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取引先の便益を高める

3月20日の日経新聞で「ホンダ、金型を一括購入に 中小の資金繰り支援 金利負担を抑制」というタイトルの記事が掲載されました。支払い条件を取引先が有利になるように変更するという内容です。

同記事を抜粋してみます。

ホンダは取引先の資金繰りを支援するため、車部品の製造に使う金型の購入代金を原則一括払いに変更する。日銀のマイナス金利政策解除で今後、金利の上昇が見込まれる。供給網の競争力を引き上げる狙いがあり、金利負担を抑えられれば取引先の中小を含む部品メーカーの賃上げ余力の向上につながる。

金型は金属で作った型枠で部品を製造するプレス加工などで使い、車メーカーの発注で製造するケースが多い。品質要求を満たすため、高額な費用をかけて精緻な金型を用意する必要がある。費用は車メーカーが負担するが、投資規模は数億円にのぼる場合もある。

ホンダは金型の費用の負担分について、2025年3月期から一括払いに変える検討に入った。主要な部品サプライヤー側に伝えた。従来は24回の分割払いなどを慣例としてきた。この場合、経営規模の小さい部品会社にとっては資金繰りの負担が大きかった。

日本銀行は19日、マイナス金利政策の解除を決定しました。17年ぶりの「利上げ」となります。今後どのぐらいのペースで利上げが進んでいくのかはわかりませんが、これまでより高くなっていくことは確かです。借り手にとって金利負担が増えていくことは、間違いないはずです。

借り入れへの依存度が大きい会社としては、自社の借入規模なら金利上昇の影響をどの程度受けそうなのかの想定と、それに応じた規模の見直しなども求められそうです。

同記事から、2つのことを考えました。ひとつは、資金繰りに関する見直しは余裕がある時に行うのが有効ということです。

同記事のような見直しは、買い手側に余裕のある時だからこそできる提案だと思います。自社にも余裕がなくなってくれば、自社の財務マネジメントが優先になります。企業収益の好調な時にこそ、財務マネジメントの見直しをしておくべきなのだと思います。

もうひとつは、取引先の相手にとって有利な環境づくりに協力することの大切さです。

同記事の例で言えば、車メーカーにとって部品メーカーから安定して部品の供給を受けることは自社の死活問題です。

3月6の日経新聞「サプライチェーンのリスク管理(4) グローバル化と集中化の課題」では、グローバル化と集中化によって、自社やサプライチェーン内のリスクを増幅させていると指摘しています。一部抜粋してみます。

海外輸出、海外調達、海外生産など、企業活動のグローバル化が進んでいます。経済産業省によると、日本の製造業の海外生産比率は2012年度は20.3%でしたが、21年度は25.8%です。中でも自動車産業を含む輸送機械産業は47.0%に達しています。

企業活動のグローバル化に伴い、サプライチェーンは国境を越え、より複雑になりました。サプライチェーン・マネジメント(SCM)は駅伝や伝言ゲームに例えられます。グローバル化は、駅伝であれば1人が走る距離が長くなったり、走者の数が増えたりすることです。つまずいて転ぶ、タスキを落とすといった危険性が高まります。伝言ゲームであれば、聞き間違えや異なるニュアンスで理解する恐れがあるのです。

また、グローバル化したサプライチェーンは、放っておくと集中化する傾向があります。企業は集中生産や集中購買などを行うことで、スケールメリットの獲得を目指すからです。しかし、過度な集中化はリスクを大きくします。

第1は開発の集中化です。世界的に統一された図面で製品開発を行うほうが効率的と考えられますが、実際は各地域で調達される原材料に適した図面や生産技術で生産するほうが効率的な場合があります。

第2は生産の集中化です。工場には最適な生産規模があります。生産能力に限りがある場合、まとめることでかえってコストが増す恐れがあります。

第3は部品調達の集中化です。まとめ発注による取引先の集約は、取引先の優勝劣敗を招きます。競争に敗れた取引先が市場から撤退し、取引先の寡占化が進めば、取引先の交渉力が強くなり、自社は足元を見られ、不利な条件を受け入れざるを得なくなります。

駅伝や伝言ゲームに例えると、集中化するということは、控え選手がいないということです。誰かが病気などで参加できない場合、競技やゲームを棄権することになります。

部品サプライヤーが減ることは、上記の例でレギュラー選手・控え選手が減っていくということです。自社が取引できる部品サプライヤーの数には限界があり、多すぎてもうまくいかなくなりますが、少なくなると供給危機を招きます。よって、自社にとって有力なサプライヤーを、控え選手を含めて一定数維持することは、自社の危機管理を行ううえでも有益です。

冒頭の記事内容について、買い手側のほうに一括払いするに足る十分な資金力があれば、買い手にとって財務上のデメリットはほとんどありません。その間、先に一括支払うことによって手元から現金が早く出ていき、わずかな預金金利収入が得られなくなるなどのデメリットもあるのかもしれませんが、それで供給網が維持できる可能性が高まるなら安い投資です。

一方の部品サブライヤー側にとっては、とてもありがたいことです。金策に走る場面や不安を緩和でき、製品づくりにより集中できることにもつながります。

自社に大きな負担なくできることで、相手側にそれ以上のメリットがある。それによって自社の危機管理能力も高まる。余裕のある時にこそWin-Winを目指した取り組みが進めやすいということを、改めて感じた次第です。

<まとめ>
余裕のある時に、相手の便益を高める提案をしWin-Winを目指すことを進める。


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