高齢世帯の貯蓄から考える

5月2日の日経新聞で「働く高齢者の貯蓄増加 消費・投資へ施策必要」というタイトルの記事が掲載されました。勤労者を中心に、高齢者の貯蓄が増えていることについて取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

総務省の22年の家計調査によると、2人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上で働いている世帯の収入は月45万5千円だった。そのうち勤め先からの収入が27万7千円を占めた。

消費支出と税・社会保険料の支払いを合わせた額は35万2千円だった。黒字額は10万2千円で、それに手持ちの現金などを加えた貯蓄に充てた額は11万3千円にのぼった。12年の3万2千円から3.4倍に増えた。

12年の統計と比べ、世帯収入も5万円あまり増えた。勤め先収入は3万円弱増え、受け取る公的年金も2万円ほど多くなった。この10年間で支出はおおむね変化がなく、収支は改善したことになる。パートやアルバイトで働く配偶者が増えるなどして世帯収入が増えているようだ。

総務省の労働力調査によると65~69歳の就業率は12年の37.1%から21年に50.3%まで上昇した。厚生労働省は19年の健康寿命は男性で72.68歳、女性で75.38歳と見積もる。健康寿命が伸びて高齢者が働きやすい環境は整ってきた。

日銀の資金循環統計によると現在、家計の金融資産残高は2000兆円を上回る。そのうち家計の預貯金は1000兆円ほどになる。総務省の全国家計構造調査や家計調査をもとに、家計の預貯金について21年時点での世帯主年齢別の保有額を推計すると、70歳以上は350兆円超、60~69歳は260兆円超となり、60歳以上で600兆円を上回る。預貯金全体に占める割合も64%に達する。

高齢世帯が貯蓄を増やそうとするのは自身の選択だが、日本経済全体でみたときに資産が動きにくくなる点が問題となる。

たとえば高齢世帯の預貯金が投資に向かう動きは鈍い。家計調査をみると、1世帯あたりの貯蓄に占める有価証券の割合は21年時点で60歳代が16%、70歳以上が17%にとどまる。普通預金や定期預金が全体の6割強を占め、10年前とほとんど変わらない。

高齢者自身の消費意欲も弱い。23年4月時点で消費者態度指数は60歳代が33.1、70歳以上が34.1で、29歳以下の39.8や30歳代の38.3を下回る。

高齢者から若い世代への資産の移転もなかなか進まない。高齢化が進むなかで亡くなった高齢者の相続相手もまた比較的高い年齢層という構図になりつつある。

財務省によると財産を残して亡くなった被相続人が80歳以上だった割合は19年で72%まで高まった。相続したのは50歳以上が多いとみられる。相続した財産価額のうち有価証券と現金・預貯金は20年分で8.5兆円で、10年前の4.1兆円から倍増した。

同記事に関連して、2つのことを考えました。ひとつは、現預金の滞留・成長の伸び悩みという事象が、自社の中でも起こっていないかということです。

時々、「日本の債務残高は1100兆円以上で、GDP(国内総生産)の2倍を超えており、主要先進国の中でも、かなりの高水準」と言われることがあります。その一方で、上記の通り家計の現預金がほぼ同額あります。家計以外にも現預金は存在しています。

よって、理論上は、国内の現預金で国の債務をすべて帳消しにすることも可能と例えることができます(実際にはそんなことは実行できませんが)。ある種余力があると表現できるこの財務状態が、日本国債と円通貨への信認になっている一因と言えます。

しかしながら、理想的な状態とは言えません。

・GDP(国内総生産=国の生み出す付加価値の合計)が伸び悩んでいるとはいえ、少しずつ増えてはいる
・その中で、現預金を中心とする金融資産が積みあがり続けている。つまりは、付加価値の伸び分も新たな投資に向けられていない
・結果として、GDP(国内総生産=国の生み出す付加価値の合計)が他国に比べて伸び悩んでいる

これを企業に例えると、次のような感じです。

・企業の生み出す付加価値が微増
・付加価値増加分も現預金などの積みあがりに回り、新たな投資に向けられていない
・結果として、事業の拡大・発展が他社に比べて伸び悩んでいる

安全性の確保のために、十分なキャッシュを確保することは、経営にとって最優先事項です。そのうえで、必要以上にキャッシュを滞留させて投資に向けられていなければ、企業は発展しません。今キャッシュを生んでいる事業も投資なしではいずれ環境変化から取り残され、キャッシュを生みにくくなっていきます。そのようなじり貧のスパイラルに陥っていないか、振り返ってみることが必要だと思います。

上記記事の関連では、高齢者が貯蓄を増やすかどうかは個人の自由ですが、ある程度投資や消費で社会に対して支出して、その支出から新たな付加価値を生む活動につなげていくというのが、経済活性化には欠かせない視点だと言えます。他国のほうが、こうした動きが活発である点が、経済発展の差異の一因になっていると想定できます。

もうひとつは、今後の事業機会を見出せるのではないかということです。

上記記事にあるような、高齢者の貯蓄志向は簡単には変わらないと思われます。そのうえで、今後は次のような環境変化も想定されます。

・健康寿命が上がり、さらに活動的なアクティブシニアが増えていく
・高齢者のキャリア・就業活動がさらに広がっていき、これまで以上に高齢者の所得が増える
・「貯蓄から投資」の概念に慣れた世代が、高齢者になっていく
・国の施策も、休眠資産の社会への還元や世代間の移転を促すものが増えている
・以上などから、高齢者の支出意欲は膨らんでいくのではないか

シニア層の需要を掘り起こす商品・サービスを開拓できれば、有望な展開になることも想定できるのではないか。そのように考えた次第です。

<まとめ>
現預金の貯蓄は重要だが、投資に回すことも重要

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