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コミュニティーの一員として受け入れる

先日、ある企業様で、ベトナムでの従業員採用活動についてお聞きする機会がありました。同社様では、これまでも外国人従業員の採用実績はありますが、募集してきたら応じるという対応で、積極的には採用活動を行っていませんでした。

しかし、今後継続的に従業員数を確保していこうとすると、より踏み込んだ外国人の採用活動が不可欠だという判断になったそうです。初めてベトナム現地に行き候補者との面談も行ったということです。

次のようなお話でした。

「ベトナム人にとって、日本は依然として有力な渡航先となっている。街の清潔さや治安の良さなどの印象もよい。日本人と同じ給与を支払うと話した瞬間に盛り上がった。安心感もあったのではないか」

あくまでも、いち企業によるひとつの事例のため過度な一般化には無理がありますが、参考にはなるかもしれません。渡航先として有力である一方で、日本企業での労働で日本人と同じ給与を支払うと認識されているわけではなさそうな点は、改善の余地を感じます。

6月22日のNHKニュース(おはよう日本 7:00~)で、「外国人材育成 企業は」という特集が放送されました。以下のような事例が紹介されていました。

・技能実習制度から育成就労制度に変わることで、一定の要件を満たせば転籍が可能になる。人権尊重の面では前進だが、人材が地方から都市部へ流出が加速する懸念もある。

・地域ぐるみで外国人材の定着支援をしている例として、長野県上田市が挙げられる。現在、技能実習生400人以上が地域経済を支えている。しかし、実習の期間を終えた後、東京などの都市圏に移る人が相次いでいた。在留資格がとれれば地域に残ってくれると思っていたため、(受け入れ促進の担当としては)転居は予想外で、大きなショックだった。何かをしないと将来は大変だという危機感につながった。

・企業・自治体などが一体となって対策へ乗り出した。来日したばかりのベトナム人実習生に対して、ガイドが地域を案内。文化や歴史などの説明をし、地域に愛着を感じてもらうようにした。地元の食材を使った料理も味わってもらう。ベトナム人実習生の声「山と緑が多い、楽しい」。

・実習生たちの暮らしぶりをSNSで発信。母国の家族が安心して見届けることができる。周辺地域の人に協力を依頼することで、在留資格をとるための日本語教育も強化した。地域住民とも円滑なコミュニケーションをとる一助になっている。

・この地域が暮らしやすい、楽しいと思ってもらうことが大切。外国人が外国人として扱われるのではなく、コミュニティーの一員として受け入れられることが必要。地域の支え手が減るなかで、外国人と、地域の住民として一緒にくらしを支えるような社会にしていく必要がある。

・「ドイツ・台湾・韓国のほうが人気。日本は第一希望にならない」という背景から、賃金の改善も必要。実習生に聞いた「日本の良さ」としては、「安全で安心して過ごせる」「周りの人がよくしてくれる」が挙げられている。日本が選ばれる国になるための糸口になりそうな要素ではないか。

・(専門家)全国的にも上田市のような取り組みの例は珍しい。実習生はいつか帰るものという認識があり、上田市のような大きな取り組みにはなりにくかったという面がある。

これらの内容は、冒頭の企業様のお話に通じるものがあります。改めて、次の2つのポイントが指摘できるのではないかと考えます。

・同じ貢献をしている人に対しては、同じ賃金(対価)を支払う。そして、賃上げを実現しその水準を年々あげていく。

・国籍の別によらず、コミュニティー(組織)の一員として受け入れ、ともにそのコミュニティーを支える存在として協業していく。

このことは、外国人材の採用・育成に限ったテーマではないと思います。

例えば、今月12日に発表された世界経済フォーラム(WEF)による男女平等の実現度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は調査対象の146カ国中118位となったそうです。過去最低だった前年の125位より改善したものの、まだ低位のままです。

6月13日の日経新聞記事「日本、賃金格差の是正急務 男女平等118位でG7内最下位 EUは企業に改善義務」の中で、次のように紹介されています。(一部抜粋)

主要7カ国(G7)では最下位で、中国(106位)や韓国(94位)より劣る。衆院議員の女性比率は10%にとどまる。経済分野は120位と前年(123位)とほぼ横ばいだった。指標となる女性管理職比率は17.1%と低い。同一労働での賃金格差や推定所得の差も大きかった。

女性の労働意欲を高め雇用者を増やすためにも不合理な賃金格差の解消は必要だ。経済協力開発機構(OECD)の2022年のデータによれば、日本は男性の賃金を100とすると、女性は78.7しか稼いでいない。この格差はOECD平均の2倍近い。

日本でも賃金体系の透明性を高める取り組みが広がっている。メルカリは23年、同じ職種、等級でも男女で7%の差があったと公表した。「説明できない格差」と結論づけ、23年、対象社員にはベースアップを実施し2.5%まで縮小させた。

中途採用が9割以上を占め、入社時の報酬は前職の給与を参考に決めていた。女性の方が賃金が低かったり、希望年収を低めに設定したりする傾向があり、入社時に9%の差があったという。採用時に前職の給与を参照しないように変えた。

資生堂の国内グループの22年の賃金差は管理職で男性が100とした場合、女性は96だった。21年から横ばいだった。管理職以外は88で3ポイント上がった。21年にジョブ型の人事制度を導入し、能力に応じてキャリアアップする体制にしたことが格差縮小につながった。

政府は22年7月、従業員が301人以上いる企業に開示を義務付けた。101人以上の企業への対象拡大も検討する。

「説明できない格差」とは、職能、役割遂行、成果など、その会社が定義する何らかの尺度で「同じ貢献価値」とみなされても、賃金になぜか差異があって、その差異が説明できない、ということです。これでは、「女性活躍」などを標榜していても、当然ながら限界があります。

そのうえで、結果を開示し改善に向けて具体的な対策をとっている記事中のメルカリや資生堂は、国内でも先進的な企業だと言えると思われます。

同記事によると、「ジェンダー・ギャップ指数」が良好とされる欧州諸国でも、性別間の賃金の不公平は克服できていないそうです。EUは23年、域内の企業に同一労働同一賃金の強化を義務付ける指令を出し、従業員100人以上の企業で正当な理由がない男女格差が5%以上ある場合は是正を求める、と紹介しています。逆に言うと、そのことが実現できていない状況がまだ多く見られるということになります。

国籍や性別などの属性に左右されない同一労働同一賃金は、なかなか実現が難しい、よって注意深く現状把握し具体策を実行すべきテーマである、と言えそうです。

<まとめ>
同一労働同一賃金の考え方で、コミュニティー(組織)を支える一員と認識して人材を受け入れる。

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