数派のように見えます。

ただ、社員が保有する職能ベースで処遇される「職能型」や、社員がおおよそどのような役割を担うのかの役割ベースで処遇される「役割型」を、会社によっては「ジョブ型」と称している場合があります。また、「職務型」といっても、実際の等級定義の内容が「職能型」や「役割型」になっている場合もあります。(「ジョブ型」の定義が何なのかについても、幅広い解釈があります)。

また、上記調査の回答企業は、一定の業容・社員数規模の企業だと思われます。社員数人の小企業などは調査対象や回答企業になりにくいと思われますので、社会全体での導入割合の実践的な数値はもう少し低くなるのかもしれません。

よって、正確な実態は把握しづらいところがあります。いずれにしても、日本では発展途上の概念で、各社が試行錯誤中という状況だと思われます。

ひとつポイントにしてよいのではないかと考えるのが、「全社員に対して、一律でジョブ型の制度を適用する必要もないのではないか」ということです。

記事の銀行の詳しい制度は存じ上げませんが、概要からは、限られた一部の人材に適用される制度のように見受けられます。例えば、大半の社員は、職能型や役割型ベースなのかもしれません。

以前お話を聞いたことのある流通関係の企業様でも、一部の人材だけ同社様の一般的な人事制度の適用外とし、同人材に合わせた職務記述書に基づく雇用契約をしているというお話を聞きました。

同社様の一般的な人事制度では、職能と役割を組み合わせた等級制度を社員に適用しているのですが、同社様が注力するシステム開発・再編業務を担うために採用するエンジニアには、その等級制度、等級に関連する評価制度・賃金制度がうまく適用できないためです。

別の企業様の例では、公認会計士の資格を有するような会計担当も、例外的に他の社員とは別枠で、その人材向けの職務記述書に基づく雇用契約をしているというお話を聞いたことがあります。

各社様から「他社はジョブ型にしているのか」「ジョブ型の導入割合はどれぐらいか」といった問いかけを受けることも増えていますが、上記も参考にすると、改めて次のような整理ができるのではないでしょうか。

・ジョブ型の導入企業割合は、現時点で多数派というわけではない
・自社の雇用する社員全員に、一律でジョブ型を適用する必要もないのではないか
・ジョブ型の導入で何を実現したいのか、言い換えると、ジョブ型以外の方法では困りごとが解決できないのか

導入方法について検討を始める前に、このような視点に対する自社なりの解を考えることが有効なのではないかと思います。

<まとめ>
人事制度は、必ずしも全社一律でなくてもよい。

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